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9.袖振り合うも多生の縁、と言います。



ところ変わって、人気のカフェテリアにやって来た。どうやらここは王都でも最近人気を博す店らしい。そういえば同僚たちが話していたような気もする。私は基本的に公爵邸で引きこも……住み込みで働いているのでそう言う話題には疎いのだ。


「改めて紹介するわ、こちらはソフィ・オルスター。公爵家うちの執事の娘さんよ」


なんと畏れ多いことに私は王子殿下と同じ席に腰を下ろしている。王族とから発せられるカリスマ性というか、実弟であるルーク王子からはそれほど感じられなかった他を圧倒する何かが伝わってくる。


「…お初にお目にかかります、フィルニアス殿下」


一応、お忍びであるので王族の方への仰々しい挨拶は割愛させていただいた。代わりに深々と頭を下げておく。


「先日は阿呆アルフリードが迷惑をかけた。…すまなかったな」


どうやら弟殿下とは全く違う性格の持ち主のようだ。案外、あっさりとした謝罪に毒気を抜かれた気がする。


殿下とアルフリード様はコーヒー、シルヴィア様はプティング、私は紅茶をそれぞれ口にしている。公爵家の侍女たちの噂にも上るだけあり値段もお手頃、かつ美味しい。総括して「あそこのカフェは一回行ったらやみつきになる」という同僚たちの感想は間違いではなかったようだ。


「だーかーらー。俺はフィニとか陛下の書状を届ける伝達役をしてただけで、おかしなことは何もしてねぇから!」


「…ところで、どうして殿下はここに?」


サラッと無視しました、シルヴィア様。ぐはっ、とアルフリード様机の上に突っ伏して動かなくなった。…とりあえず、合掌。


「……視察だ」


「殿下ともあろう方が珍しいですね」


「久々に帰国したのでな。…まぁ、なんだ。懐かしくて、つい」


「んなわけあるかよ、フィニは…」


ふて腐れたようなアルフリード様がボソッと言った言葉を、殿下は聞き逃さなかった。


「……アルフリード」


氷点下のブリザードが吹き荒れそうな声が殿下から溢れた。王者の風格、と言っても差し支えないほどのその声は不思議と人を従わせるような気にさせる。


呆気にとられていた私とは違い、シルヴィア様は呑気に目の前のお菓子をつついていた。美味しそうに頬を緩ませる姿は、図太いのか鈍感なのか…。


「シルヴィア。……この後少し空いているか?」


む、とスプーンをくわえたままシルヴィア様は首をかしげる。


「まぁ、一応…。…大丈夫、よね?」


こちらには確認してくれるらしいシルヴィア様は「時間には余裕がありますので」と答えた私の返事を聞いて頷いた。


「そうか。…では行こうか」


「は??」


シルヴィア様の手首を掴み、屈託無く笑った殿下はそのまま席を立つ。そして、半ば引きずるようにしてシルヴィア様をカフェテリアから連れて行ってしまう。「なっ、離なせー!私にはまだプティングが…!」などと叫んでいるが、どうせ殿下は涼しい顔でいるのだろう。


「……侍女サーン、フィニを止めなくてよかったんですかー」


騒ぐ (主にシルヴィア様だが)2人をみつめるアルフリード様が私に視線を寄越してそう問いかけた。


「我が国の王子殿下を信用するな、と仰いますか?」


暗に示す意味を読み取ってアルフリード様は首をすくめる。


「そりゃぁ無理でしょ。フィニのやつ、ずっとシルヴィア嬢に会いたくて会いたくて仕方なかったはずだし」


「…見ればわかります。ところで、殿下はなぜこちらへ?」


「あのバカ……ルークがシルヴィア嬢と婚約とかするからだろ」


こめかみを抑えてアルフリード様はため息をついた。アルフリード様からもルーク殿下は「バカ」呼ばわり……むしろ「バカ」認定されているらしい。どうやらルーク殿下を「バカ」と感じることは我が国上層部 ( ? )の共通意識なのかもしれない。


「定期連絡の騎士からシルヴィア嬢とルークの婚約を知った時のあいつは手がつけられなかったよな…。ははっ、あん時の俺めっちゃ頑張った…」


遠い目をするところから、当時は相当荒れたんだろうなと私でもわかる。


「シルヴィア嬢に対してフィニは独占欲の塊みたいな男に成り下がるからな。あんだけスペックと顔面偏差値は高いのにどこまでも残念な奴だよ……」



確かに。王子という身分も加点すると……、



…いやいや、ちょっと待て。先ほどから聞いたことのある単語が連発されているような気がしてならないのだが!!


「ま。あれでもシルヴィア嬢のことは一番大事に想ってることは俺が保証するから、認めてやってくれない??」


のほほんとそう言ってのけたアルフリード様に何も言い返せず、私はただ呆然する他ない。正しくは、容量不足キャパオーバーに陥った私には何もできなかった。


「あの、どういう…こと、ですか?」


一つひとつを噛み砕いて言って欲しいのと、もしかすると、というのが私の中で生じた。


「は?それこそどういう……うわぁ…」


なぜか突然頭を抱えて再び机の上に沈んだアルフリード様は「やっちまった…」と盛大に後悔していた。


「マジでやべぇ…。冗談抜きでフィニに殺される…」


つまり、殿下の御心を本人の了解なしに私に伝えてしまったのだ。そう遠くないうちにわかることだと思うけれど。



しかし、私が言いたいのはそちらではなく。



「顔面偏差値と、スペックって…。私の言うことは聞き逃して下さっても構いません」


そんな言葉はこの世界にはない。あるとすれば転生前の世界だ。この言葉を知っているということは、つまり。


「つまらぬことをお聞きします。……あなたは転生者ですか?」


子爵令嬢のときの質問とは違いストレートに問う。殿下の側近という立場であり、聡いこの人ならばその真意を汲み取ってくれるだろうか。


「……へぇ、やっぱり転生者なんだ。予想はしてたけど」


どこか挑戦的な瞳に一種の安心感を覚える。もともとアルフリード様はフランクな話し方だと思っていたが、確信を持って思い返す考えると「転生前」では「当たり前の光景」だ。


「…フォード公爵邸で一戦交えたときの、なんというか護身術に見覚えがあったんだよな。もしかして、と思って権力ちから使わせてもらった」


悪かったな、とイタズラが成功したときのようにニヤッと笑う。


「…私に前世のようなものがあることを知っているのは限られたごく一部の人のみです。どうやって知り得たのです?」


「……それは企業秘密」


決して手の内は明かしてくれないらしい。

…何だか不公平な気もするが仕方がないようだ。


「ま、これからもよろしくってことで」


差し出された手を、私はしばらくの沈黙の後に取った。





⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎





…その後。


シルヴィア様はすったもんだのうちにフィルニアス殿下と結婚した。その頃には王太子に指名されていた方のへ嫁ぐのだから、結婚式は所謂「ロイヤルウエディング」という類のものだった。煌めくようなドレスを纏ったシルヴィア様は、私が見てきたどんな姿よりも美しく、幸せそうに見えた。


しかし、忘れてはいけないのがシルヴィア様の “ ” 婚約者、第二王子ルーク殿下である。


彼は騒動の後、王位継承権を自発的・・・に放棄し王族籍を離れた。そして愛する婚約者、もといの実家であるカルロ子爵家へ入り婿となったという。風の噂によると、彼らはカルロ子爵領で仲良く暮らしているらしい。




そして、私はと言うと。


「ソフィー?ねぇ、ソフィったらぁ」


「…ここにおりますよ、リア様」


小さな女の子を寝かしつけている。ただし、この子はただの女の子ではない。


立派な我が国の王族、第一王女ルーフィリア姫だ。両親は言うまでもなく、シルヴィア様と王太子殿下である。2人の特徴的な美点を受け継ぐまだ幼い姫は、もうとにかく可愛い。将来が非常に楽しみなお方だ。…いやいや、今のは邪念が発動しただけである。


「ねぇねぇ、もーっとお話しして欲しいの!」


寝物語に、と姫が毎夜ワクワクしていらっしゃるのが私の「転生前」の話だ。心配せずとも、腐った方の話は一切ない。


「いけません。…もうお休みになられるお時間です」


しかし、何かと駄々をこねるのは毎回のことだ。苦戦すること数十回、私は対処法を見つけていた。


「…ダメダメおばけがリア様をお迎えにきますよ?」


少し低い声音で囁くと、ひやぁっ!と可愛らしい悲鳴を上げて姫は全力で寝たふりをしだす。僭越ながら、私が姫に「おばけ」という存在を教えた。「ダメダメおばけ」と姫にネーミングされたソレは姫の中でものすごい存在感を放っているらしい。


少し悪いかな、と思いながらもその寝顔を見守っていると、健やかな寝息が聞こえ始めた。




ソファ・オルスター、26歳。

王太子妃となったシルヴィア様に仕える、侍女である。









ここまでお付き合いくださって、本当にありがとうございました…!_(;ω;`」_)_

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