運命の始まり、とでも思ったか?
辺りが暗い、どこを見ても何も見えることができない。
この冷気の立ちこもった部屋に、俺はかれこれ1時間弱待たされている。
この状況でおとなしくしておけ、と言われていて、闇の中で無断に動くのもあまり好ましい行動であるからか、俺はずっと立っていた。立っているだけではつまらないので、いつも持っているトランプ一組をシャッフルしては、指で回したりと、幼少時代から磨いてきたディーラーとしての技術を黙々と闇の中でやるだけであった。
永遠と思える時間の中、唯々待たされている。
闇の中で永遠にカードを回していたら、指が一瞬だけすべり、カードが一枚床に落ちる。
落ちた瞬間、目の前が明るくなった。
見ると、奥にはドアがあり、それがドンと空いたのだ。
光の中から一人の男がでる。
彼は海賊の船長がかぶっているような三角帽子にマントという、いかにも怪しそうな服装をしていた。
だが次々と部屋に入ってくる人たちから見える尊敬の眼差しから、彼はこの集団のリーダー的な存在であることを理解した。
彼は俺の前に来て、俺が落としたカードを拾ってくれた。
笑顔いっぱいで俺を見て、「これは君のかな?」と言いながらカードを差し出す。
俺は無表情で受け取り、聞く。
「ここはどこですか?」
彼はいったん驚いたような表情をしたが、それはすぐ笑いへと溶けた。
「そうか、お主は分からないのであるのか。そうじゃったそうじゃった。」
俺を背に向け、彼はドアのほうへと歩いていく。
俺は彼が去っていくのを見ながらも、動かない。男はドアのほうで立ち止まり、振り返る。
「なんじゃ、ワシについて来ればすべてに理が付く、ウェルカム・トゥー・ウォアーじゃよ。」
彼のかすかな手まねきと一緒に、光の強さは減る。
奥に広がるのは俺の夢がかなう場所、魔法大学ウォーである。天へとそびえたつ建物、その下で広がる豊な丘の数々。空にはさまざまな飛行物が見える、鳥から飛行機、たまに見かける人間たちもすべてが自由に宙を舞う。
そんな場所を一目したところで、何が分かるかなどと聞かれても自分では説明できないであろう。だが自分では理解した。夢を叶うために来た者たちは、ここを他とは違う目で見るだろう。
俺の前に広がる光景は、修羅場と同然だ。
―――
俺の名前はトビアス・ケイン。ここ、ルーブレイン大陸のど真ん中にある大都市、インスティチュートに住んでいる者さ。
俺には両親が共働きしている家庭であった。その為か、若い頃から仕事で家を一日中留守にしている親達の代わりに兄妹の世話もすれば、自分でも稼げる為に詐欺の技術を学び、大勢の州に紛ればアンラッキーな人達からは盗み、裏カジノでのディラーとして働く事もよくあった。若い頃から作り上げた名声のおかげで、今では裏路上の物たちで俺の名前を知らない人などそうそういない。といっても裏事業はあまり信頼の関係を基にしてするものではないので、一応偽名を使って働いている。
そうやって得た稼ぎは全て弟妹達が学校に行ける為に使っている。勿論親は俺が何処かで働いていると思っているらしい。そのまま信じ込ませるつもりだ。
俺は若い頃から道慣れしているからこそ、ここインスティチュートの中では、結構有名になってきた。見つかりそうな事は何度もあったが、結局今の所捕まった事は一度もない。
そんな俺に今日、同僚の仲間から学院への招待が届いた。
「お前なら此処で何か出来そうな気がしてね、どうか考えるだけはして欲しい」とさ。同僚は昔スリのコツを俺から学ぼうとしたが、挙句の果て捕まり、何処かへ送られた事で最後だった。そんな彼が俺の前にまた現れるとは、夢にも思っていなかった。
俺は一応考えておくと言ったものの、そう簡単に家族を手放す事ができるにも出来なかった。
そんな俺の思考を変えたのが、彼女だった。
ルワージュ・ブランチェ、彼女の父はこの近所の会長でありながら、裏カジノの経営者であり、昔から彼の為に色々仕事をやってきた。そんな奴の娘に会ったのも偶然であり、結局仲は程々良くなって行く傾向を指していた。
彼女もその学院に行く事だったらしい。そんな彼女が俺に教えたこと、それは学院に行った人々の家族には政府側から資金が来るらしい。今まで両親共々が稼いだ額を遥かに上回るくらいの大金だ。
家族の将来を確保した上で、自分が遂に念願の自由の身になった事に気づいた。
まず家族に報告しなくてはいけないとばかりに、家に帰った。
「バカを言うな、お前が行ってしまったら弟妹の世話は誰がする。」と言うお父さん。
俺はそれを聞いて呆れた。
「生まれた直後でも一人にしておいた長男の事を思い出してみなよ、それに俺がこの学院に行くかわりにもらう資金でナニーでも雇えば良いさ。」
母さんが僕の方を向き、微かに笑顔を見せる。
昔から俺を一人にした事を後悔していた、と言われ、反応に困った時も唯自分の子供達の為に最善を尽くす事を誓い、日々頑張っている俺の母だ。
「ありがとう、俺もう行かなきゃいけないから、またいつか会える日を待っているよ。」と言って、俺はリビングを出た。
外で待ち構えていたのは、弟と妹であった。
「お兄ちゃん、今の話は本当?」と泣く寸前に問い出してくる弟、そして俺が見えた瞬間離さずまいと抱きついてきた妹。俺はこの二人を置いていく事に一番困ったが、最後に一番家族のためを思うと、政府からの資金を貰うのが一番だと思い俺は覚悟を決めた。
「兄ちゃんが居なくても、強くしとけよ?いつかは君たち二人が兄さんを助けなくちゃいけない日がくるかもしれないからな。」
そう言って、俺は去った。
この学院はクラスではなく、チャンピオンごとで分かれていた。チャンピオンとは、永唱者の力となる、何百人もいるディエティーの事である。彼らは、この世界の初めから存在している、いわゆる神みたいな存在である。
ディエティーの種類も多様であり、武器に特化したディエティーも居れば、戦、策略、暗殺など様々な種類の能力をくれるディエティーがおる。
どのディエティーの元で学院の一員になるかは、学院の真ん中にある「ワー・チェインバー」で決まる。
一学年からは始まる俺、多数の新入り達の仲に混じって、自分の出番を待った。
選び方は至って簡単であった。
この大きなホールの真ん中には星の形をした大きな石像があり、それに手を付けると、その石像からは出る光が、ホールの壁に載っている様々なディエティーのインシグナを一つ照らす。
自分的には、ギャンブルのディエティー、デスティニーに選ばれたかった。昔から余り戦うのは得意ではなく、なるべく喧嘩は避けてきた。それに運上昇の他にも色々とお得なボーナスが付いてくるディエティーである。
こう考えていると、後ろから誰かがぶつかって来た。後ろを見ると、そこには可憐な少女が一人立っていた。白い肌、今にでも倒れそうな体。本能的に彼女を守りたくなっていくのは誰も責めれない。
彼女が僕を見るとすぐ「す、すみません」と言う。
あれ、そんな怖がれてもなんか自分が傷ついちゃうな。
あんなかんなやっている内に、僕の出番になった。
皆の見ている前で、俺は石像に手を付けた。
すると光は一瞬にして四方八方に打ち出されていく。余りもの数に皆が仰天している。少し時間が経てば、光は収まり、一つのインシグナに残った。
俺は願い通り、デスティニーのハウスに入れた。
自分で喜んでいると、騒めきが聞こえてくる。何があったか見て回ると、もう一つ光がまだ残っていた。
トビアスは副能力として、「魔導念力のディエティー、ストーム」のハウスに加入をした。
これは学院ではごく稀にしかない、複数能力体制であった。
観客のざわめきが厄介であった、これ以上割る目立ちは自分にとっても都合が悪い。俺はこの学園の頂点に君臨している校長に軽い礼をしてから、すぐさままた人ごみに紛れようとした。そしたらどうしただろう、皆早足で遠ざかっていくではないか。
こうやって俺は登校1日目にして、ボッチになったのである。