第2話 話の長い革鎧屋
(良いから少しは防具も見とけって、死んでからじゃあ遅いんだから……)
「まぁ、既に買う金は無いんだけどな!」
(ちったぁ考えろよ……!あ、ここ革鎧屋だぞ、ほら、とりあえず見てみろよ)
「まぁ、入ってやろう。買うかどうかは気分次第だな」
「いらっしゃいませ」
落ち着いた店員の挨拶は遠い記憶にある日本の定食屋のそれと同じようなものだった。しかし、店内はところ狭しと革製品のひしめき合う異世界の店そのものだった。
「勇者様でいらっしゃいますか?」
「うむ。私は爆炎の勇者と言う。革に興味はないが以降宜しく頼むぞ」
「はは、ご冗談の上手い勇者様なのですね。もし宜しければ革の鎧、持ってみますか?」
店員が両手に持った革の鎧を差し出してくる。当たり前のように差し出した鎧を爆炎の勇者は当たり前のように受け取ってしまった。
のせられている……!爆炎の勇者は直感的に察知したが、後の祭りであった。
「革の鎧ってのは以外に軽いんだな!」
「そうですね。基本的に革製品は他の素材に比べて軽いです。
革製品は主にハードレザーとソフトレザー、そしてハイドレザーの三種類がありまして、ハードレザー製品は狼の爪くらいまでなら防げますが、ソフトレザー製品は防げても小動物の爪程度です。ハイドレザーはいわゆる毛皮の事を指しますので、防御力はハードレザーに僅かに劣ります。当店では便宜上ハイドレザーと言っておりますが、毛がついているか革は本来ハイドレザーとは言いません。とりあえず、試着しながら説明してみましょうか」
言われるがままに鎧のコーナーに案内される。
(こいつ……やるな)
(案内位されてやれよ)
「こちらがソフトレザーアーマーのコーナーです。サイズは120~240迄10刻みで用意しています。それぞれのサイズは2着程度しかないので、買いたい時の欠品も多くあります。欠品の場合は半日~1日程度待って貰えばうちの職人に作らせます。また、太め細めの調整もいたします。女性用は基本的にオーダーメイドになります」
「女性……ああ、これか」
爆炎の勇者は胸の前でメロン2つを抱くような仕草をする。
店員はそれに答えて胸元で洗濯板で洗濯をする素振りを見せる。
(ああ、そう言えば店の前で洗濯板が掃き掃除してたな。あれ奥さんか)
店員は笑顔を崩さず右手の人差し指一本を自身の口の前に差し出す。黙っておいてね(はーと)と言うサインに他ならない。
(この手法は吊り橋効果ってんだぜ、ライフリート。危険な事を俺と共有して俺の心の扉と財布の紐をこじ開けようとしてやがる)
(何が危険なんだ相棒)
(世の中の洗濯板の殆んどがヒステリックマシーンって事さ)
(よく分からんが相棒の経験にろくでもない事が混ざってるって所だけは分かったぜ)
(なぁ……ライフリート、いや、何でもない)
(ああ、話は変わるが、洗濯板ならそもそも特注品じゃなくていいのでは?)
(話変わってねぇ……)
(って事は……特注の話は嘘か、あいつ策士だな)
(今更かよ…)
「では実際に着てみましょうか。はい、こちらが良いサイズでしょうか」
「いやぁ、見るだけで良いです」
「ソフトレザーアーマーはいわゆる革の服です。チョッと突き飛ばす程度の衝撃を吸収したり、小動物程度の爪なら防げます。しかし、65cm程度の獣の爪あたりから防ぎきれなくなり、貫通します。場所によっては致命傷を受ける可能性があります。しかし、服に近い重さなので、疲れません。値段は安めです。近くの森での採集や、狩猟するくらいならば軽くて動きやすいソフトレザーアーマーの方が良いでしょう。傷ついたり破れたりした場合も多少なら直す事ができます。
防御力が不安な方は急所を二重にしたソフトレザーアーマー(改)も試験的に作ってあります。
普段着の重ね着用に一部肉抜きしてあるソフトレザーアーマー(-)も販売を開始しました。金属鎧の下に着る緩衝服にも丁度良いですよ。その際はダブレットとか呼ぶ事もありますね。
また、弓を使われる方には肩の動きを阻害しないソフトレザーアーマー(弓)もあります。
触ってみますか?」
爆炎の勇者はのせられてソフトレザーをもみもみしている。
「案外丈夫だな。」
「手先に装備する革手袋もあります。旅先では色々な物を触りますので、手袋は案外重宝します。また、手先の怪我は戦力の低下が予想されるので、戦いには必須です。
ソフトレザーヘルム(革の帽子)は無いよりはマシ程度に頭を保護します。しかし、狭い洞窟で頭を岩にぶつけたときなど、地味に着けていて良かったと言う場面があります」
「しっかし、完全に見た目に気を使ってないね。コレ」
「実用性重視です。
あと靴底に薄い板を張ったレザーブーツ何てのもあります。裸足やサンダルで旅に行く人はあまりおりません。攻撃を受けた際に転んだり、とがった岩で怪我をする可能性が高いからです。命の危険がありますので、この程度の足装備はしていくべきです。
あと、防寒着兼軽い防具としてソフトレザーマントがあります。身体を隠したり、気休め程度に背後を守ったり出来ます。夏場であれば、野営のための毛布や布団を持って歩く必要がないというメリットがあります。そもそも布の類いはいざという時に色々な用途があります。
基本的に攻撃は回避するに限ります。スライムや犬鬼につけられた怪我でも、場合によっては数日間は冒険できなくなる可能性もあります。また、薬草や魔法による回復もタダではありません。なので、はじめのうちは金属鎧なんかよりはこちらの商品がおすすめです」
「なるほどね、金属重いしね!」
爆炎の勇者は鋼鉄の剣を振り回す。
「次はこちら。ハードレザーアーマーです。これは革をボイルしたり、膠を使って重ね合わせて硬く仕上げてありますので、訓練されてない青年の拳撃くらいの衝撃なら分散して打撲を負う事なく耐えられます。狼の爪撃も貫通しない事が多いです。しかし、硬いので、慣れるまでは動きづらい事がありますね。また、ソフトレザーより重いので、素早さや回避率が僅かに落ちますが、金属鎧と較べると格段に軽いです。回避重視の方針であれば、対素手でのオーク位までは現役で使用できますが、刃物で武装した豚鬼や、大きめの鳥女の爪撃にはバターのように裂かれます。
ハードレザーアーマーは先程のソフトレザーアーマーのように少し硬めに作っております(+)と、肉抜きしてある(-)と、弓兵向けの(弓)があります。
ハードレザーヘルムは転倒の際、下にとがった岩があった場合でも命を助けてくれる。まさに防具中の防具ですが、ダサいので皆着けたがりません。しかし、頭への衝撃耐性は真面目に考えないとサクサク死にます」
「初期装備でよくある奴だな。戦士装備の……まぁ開始数分で買い換えられる可愛そうな奴よ」
「それは、ご来店の勇者様のよく言う予約特典やらログインボーナスやらチートやら仲間の防具を売ったお金で、と言うやり方をもって行う非道な行為と聞いています。まさかお客様もそのような事を……?」
「いや……してない」
(相棒の記憶にはすけさんとプリンを裸棺桶にして装備を売っぱらったとあるが……)
(名前が気に入らなかったんだ……)
「ハードレザーガントレットは多少の器用さを犠牲に、怪我の多い手指の保護をいたします。一般青年の撃つ研いでいないショートソードの斬撃、杖の打撃くらいなら利用者を守ります。愛用者はかなり多いです。
ハードレザーは盾の素材としても使えるので、製品としてレザーバックラーがあります。緊急時に投石や弓矢をガードするのに向いています。ソフトレザー装備からハードレザーに移行する初心の冒険者が、始めに買うのはだいたいこれです。鉄製品よりはかなり安いですが、強い攻撃ですぐに破けてしまうので、コストは高めです。しかし、鉄よりは軽いので常に一定の需要があります。
ハードレザーの脚防具は靴と長靴と脛当を用意してあります。
靴は靴底に薄い木と革を使っており、爪先も重ねた革で保護してますので、足裏を含む防御力がソフトレザーと較べて段違いです。但し、蒸れます。
長靴は脛を半分ほどガードしますので、藪からの蛇や虎挟みトラップ、また棒などによる脚払いに対してかなりの効果を持ちます。但し、かなり蒸れます。
脛当は急所でもある脛を保護します。長靴の上からも付けられます。脚へのダメージは死に直結します。避ける脚逃げる脚は最後まで守りきりましょう。
ハードレザーを使い始めるにあたって、はじめのうちはソフトレザーと組み合わせて使うと良いでしょう。用事のある場所、活動時間によって着替えて行動すると労力とコストを抑えられます。それでも、対豚鬼からは防御力に不安が出てきます」
爆炎の勇者「巨人鬼とか豚鬼とか強さの基準が分からんがまぁ……適当に生きてればいずれ会うだろ」
店員「適当に会った際は死ぬ可能性がございますのでお気をつけ下さい。特にオーガに遭遇したら全身鋼鉄の装備に身を包んだ軍隊でもない限りほぼ死ぬかと思います」
爆炎の勇者「は……はぃ」
店員「続けます……最後はハイドレザーですね。これはいわゆる毛皮です。防寒性能が高いので、場所によってはかなり重宝します。
ハイドレザーブレイサーは毛皮の手袋でようは防寒具です。
ハイドレザーマントもソフトレザーより防寒に特化しています。
また、マントにはハイドレザーフードを着けることが出来ます。
ハイドレザーブーツは靴底の毛で踏ん張りが効かない場所があります。氷上の活動を想定しておりますので、毛が生えているのですが、使い分けが必要な場合があります。それだけ気を付ければ寒冷地には必須アイテムです。
ハイドレザーコートはある程度全身をカバーしますので、10月…今月位迄は、屋根のある野営地でそのまま野宿が出来ます。
武器として革の鞭が何種類かありますが、この辺は趣味の世界ですし、冒険の旅にはほぼ必要ないので割愛します。
豚鬼以上の想定敵を持つ場合は別の店の製品をお勧めしています。革製品はあくまで防寒具としての用途や、安全が確保されている場所での着用、長距離の旅や、金銭的な制限のある場合におすすめします」
店員は一息ついてやりきったように言葉を紡いだ。
「長くなりましたが……いかがでしょうか?」
爆炎の勇者「1,000Gしかないですけどハイドレザーコートが欲しいです」
店員「今回は特別に勉強させていただきますよ!今後ともご贔屓に!」
爆炎の勇者「ありがとうございますー」
店員はニコり、と笑って会計した。
◇1,000G支払った!
◇ハイドレザーコートを手に入れた!
ライフリートが学生服の上から羽織ったハイドレザーコートから顔を出してからかうようにして話し掛ける。
「乗せられてんじゃねーか」
「うるせー!はじめから買う予定だったんだ!ってかお前のために買ってやったんじゃねーか!ありがたく思え!」
……続く。
ストックがあるので、週に1~2回投稿したいと思います。以降も宜しくお願いします。