第3話 勇者の収入
「とりあえず歩くか…。
なんと言うか買い物も命がけなんだな…。
ところでライフリートよ。次の町はどこにあるんだ?魔物は?」
「魔物は…わからん。とりあえず、町の周りにも多少はいるかもしれんが、1週間に1回くらいスライムが発生したり…数年に1度犬鬼がわいたりする程度かな。とりあえず話題として出る事は稀だな。
あと、政治的な活動するならアメリアの首都に行かなければならないから…北に行かないといかんな。一応北にトナリの村があるから先ずはそこに行けば良いかな。しかし、首都への道は厳しいらしいぞ?抜けなきゃいけないらしい森に入ると土鬼や犬鬼はともかく、狸鬼や豚鬼とか出るらしいし…。しかも、それから先は知らん。基本的に馬車でしか通らないらしいし、徒歩で抜けたと言う話も聞かない」
「成る程、勇者養成国と違って…旅立つ者に不利があるわけだな?」
「そもそも、その勇者養成国ってのが信じられない程のお膳立てがされている訳だがな。俺が魔王ならば速攻で潰す。復活用の教会と僧侶を皆殺しにするぞ」
「それならば誰も旅立たないだろう?我が国の僕ちゃんもそのぐらいのお膳立てがあって始めて旅立つんだ」
「この国の連中もそんな感じで町の外に行く者は少ない。主に町の外で生計を立てる者をわざわざ冒険者として呼ぶ程にな。そして、この町に冒険者はほぼいない。冒険者用の酒場もない。正直この町でやらなければならない事はもうない。それどころか町を出る資金を鋼鉄剣につぎ込んだ相棒は半分詰んでるとも言えるかもな」
革屋のおっさんの話がクソ長かったからか、段々と陽が傾いて影が横向きになってきた。そろそろ宿の心配をしなければならないだろう。しかし、金がない。
「………」
「………」
「…このためにハイドレザーコートを買ったのだよ、ライフリート君」
「ウソこけ…」
胸から顔を出しているライフリートは白目を剥いている。バカにしたような顔だ。
「あの…」
「ん?」
目の前には妙齢のご婦人の姿がある。何ぞ、私に声をかけても支払うものは身体しかないぞ?続く相手の問いを待つ。
「もし失礼でなければ、今晩家に泊まっていっていただけないでしょうか?」
改めて身体をなめ回すように見た。
「失礼ですがご主人とかは…?」
「はい、夫と息子がおります」
「あー、いやその…(どうすれば良いんだライフリート!)」
(いや、お前の頭の中にあるすべての想像は腐りきってる程に外れている。この女は多分その息子にお前の世界の話をして欲しいんだと思う)
「勿論だ婦人!私の口はよく回る口だからな!退屈させない話をしてやろう!」
「本当ですか!有難うございます!」
「任せなさい!」
連れられるままに行くとかなり裕福そうな家に連れてこられた。どうやら話を聞くに異世界からきた者はこの世界にない知識を多数持っているのでいざとなれば話をするだけで生活が出来るようだ。
そのためこの町でも家に泊まってくれるのはかなり有り難いらしく、召喚された勇者に話しかけられる人も抽選で選ばれるらしい。そもそも話しかけちゃダメなのか…。
精霊祭で召喚された勇者達は殆どこんな形で宿のお世話になるらしいが、稀に凶暴すぎて泊めたくない・抽選に当たった人が貧しくて泊められない、泊まらないで宿へ行く等のイレギュラーはあるらしい。今回そのイレギュラーがあったらしく“漆黒の勇者”なるヤバイ奴が召喚されたらしい。なんでもそいつに話しかけられる権利が当たった奴は、召喚される様子を見てしょんべんチビったらしいから相当ヤバイんだろうとの事だ。
あと、この町の外で元の世界の知識を話すと最悪殺される事もあるらしいので、なるべくは黙っておいた方がいいと言われた。
宿代は「ももたろう」「うらしまたろう」「きんたろう」の太郎三部作に「もも次郎」「浦島二郎」「二宮金次郎」の次郎三部作にしてやった。そのうち2つは俺作何だが多分気づいてない。
ちび助息子はだいぶ喜んだらしい。
朝出掛ける際に婦人より昼御飯の弁当を貰った。息子からは小遣いの100Gを貰った。子供から金を巻き上げるなって?この世界のためだからな、ありがたくいただいておこうぞ。
さて…本日10月2日の朝。再びの旅立ちになるが先ずはどこに行けば良いのか。手元には弁当。100G。
「勇者様、昨日は有難うございます。うちの子も相当楽しかったようです。ところで何か困り事でもありますか?」
宛もなく散歩をしていると昨日の人妻の夫に声をかけられる。こいつ無職か?
「ああ、冒険に旅立ちたい気分なんだが、いきなり北に向かうのも何なので…少しの間この辺で魔物でも退治して回ろうかと思ってね!」
「この辺ですか…うーん。この辺でしたら西の荒野に巨人鬼が彷徨いていると聞きますが、少しばかり危険かもしれません」
(少しじゃなくて間違いなく出会ったら死ぬからな。世界の基準で言えば歩くダンプカーがパワーショベルの腕を背負ってるようなもんだからな!間違っても西には行くなよ)
「ふむふむ」
「東に行きましたら川がありますので、そこならスライムだか何だかが時々発生しますね。その辺りの山奥に行けば犬鬼位なら…時々」
(感知使えるから犬鬼位の索敵は捗ると思うぞ。スライムはあまり熱がないから遠距離は難しいがな)
「ありがとうございました。まずは東の川に行って様子を見てこようと思います」
「おお、そうですか。もしかしたら家内もいるかもしれませんね。洗濯やらに行くはずですから…」
「はは、会ったなら挨拶しておきます」
「では、これで失礼します。勇者様の行く末に加護があります様に」
(まぁ、スライムやら犬鬼狩って儲けはないと思うが、腕ならしにはなるかもな。相棒は適当な動物すら殺した事無いんだろ?)
「鶏と…鼠なら殺した」
(じゃあ昨日泊まった坊やと同じようなもんじゃないか?)
「まぁ、無闇な殺生はやるまいよ。この世界は魔物に脅かされてるんだろう?」
(多いところはな。ここは数年に1度位しか死人はでない。時々主婦が洗濯に夢中になりすぎてスライムにやられて火傷するくらい)
「主婦か、あ、あの人妻の夫に職業聞くの忘れたぜ…」
(どうでもいいだろ、誰が無職でも)
と、他愛もない会話をしながら町から歩く事20分、川が見えてきてちらほらと主婦が洗濯をしている。その中の見慣れた人妻の姿がある。
「こんにちは」
「あ、勇者様。どうも、昨日は有り難う御座いました。うちの子もとても喜んでおりました…何かご用ですか?」
「なに、この辺にスライムだか犬鬼がいると聞いてな…」
格好つけて言うも反応が作り笑顔の微笑とはどういう事だ。
確かにワイザードリィのスライムかドラクヱのスライムかでだいぶ強さは違うが魔物ってさほどの驚異ではないのか?
(あ、多分スライムが居るな…。上流に30m程向かった所だ)
「上の方ににスライムがいるな。狩ってくる…」
「はぁ…」
多少上流の人の居ない川辺、木々の繁る場所の隅にそれはいた。半透明なゼラチン質の身体の中心に核のような丸い物。
「ここか?これか?」
爆炎の勇者は鋼鉄の剣を振りかぶってスライムに叩き付ける!
「そりゃ!」
スライムはグチャリと液が飛び散り核ごと真っ二つになった。鋼鉄の剣は勢い余って10cm程地面に突き刺さっている。明らかなオーバーキルだ。
「あっけないな」
(そもそもスライムなんて大きめの石投げて潰したり、木の枝でつついても…まぁ言えば子どもでも退治できるぞ)
「成る程な、こりゃあ数年に1度しか死人が出ない訳だわ」
(酔っ払って死ぬまで溶かされた爺さんとか、家出して山で迷子になった子どもがコボルトに…なんて事件でしか…な。ここは平和だよ。魔王城から1番近い町とは思えない程にな)
「最終位置が見える初期位置って所か」
(しかしまぁ、魔王なんて危ない奴は漆黒の勇者に任せておけば良いんだよ。魔王討伐に行った勇者は1人も戻って来やしねぇ。多分巨人のエサだろうな)
「まぁ、さておき…お金も宝石も経験値もドロップしないし、これを町にあった解体屋って所に持ってけば良いんだな?」
(さぁ?)
「200Gくらいにはなるかな?」
(さぁ?)
爆炎の勇者は始めての獲物に興奮し、スキップしながら解体屋と書かれた店へと向かう。婦人達の視線が熱いぜ!はじめは素手で持つのを嫌がったスライムではあるが、振り回しているうちに楽しくなって鼻歌を歌うほどとなった。日曜日の夕方に流れる国民的アニメのテーマ。
「スゥ~ライム~は愉っ快だなぁ~」
ヴン…ヴン…ヴン…
スタタン…スタタン…スタタン…スタタン!
(デューワー)
◇ ◇ ◇ ◇
川はギリギリ町から見える程の距離なので、さして歩ずとも辿り着ける位置にあった。スライムを振り回しつつ解体屋へと入る。
解体屋「いやいやいや、こんなの引き取れないよ!スライムは体液と核しか引き取れない。核は真っ二つに割れてるし、体液は全部流してきたでしょ?
あと、あってもスライムゼリーは50ccで50G、核は1個40Gだよ!200Gは流石に高いよ!」
「な…!安い!これではいつまでたっても次の武器が買えない…ではないか!」
「そんな事言われても…仮にその…千切れたぶよぶよ買い取ったとして何に使うんだ?」
「…枕とか?夏場ひんやりしそうじゃないか?」
「いや、一晩で腐るよ」
「ステーキ?」
「それかじってみろよ」
「…ヴォエ!」
「どうだ?火を通せば食えそうか?」
「灰汁がすごい…」
「だろ…?」
「…」
(もしかして私クレーマー?)
「…」
(もしかしなくても、相棒)
「なぁ、もっと強い魔物が居る場所とか効率の良い仕事はないのか?」
「西に行けばオーガが彷徨いてる荒野があるけど、3m以上の巨人が武器もって歩いてるんだ、勇者様には倒せっこないよ」
「なぬう?」
「ああ、そうだ。北にあるトナリの村なら冒険者向けの依頼は多いぞ、ここは近くに魔王城しか無いし、それで強すぎる魔物か弱過ぎる魔物しか居ないからな…。ここは観光の町だよ観光」
「わ…わかった!じゃあ犬鬼は…何を買い取ってくれるんだ?」
「犬鬼は…睾丸と犬歯とまぁ爪もかな。全部でも大した金額にはならないが…」
「おっけー、何とか犬鬼さんを狩って来る」
「犬鬼かぁ…まぁ、探せばいるかもな。それより別な仕事した方が儲かる気がするぞ?勇者は魔物を狩らなければいけないって決まりでもあるのか?」
「有るんだ!我が国の決まりには…あるんだ…!」
「止めはしないよ」
「今日中に狩ってくるぜ!あばよっ!」
そろそろ昼御飯の支度を始める食堂や町の人々を見て早足で先程の川へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇