第1話 ライフリートは俺物語
物語は真っ白な部屋で学生服の男が目を覚ます所から始まる。男は後に爆炎の勇者と呼ばれる者で、今はまだ名前すらない転移者の1人―――
普段と違う目覚めに若干の戸惑いを覚えつつ、部屋を見渡す。成る程、これが誘拐と言う物か。ドッキリにしろ営利誘拐にしろ宇宙人による誘拐にしろ私は私の意図しない場所にいるらしい。部屋を見渡すと真っ白かつ真四角の部屋で、扉は1つ。灯りは部屋の壁に掛けられており、朧気ながら部屋の様子はわかるような感じだ。私はそ部屋の中心に胡座をかきながら坐っていた。
すると、部屋の出口と反対方向の灯りが床に落ちた。それは壁際より進んできて前方1mの場所に来て止まった。そこには焚き火程の火柱が上がっており、その中心に飯匙倩の様な蛇がとぐろを巻いて佇んでいた。その蛇の声だろうか、頭に直接話し掛けるような声で話し掛けてきた。
「我が名はライフリート。燃え盛る蛇の精霊なり…」
「ん?イフリートさんですか?」
「いや、ライフリートさんです。それはまた違う精霊です」
「あー、あなるほろあなるほろ……。そう言う事か」
「そう言う事だ」
「私は転移したのか。この世界の名は……世界か、格好いいな」
「相棒のいた世界って名前も格好良いぜ」
来て早速だが、私はこの異世界の全てを受け入れてしまった。この異世界の人々は所謂剣と魔法の……いや、鈍器と魔法の世界らしい。時代としては古代から中世の間…みたいだが、後に発掘されたらオーパーツになる様な場違いな物もちらほらあるみたいだ。
私がこの異世界に居る理由は……。
「ハジメの町の町長に召喚されたから?」
燃え盛る塊は答える。
「そうだ。相棒はあのクソ迷惑な町長に呼ばれて此処に来た。まぁ、説明の必要もないだろうが、俺はお前の相棒だ。一般的には使い魔とも言う。
俺と相棒は見えない糸で繋がってるから、俺の記憶と相棒の記憶はお互いに見放題検索し放題。
プライバシーは微塵もない。この異世界の言葉はわかるな?」
頭の中に他人のハードディスクがぶちこまれたような感覚と言えば良いか、その他人の感覚を使って異世界の言葉を話す。
「ああ、分かる。話すとなると少しぎこちない気がするがな。しかし、便利だなこれ」
「ただ召喚されただけじゃあ言葉も分からないし、この異世界の常識も分からないからな。相棒を召喚した町長の粋な計らいだよ。具体的な事は検索しなきゃ分からんだろうがな」
「私を召喚した理由…、つまり町長からのお願いってのがなければ粋な計らいだが、用事を押し付けるために呼びつけたんだからこれは「必要経費」だな」
「全くだ。兎に角あの町長はこの小屋の外に居る。まぁ、会ってやってくれ」
「おう、しかしまぁ…何と言うか剣と魔法の世界に憧れはあった。楽しませて貰うぜ…!」
「鈍器の方が強いぜ相棒」
私はライフリートを名乗る蛇の精霊と会話をしつつ、この異世界でのはじめの一歩を踏み出した。
そして小部屋のドアを開けると…外の群衆が一斉にこちらを見る。
塊の中から2人の人間が抜け出して歩いてくる。どっちもジジイだと言われればジジイだが、ライフリートの記憶を覗き見るに町長がどっちのジジイかは分かる。もう1人は付き人らしい。その町長に向かって挨拶をかます。先手必勝、初撃は大切だ。
「ご機嫌よう町長」
「おお、勇者様。早速 使い魔を使いこなして居るみたいですな!言葉が大分達者ですぞ!」
クソジジイの形容詞そのままのハゲジジイが笑いながら話し掛けてくる。
そして、その横に居る付き人と言う名前の男が矢継ぎ早に捲し立てる。町長は挨拶だけで実務はこの付き人が仕切ってるらしい。
「でしたら話が早いです。もし宜しければこの国アメリアの政治的救済をお願い致します。政治的救済の定義については特に基準は設けておりませんので、元の世界の基準でお考えください。
そして、このアメリアの政治的救済が達成されようがされまいが勇者様は、666日後には元の世界に強制送還されますのでご心配なく。
また、もし勇者様が死亡した際も元いた世界に戻ります。何であれ戻る際には元の世界での時間経過はありません。なにか質問はございますか?」
「いや、無いかな。いざとなったらこのライフリートにでも聞くさ」
付き人は慣れた様子で懐から革袋を取り出して、俺の手に握らせる。
「ではこれを……!袋の中には56,000Gが入っております。旅銀には足りないかと思いますが、当面の資金としてお納め下さい」
「お、ありがとう。受け取っておく…ん」
頭に違和感が走る。
「名前……あれ?私の名前が……思い出せない」
付き人が慣れた様子ではあるが、気遣うような仕草で話し掛ける。
「名前は……此方でつけましょうか?」
(…こいつら、幾つか記憶を抜いてやがるな)
(相棒、落ち着け、確かホームシック対策だかなんだかで名前と前世の付き合いの部分をある程度は抜いてあると言ってたぜ)
空気の町長がふと口を開く。
「勇者様に憑いている精霊はライフリートでしたか?ならば火の勇者何てのはどうでしょうか?」
(らしいが、どうする?相棒)
「いや、爆炎の勇者で行こう」
「ライフリートじゃあ……火蜥蜴……位がいいとk……いや、まぁ良いでしょう。爆炎さん」
付き人の空気読め目線に気が付いた町長は爆炎の勇者の名前を認める事となった。
付き人と町長の背後でざわざわとモブ効果音を出している塊も「爆炎……爆炎の勇者もちゅもちゅ……ダサい……」と私の名付けを歓迎している。
「おう、じゃあ早速爆炎の勇者様は旅立つぜ」
笑顔の町長は道を譲ってこう言った。
「いってらっしゃいませ」
直ぐ様付き人が補足をしつつモーセの様に割られつつある群衆の方向へと誘導する。
「本日は勇者様の召喚の儀式を行う精霊祭となっております。町はお祭りを行ってますので、もし宜しければお楽しみください」
「おう、任せなさい!」
爆炎の勇者は町へと歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇
「おい、ライフリート、何かお前を使い魔にして何か他に得はあるか?と言うか特殊能力とかあるか?」
「ある。相棒に分かりやすく言うとパッシブスキルとして炎耐性+20と赤外線探知だ」
「+20ってのはどれくらいの耐性なんだ?」
「普通の人に比べて200%耐えられる。…まぁ鍛治場の親父とか消防士…ラーメンに指を突っ込んだり揚げ物中に油カスを素手で摘まんで捨てる…料理人が持ってるスキル位かな」
「大して意味ないじゃねーか!燃え盛る炎を食らっても平気って訳じゃないの!?ほら、お前燃えてるじゃん!」
「これは…見栄だ。相棒が目覚めてからマックス燃やし尽くしてるが、もうMPが切れる。…ふぅ。と言う事だ」
「消えたね。火」
「とりあえず歩くのが難儀だから相棒の中に入らせてもらうぜ」
ライフリートは飛び上がって私の胸の中にしゅるんと入っていった。繋がっているせいか吃驚もしない。
「…じゃあほら!火とか吹けないの⁉」
(ライター程度の火ならほぼ無限に出し続けられるが、それ以上は…無理だな。さっきの炎を身に纏うのは10分で1日分のMPが無くなるわ。それにあの炎、温度低いんだぜ)
「じゃあ探知は?」
(生き物の体温が遠くに居ても分かるってもんだ。焚き火とかに囲まれていても20m位ならどこに何が居るかわかるかな。何もない場所でそれほど気温がバラつかないなら100m以上探知できる)
「あー、それは良いな。じゃあどうするか、とりあえず一番高い武器を買って狩りでもするか。魔物……居るんだろう?」
(居る。魔物は居るが……恐らく…相棒の思ってるより狩りは甘くない、…感じがするな。町の外を彷徨いているモンスターは雑魚ばっかりと言う訳でもない。まぁ、俺が居るから雑魚狙いは可能ではあるが……)
「じゃあ武器に全振り出来るな。」
(56,000Gで高い武器か、普通の武器なら1,000G位で安いショートソードとかハンドメイスが売ってるはずだ。それ以上なら…ちょっと質の良いロングソードで5,000G、魔導具屋に行けばもっと質が高いものになるが、クソ高い。だが安い物なら買える筈だぞ)
「じゃあ魔導具屋で武器買おう。高かろうが浪漫だ」
(やめた方が良いと思うぜ相棒。魔導具は値段はクソ高いが性能は普通武器とさほど変わらない。1,000Gのショートソードが攻撃力10だとして100,000Gの魔法のショートソードの攻撃力が20とかだぞ?魔法の付与が燃費が悪いから高いだけで、効果はそこまで高くない)
「良く意味がわからん」
(じゃあショートソード(1,000G)と壊れにくいショートソード(10,000G)ならどっちを買うか?俺ならショートソード(1,000G)を2本買うね。そう言う事だ)
「ライフリートよ、私は壊れにくいショートソードを買うぞ?世の中品質がものを言う」
導かれるようにしてやって来た建物にはガラス製のショーウインドウが1面に広がっており、剣が交差する看板には異世界語で魔導具屋と書かれていた。
私はロマン溢れる店内に吸い込まれていった。
「いらっしゃいませ。勇者様でいらっしゃいますか?御召喚の儀式、お疲れ様でございます。何をお探しですか?」
「武器だ。何か良いのを見繕ってくれ」
「畏まりました。では此方は如何でしょうか?」
店主は待ってましたとばかりに3つの武器を差し出した。
エメラルドスティレット 39,000G
(毒属性魔力操作+1微毒付与)
祝福の銀の短剣 45,000G
(対アンデッドD+30%)
加重の鋼鉄剣+200g 55,000G
(自動修復+1)
「この加重の鋼鉄剣+200gって何だ?」
「これは鋼鉄で作った剣の威力そのままに、魔術回路にて重さを感じなくさせるような魔法が付与されております。実際は持ったままの重さより200gは重いのです。威力はそのままに少し軽い剣だと思って宜しいかと存じます」
「どれどれ……って重いじゃないか!」
「持ちました重さより200gは軽いのですが2,200gから200g引いた2,000gなので、見た目を考えるとあまり変わらないと言う方も居ります。
しかし、この剣の利点は軽さではなくコストにございます。長旅を重視して特に頑丈に作られました剣ですので、自動修復+1と合わさりまして相当の無理をしない限り折れません。更に刃こぼれや刃潰れも数日中には勝手に修復致しますので、長旅にお勧めでございます」
「わかった。じゃあ話を変えて一番強い武器は…?」
「それでしたら560,000Gの、加重の鋼鉄斧が強いかと存じます。これ以上高いとこの町ではなかなか買い手がつきませんので、これが精一杯でございます。
武器の説明としては体感の重さが5,000gから2,000gの半分以下になっておりますので、かなり軽く扱う事が出来るのですが、威力は斧そのままですので、持ち主が一般的な戦士であれば、片手の大振り一撃で鉄の鎧に致命傷を与える事が出来ます。更に、自動再生+2が付いておりますので、刃こぼれや刃潰れもほっておけば直る優れ物です。また研ぐ手間もかかりませんので、旅に向いております。先程の加重の鋼鉄剣の上位互換と考えれば分かりやすいかと」
(相棒、高いぜ)
「どう致しますか?」
(相棒、この56,000Gは食費とか宿とかも入ってるんだから、少しは残した方がいいぞ)
「加重の鋼鉄剣を下さい」
(こら、相棒~、聞いてるか?)
(まぁ、任せろ。ライフリートさんよ)
「55,000Gになりますが宜しいですか?」
「無論だ。その辺で稼いで直ぐにもっと良い武器を買いに来てやるよ、ほい、55,000G」
「ありがとうございます。それでは、またのお越しをお待ちしております……」
◇55,000G支払った!
◇加重の鋼鉄剣を手に入れた!
◇ ◇ ◇ ◇
(おい……防具はどうするんだ?その服で旅立つのか?ってか宿は?食事は?)
「まぁ何とかなるだろ」
(まぁ、何とかしろよ。召喚されて1日で死ぬのはごめんだ)
「因みに私が死んだらライフリートはどうなるんだ?」
(……。まぁ、魔物に殺されたんならその場で俺も殺されるわな。俺だけ逃げられたなら別だが)
「そうか……。確か私は死んでも元の世界の元の時間に戻るだけ何だよな」
(そうなるな。便利な召喚術だよ)
「じゃあちょっとだけなら防具屋に行ってやろう」
(ちょっとじゃなくて買えよ!)
「じゃあ行かない」
(子供か!)
……続く。
第2話は10日6時に予約投稿してあります。
・毎日何らかの小説を投稿する。
・同じ小説はなるべく連続して投稿しない。
・勇者のゆりかご系は1話5,000文字。
の自己ルールを設定して先月末より頑張っております。その中で「爆炎の勇者編」のストックは5話程です。早くて1日置き、遅くて1週間置きに投稿されるかと思います。切らさないように頑張りますので、宜しくお願いします。