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通学中に十字路で女の子とぶつかるのは死亡フラグ。

 ───恋愛フラグ、という言葉を知っているだろうか。

 ゲームや漫画などで、「もしかすればこれは恋愛に発展するのではないだろうか?」という期待や妄想を持った時に使う、一種のスラング。

 「フラグ」というのは、コンピュータ関係の用語で、aの条件を満たせばbという特定の命令が実行されるという意味だったと思う。


 恋愛フラグが立つ条件となると転校生に廊下でぶつかったり、遅刻しそうな時に角でパンをくわえた少女にぶつかったりと、いろいろある。


「…………はぁ」


 さて、俺の名前は川崎蓮多。今日から高校生で今は入学式に出席するため学校に向かっている。

 なぜ、俺が恋愛フラグという者を考えていたのか。……それは、やはりこれから始まる高校生活に桃色の青春を期待して───などというわけではなく、まったく逆だ。

 ───恋愛フラグが立たないためにはどうすればいいのだろうか、である。


 この考えがだれかに聞かれていたのなら「何言ってるんだお前」と首をかしげられるだろう。実際俺も何言っているのか分からん。


 だけど、この高校生活は中学生の時の経験から危険だと確信していた。


 考えてもみてほしい。

 席替えで隣になった女子はいつの間にか登校拒否になり、中学の時告白してきた女子は次の日どこか遠くに引っ越し、ある程度親しかったはずの男子は突然顔も合わせてくれなくなったらどう思う? 意味わかんねえだろ?


 それから中学を卒業した俺は、どうにかして親を説得し、他県に引っ越して一人暮らしすることになった。

 …………はぁ。


 そう考えながら通学路を気だるげに歩いていたが、狭い十字路で足を止める。


 ───思えばこんな道では毎日食パンをくわえたセーラー服の女の子にぶつかっていたような気がする。昼夜、夏冬、休日、どんな時ででも、だ。あいつ毎日が学校なのかな。


 引っ越して大分離れたはずだが、日頃の癖からか俺はそいつを警戒していた。


 壁に背をつけそっと覗き込む。誰もいない。

 だが、警戒を怠ることなかれ。誰もいなかったはずなのに一歩踏み出した瞬間気づけばぶつかっていただなんてよくあることだ。


「…………離れて通るか」


 何度も同じ轍を踏む俺ではない。三年間もこの体質と付き合っていれば、自然と学習する。いつもは避けていたが、無駄な体力を使いたくないので、離れていくことにしよう。


 ───さあ、川崎蓮多。勇気を出して一歩踏み出せ。


「ど、どいてくださいぃ──────ッ!」


 ───来た! ……って、え? なんでお前ここにいるの!?


 まさか本当にいるとは思わず、反応に遅れてしまったが大丈夫のはずだ。走っているとはいえ離れていれば避けられる───!?


「───ぐふぉあ!?」


 体が宙に吹っ飛んだような感覚。視界が上下反転する。

 あれ、こいつこんなに体当たり強かったっけ?


「か、はっ」


 地面に背中から落ち、肺の空気が一気に抜ける。一瞬意識が暗くなりだしたが、なんとか堪え顔を横に向ける。


 そこには───


「か、かかかかか川崎くん!? だ、大丈夫ですか!?」


 見覚えのあるどころか、毎日俺に体当たりをかましている少女がいた。その少女は自転車にまたがっていた。……そんなのありかよ。俺を殺す気か。


 ちなみに、彼女の足元には例に漏れず食べかけの食パンが落ちていた。そんなに食パン落としたいのかお前は。



 ***



 あの後、ボロボロになった体を引きずりなんとか学校に着いた。入学式の時は、その怪我のせいで周りに怪訝な目で見られていたが、特に何事もなく終わった。


「ふむ、今日は初めての登校日だから自己紹介をしてもらおう」


 ───さて、どうやって恋愛フラグという名の死亡フラグを回避しようか。

 とは言っても、だいたい対策は考えていたりする。

 フラグが乱立するというのなら、それが建つ状況を限りなく潰してしまえばいい。


「……どうも、川崎蓮多だ」


 無愛想に言えるように努め、最低限だけいうとすぐに席に座る。

 ───そう、『川崎蓮多ぼっち化計画』である。


 人と接することでフラグが建つというのならば、人間関係を持たなければいい。幸いここは中学生だった頃住んでいたところとは遠く離れた地。誰も違和感は持たないだろう。


 我ながら名案だぜ。これで平穏な高校生活が送れる!


「あれ、川崎くん。いつもと様子が違いますけどどうしたんですか?」


 そんな計画も一人の少女によって一瞬で崩壊する。


「な、なななななんでお前がいるんだよ!?」


 声が聞こえた隣の席を見ると、見覚えのある少女がいた。その少女は───いつも十字路でぶつかってくるやつだった。つまり今朝俺を轢いたやつ。


「川崎くんがいるところに私ありですよ?」

「ほんとやめてくれ。怖いから!」


 無表情で呟く彼女からは歴戦の戦士のようなオーラが感じられた。せっかく根暗野郎で通そうとし───あっ。


 俺演技できてねえじゃねえか!


「僕に話しかけないでくれ。魔法少女レミたんの音楽を聴くのに忙しいんだ」

「…………? 音楽プレイヤーなんてどこにもないじゃないですか。それに川崎くんはオタクキャラじゃないでしょう?」


 ああっ、もう! なんでこいつは邪魔してくるんだ! というかなんでここにいるんだ!


「はっ、もしかして今朝のことまだ怒ってます!? ほ、本当にごめんなさい!」

「そっちじゃ……ああ、もういいよ!」


 周りを見れば、興味津々にこちらを見てくるクラスメイトたち。もう俺がぼっちになるのは無理だろう。


 もうやだ帰りたい。学校来たくない。引きこもりたい。できるなら貝に生まれ変わりたい。


 高校生活を諦めながら、俺はそう思うのだった。

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