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皆が通る道  作者: 祭月風鈴
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第5話 策

 日本企業は、長引く不景気から徐々に回復へ向かっているとメディアは言う。

だが零細企業が回復の兆しを見るまでには至っていない。

言うまでもない。彼らはあまりにも深手を負い過ぎた。

今も尚、自分らの手に届かない遅過ぎる政府の対応策の恩恵を路頭に迷いながら見つめ続ける。その瀕死な状況下に私の息子達もいた。


「合わせて、いくら必要なんだ?」


 私は押し黙る息子達に尋ねた。


「いや、手は打ったから親父は心配しなくていい」


 どんなに私が問い掛けても堅く閉じた貝の如く、口を決して開かなかった。


 この年の暮、隣町の大手全国チェーン店が配布した

『年末大売り出しセール』 と書かれた大きく派手な広告に混じって

『閉店』 の文字が一際目立つ、2色刷りの小さいチラシが入った。

長男が経営している小さな商店だ。

私は驚いて長男に電話をかけた。

生計を揺るがす一大事をなぜ私に相談しなかったのかと激しく問いただした。

長男は、後を継ぐ者がいない自分の店をたたむ事で資金を練り出し

次男一家と三男一家が経営する店に貸すと白状した。

どうやら、次男と三男が私の遺産相続において

長男から借りた金額に利子をつけた額を

長男に分配する事で、けじめをつける話しになっているらしい。

息子達のやり取りに一抹の不安を感じた私は、遺言にもう一言つけたした。


一、

私の遺産相続でもめぬよう、兄弟間で私の遺産分割が関わる合計一千万円を越える貸し借りは必ず公の機関の元で行い書面など口頭以外の方法で残す事。


ニ、

遺産相続は、法律事務所や家庭裁判所に間に入ってもらう事。

遺産分割する前に、上記『一』以外に一千万円を越える貸し借りが存在しない事を裁判所に証明する事。

証明出来なければ私の全遺産は国へ譲る事。

上記『一』があるなら、それによって遺産を分配する事。



 早速、私は法律事務所へ足を運び、遺言書の相談をし

残された者が私の意思を正しく理解・実行出来るように仕上げてもらった。

年が明けて半月後、遺書が整ったので親族を集め

法律事務所の先生立ち会いの元、遺言を伝えた。

息子達は突然の事に大変慌てたが、先生が上手にまとめて下さった。

後のいろいろな手続きなどは息子達に任せ、私は安心して次の行動を開始した。

私は今年99歳になるが、身体や精神がこんなにも しっかりしているのは

この世でもう一頑張りしろとの意味だろうか?

とにかく、私は自分が死んだ後の霊道を解決しなくてはならなかった。


*


 私は古寺の住職の元へ訪ね、息子達の事など内輪の事情を全て話すことにした。

そして、私が死んで庭が道路になった後も霊道を新たに通る者達が禍いを起こさぬよう何とかしてもらえないか相談した。

ご住職は、他の地主達からも同じ内容の相談を何件も受けており

解決に向けて既に行動を起こしていた。


「先日、総本山の猊下様へ面会を申し入れ相談をして参りました」

「なんと……!」


 ご住職は私より年下だが90半ばを越える高齢だ。

正月行事などの忙しい中、わざわざ時間を裂き

新幹線でも2時間はかかる遠い総本山へ出向かれるとは……。

私はとても頭が上がらなかった。


「次郎さん。私はとても良いお言葉を頂戴できましたぞ。

道路計画にかかる霊道は全て猊下様直々にご供養してくださいます。

盛大な儀式になりますぞ!

この地は、日本全国の修業僧が立ち寄った”養生の村”。

しかし非常に残念な事に、現在の役所の者はその尊さを全く理解できなくての。

私の進言をハエでも掃うように突っぱねたのですが……。

何、心配は要りません……もう一つ別の手を打ってありましてなぁ。

それを見れば、信仰心の無い役所の輩も盛大な儀式無しに道路工事なぞ出来ますまい」


 ご住職は一気に話しきると意味ありげにクククと笑った。


「……そ、それは、それは」


 私はこれまで見た事の無い、ご住職のもう一つの顔を見て

言葉を失ってしまった。

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