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8.地獄で仏に会う、と言います。




シルヴィア様を拘束していた男はしたたかに背を打ち付け、くぐもったうめき声をあげて気を失った。触れようとしていた男は、一度地面に倒れ仲間を捨てて逃走を図っている。


シルヴィア様を救ってくださったのは2人組の男性だった。ひとりは見事な金髪でとてつもなく不機嫌な様子を醸し出している。そんな不機嫌な金髪 (としておく)をなだめているのは黒髪だった。ついでに言うと、二人とも美丈夫である。


予想外の助けにホッとすると同時に、シルヴィア様のもとへたどり着く。


「シルヴィア様、お怪我は!!?」


上から下まで何度も視線を行き来させた。どうやら目立った怪我はないようだが、手首を軽くさすっている。見ると、僅かに赤くなっていた。


「…戻りましょう、手当てをしなくてはなりません」


貴族の令嬢にケガはご法度。一つの僅かな傷でも差し障りが生じるとされているのだ。


「手当てなら近所の商店のおばさんに借りたらいいと思うけど」


黒髪の男がシルヴィア様の腕を見て言う。不躾な視線に私がムッとするのにも気付かずにのほほんと喋っていた。


「俺がごひーきにしてるおばさんがこの辺りにいるはず…なんだよね」


「…アル、とっとと借りてこい」


金髪は冷たい目で黒髪に命令する。慣れているのか、黒髪は「へいへーい」と軽く手を上げて通りの方へ行ってしまう。金髪の方はスッとシルヴィア様の横に膝をついて声をかけた。


「怪我はないか?シルヴィア」


「…見りゃあわかるでしょ。それに、私よりソフィを見てあげてくださらない?」


……一連の流れや動作でわかったのだが、どうやら「金髪」などと気軽に呼んでもいい相手ではなさそうである。そこはかとなく漂う雰囲気が、まるで貴族のようなのだ。しかし、シルヴィア様はそんな人に臆することはない。


「あの侍女は相当の手練れのようだったが」


目が肥えてますね、と思ったが論点はそこではないのだ。本来、護衛や侍女たるものは影として付き従うべきものであり、簡単に実力を知られてはいけない。時と場合によるが、今回は仕方ない…のかもしれないけれど。


「ソフィは女の子なの!あなたみたいに頑丈じゃないの!」


「おーい、フィニ!持ってきたぞ〜」


全力で否定するシルヴィア様の声に被さったのは黒髪の方だ。本当に知り合いおばさまのお店は近かったらしい。


「…手を出してくれ、シルヴィア」


といいながらも金髪 (やはり正体がわからないのでとりあえず保留しておく)は問答無用で負傷したシルヴィア様の腕を掴む。「もっと丁寧になさって下さい!」と声を上げかけた私だが、その手つきが優しく繊細なことに気付いて口を閉じた。


「こんなものだろう」


シルヴィア様の細腕に巻かれた包帯を見て金髪は頷いた。…確かに上手いのは私から見てもわかる。


「…どうもありがとうございます」


照れ隠しのようなシルヴィア様の言動に思わずキュン、としてしまう。


(ああああまさかのツンデレ属性持ちでしたかー!!そうかもしれないと思ってましたけどっっ!)


転生前はツンデレ属性に大いに萌えたのだ。ツンデレとは何たるかを語りたいところではあるが、暴走してしまうので割愛しようと思う。


「…悪くない」


イロケとノロケが入り混じったような微笑みを浮かべた金髪の破壊力はとてつもない。思考を一瞬でぶった切り、堕としてくれやがった。本当なら赤いケチャップを噴きそうなのだが、もう気力で抑えるしかない。あんなに不機嫌だったのに、シルヴィア様の言葉ひとつで変わるものなのか…。



…そして、気になることがひとつある。


黒髪の男をどこかで見たこと、声を聞いたことがあるような、そんな気がするのだ。どこだろうか、と思い返しても正確には…。


(…まさか)


不意に思い浮かんだのは、シルヴィア様の寝室にのこのことやってきた怪しい男の姿だ。よく見れば背格好も似ているような気がしてならない。


『…ある方の意思で俺は動いている。言っておくが、その方はシルヴィア嬢のやろとしてる“風通し”には全く引っかかっていない』


そこから推測できるのは、怪しい男の主人はかなり高位の貴族。しかも、シルヴィア様の協力者となり得るような権力も持っていることだ。


(でも、フォード公爵家以上の権力を持つ方は貴族にはおられないはずです。だとすれば、それは……)



王族。だけど、国王陛下は初めから協力の意を示してくださっている。それを抜きにして考えると残るのは…?


(…第一王子フィルニアス・リフォンス殿下!?)


次期国王と目されているその方は、3年ほど前から諸外国へ留学していると聞く。そして、最近帰国されたとの噂も。


(どうしましょう、辻褄が合いすぎて怖くなってきました…)


主にシルヴィア様の行動力の招く結果に、だ。

シルヴィア様が普通・・の貴族のお嬢様はないことをよく知っていたが、いろんなことが普通でないことを知ったときの私の衝撃と言ったら…。


(…いけないいけない。トリップするところでした)


そうこうする間にも、シルヴィア様たちの間では会話が進む。


「…そもそも、何でこんなところにいらっしゃるのですか?」


「それはさぁ、もちろんシルヴィア嬢の」


「アル。…今度は地方の視察が入ってるからな?」


「ごめんなさいもう言いません、それだけは勘弁してください」


「ちょっと、アル?何のこと?」


「イエ。ソレコソナンノコトデスカ?」


「…あからさますぎるでしょう、それ」


仲の良い3人の会話はポンポンと弾むようだ。シルヴィア様があまり表に出さない表情かおを見せている。彼らはシルヴィア様が心を許した人たちなのかと思うと自然に受け入れやすくなった。


「ひとつ、よろしいでしょうか」


いきなり会話に参入してきた私に一斉に視線が集まる。思わず身を引くがそれも上手くいくはずはない。


「シルヴィア様、この方々はどちら様ですか?みたところ、怪しいような方々ではなさそうですけれど…」


そういえば紹介してなかったかしら、とシルヴィアさまは首を傾げる。…悲しいかな、これはほぼ私の予想が確定してしまうかもしれない。


「びっくりしないでね…。金髪のほうは第一王子のフィルニアス殿下、黒髪の方が側近のアルフリード。アルフリード…アルは騎士でもあるのよ」


(ほとんど予想付いてました、なんて言えませんね…。あ、そうだ。例の・・・を言いましょうか)


私は「承知しました」と頷いて、黒髪────アルフリード様をイイ笑顔 (自称)で見遣った。


「…シルヴィア様。アルフリード様は以前、公爵邸に不法侵入しておりました」


「んなぁっ!?あんたって、あの時の侍女か!!?」


……面白いぐらいに反応してくれた。




新キャラ登場していますが残りはあと一、二話 (の予定)です。

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