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10.番外編

アルフリード視点のお話と…。




時は遡り、シルヴィアとソフィが出会いを果たした頃のこと。


当代公爵ヴィクトールは愛妻のアリシアを誘ってのんびりとした昼下がりを満喫していたはず…なのだが。


「……アリシア。これを、どう見る?」


「そうですわねぇ…。今のところ、ヴィーの辞令ではなさそうですわ」


王家の紋様がでかでかと入った封筒には、子供の筆跡が残っていた。しかも【 親あいなる、フォードこうしゃくご夫妻とシンディーへ 】とある。


これを前にして、フォード公爵夫妻は思い当たる人物を同時に思い浮かべた。



「…あの方、だな」

「あの方、ですね」



2人は封を切って手紙を読み始めた。






⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎






「国王陛下、本日はお別れを申し上げに参りました」


ニコッと外交スマイルで笑うフィニに寒気を覚えながら、俺も倣って一礼する。


俺はアルフリード。アルフリード・ラフォートだ。一応は、第一王子フィルニアス殿下の留学に同行する学友、ということになっている。


「フィルニアス王子。我が国は如何だっただろうか?」


「はい。私も部下も、大変勉強になりました」


穏やかな王はその答えに「それは良かった」と笑う。そして、探るようにフィニを見てその目が眇められた。


「…我が国の姫を妃にとの話を考えてはくれましたかな?」


俺はビシィッと固まった。…そう、フィニではなく俺が。


(それは地雷ー!!)


本国からやってきた騎士からの定期連絡から始まった俺 (と従者を含む)の悪夢。…フィニが長年想いを寄せるご令嬢が事もあろうに第二王子と婚約した、という報せを持ってきたのだ。「おめでたいことですねぇ」と呑気に言った騎士をフィニが問答無用で黙らせたことは記憶に新しい。


戦々恐々とする俺とは裏腹に、フィニは「…そうでしたね」とぬかしている。


(…誰だ、本気マジで誰だ?この爽やか王子は)


「私の一存では決められないことですし。今回はお断りさせていただきます」


「…そうですか…、残念ですな」


言葉通り残念がる王の気持ちもわからなくはない。フィニは各国の王族や有力貴族の結婚相手としては最優良物件だ。身分よし、見た目よし、器量よし、の三拍子揃っているのだから。


「申し訳ありません。…それでは、失礼致します」


貴国の陛下によろしく伝えてくだされ、と王が言うと「もちろんです」とフィニは言ってその場を後にした。


「フィルニアス殿下っ!」


扉を出てしばらく歩くと、柱の影から見計らったように少女が飛び出してきた。早々に気配で気付いていたため、俺も何も言わなかったのにフィニには睨まれた。なせだ。


「…どうかされましたか、アンジェリーナ姫」


彼女の名はアンジェリーナ・ヴィア・ルフィアス。この国の王女にして、先ほど王から打診された話のもう一人の当事者だ。


「わたくし…、殿下がもう我が国を離れると、聞きました」


アンジェリーナはぎゅっ、と両手を胸の前で組んで悲しげに瞳を伏せる。


「…残念ですが、私にはまだまだ経験不足ですので。さらに見聞を広めなくてはなりませんから」


素っ気なく返したフィニはそう言い残して去ろうとするが、「待ってくださいませ、」とアンジェリーナは引き止めた。一瞬、フィニはアンジェリーナから見えない角度で不快そうな顔をする。


「…わたくしは、殿下と共にありたいと、願っております…!」


(あーあ、王女サマが真っ赤になってんのー。…ついでに言うともう泣きそうだなー)


「それについては国王陛下を通してお断りさせていただいています」


泣きそうな女を前にしてフィニは見事にぶった切る。冷たい野郎ヤローだな、と思う間にもアンジェリーナの瞳には涙が溜まっていた。


「…そんな、わたくしは、」


顔を覆って泣き出したアンジェリーナを一瞥すると、フィニは背を向けて歩き出す。本当はすぐにでもフィニを追いかけなくてはならないが…。


俺はわざわざ、アンジェリーナに跪きこう言った。


「…アンジェリーナ王女。急な出立をお許しください。我が主には、少し見逃せない問題が浮上してきたものですから少し苛立っているだけなのです。どうぞ、泣き暮れることはおやめ下さい。…王女の美しい姿を目にすることができない殿方も泣くことになりますので」


は、とアンジェリーナが鼻白んだ隙に、「それでは」と一礼してフィニの消えた後ろ姿を追いかける。案の定、フィニはひとつ曲がったところで不機嫌そうに腕を組んで壁に寄りかかっていた。


「…よぉ、モテ男」


「訳の分からんことを言うな」


開口一番にふざけてやったというのにフィニの反応は素っ気ない。そして無駄にブリザードが吹き荒れている。


「アル。お前のせいであの女に変な期待を持たせてどうするつもりだ?」


「一国の王女をあの女呼ばわりできるのはフィニだけだよな…」


「あんな頭の弱そうなやつは嫌いなんだよ」


あのアンジェリーナも容姿だけなら「美しい」と言われる部類だ。10人中5人は振り返るだろう。が、それ以上の女を知っている俺としては味気ない。


「…もういいだろう。さっさと行くぞ」


「おー、って次はどこの国だ?」


二人して歩き出しながらそう問いかける。すると、フィニは明日の天気を確認するように言った。


「帰る」


「…はい?」


「もう留学は切り上げて帰る、と言った」


「…訪問予定の国はどーすんだよ」


「また今度だ」


そうこうしているうちに客室へ着く。既に荷物はまとめられており、いつでも出発できる状態にされていた。俺はそこに揺るぎないフィニの意思を感じたような気がして、深くため息をつく。


「…俺は知らねーからな、帰って陛下に何を言われても」


「まさか。この私がぬかるとでも思うのか?」


自信満々に言われたら俺としては反論の余地がない。

残念ながら、フィニは出来る男だ。


「ああそれと…。何やら父上が面白い“ 風通し ”をするようだ。どのように様変わりしているか楽しみにしておくといい、と言っていた」


俺は断言しよう。にやりと笑ったフィニの笑顔は黒かった。



⚫︎・⚫︎・⚫︎・⚫︎



そして (俺と従者組だけ) ビクつきながら帰ってみると、多方面の方々からのお小言はほとんどなかった。しかし、その裏には涙ぐましい俺たちの努力があるのだ。特に俺はその一環でフィニより一足早く王都に入っていて、陛下の“ 風通し ”を手伝っていた。


フィニには1つの貸しとして利子をたんまりとつけてやる。多分「今までのツケだ」とか言われて帳消しだろうけど。…そこまで想像できる俺がいるのだからやめておく。後がコワイ。


シルヴィア嬢はというと、まさかフィニが帰ってくる日にお忍びに出かけるとは思っていなかった。それを申し訳なさそうな公爵夫人から直接聞いたフィニは大笑いしていたが、「約束、守ってくださいますの?」という公爵夫人の言葉には大真面目に頷いていた。


約束それが何かはわからないが、とりあえず街に出てみればシルヴィア嬢がガラの悪い3人に絡まれる始末。恐ろしく腕の立つ侍女が応戦していたが、予想外の4人目まではわからなかったらしい。


「…アル」


それだけで、言いたいことが分かる。

俺が右頬に打撃痕のある男をぶっとばすと、フィニは4人目の男を思いっきり壁に叩きつけていた。


不機嫌な様子を醸し出していたくせに、いざシルヴィア嬢と話してみると丸くなってるし。突然シルヴィア嬢を連れて店を出て行くし。


しかし、フィニに同情したくなるのは、シルヴィア嬢が相当な鈍感娘だということだ。あれはまるでフィニの好意に気がついていない。


それを先ほどガラの悪い3人組と応戦していた侍女に話すと、そっと目を伏せて「……シルヴィア様の愛すべき美点ですから」と言っていた。…そう思ったのは俺だけじゃなくてよかった。






…兎にも角にも。

独占欲の強いフィニと鈍感なシルヴィア嬢が結ばれたのは周囲の影の努力があってこそだった、というのがとある侍女Sとの総括だ。






⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎





【こうしゃくご夫妻、突然のてがみをお許しください。僕はお二人にお願いしたいことがあります。


それは、シンディーのことです。

シンディーは僕のおよめさんにして、僕がいちばん幸せな女性にします。約束します。


そのためには、お二人の力がひつようです。


シンディーは他のどんな男の人にも渡しません。僕がシンディーをおよめさんにするまで、シンディーをよろしくお願いします。フィルニアスより】



短い文面にはそうかかれていた。


その反応は良くも悪くも、差出人の想像通りだった。


「まぁまぁ!なんて可愛らしいんでしょう!!」


頬を赤く染めたのは妻のアリシア。逆に、仏頂面になったのは夫のヴィクトールだ。ヴィクトールは何も言えずに文面を何度も目で追った。


「僕の、って言うところが本当に可愛らしい…!ねぇあなた、そう思いませんか?」


テンションの上がる妻が可愛い、と思いながらもヴィクトールはがくりとうなだれる。


「…まだシルヴィアは8歳だぞ……」


「あら。いつまでも娘は『お父様〜♡』とは言ってくれませんわよ?」


「…うちの子は違う!」


「ふふふ、おかしいですわねぇ。シルヴィアが以前ヴィーに対して言っていたことをお教えしましょうか?」


やめてくれ!と本気で言う夫が愛おしくてならないアリシアはくすくすと笑う。


「…でも、殿下がこう仰ってくださることは親としてはとてもうれしいですわ」


それはそうだ、とヴィクトールは頷く。


「殿下が我々に気持ちを伝えてくれたことで、将来さきも読みやすくなる」


アリシアはムッと表情を険しくした。


「…いたいけな子供たちの気持ちを利用するのは大人としていけません!」


「例えばだよ、例えば」


本気で怒ったアリシアの剣幕にヴィクトールはたじたじになる。やっぱり、妻を怒らせると怖い。





そしてフィルニアス王子からフォード公爵夫妻に当てた “ 手紙 ”は公爵邸の執務室の奥に保管されているらしい。何でも、これをヴィクトールから聞いた国王が爆笑し、「後で黒歴史に祭り上げてやれよ!」という無情な(?)御達しがあったからだと言う。


これを後々知った王太子夫妻は、主に王太子がその思惑通りになったとか、ならなかったとか…。






感想をくださった方、ブクマをくださった方々、なにより読んでくださった皆様に感謝を…!_(;ω;`」_)_


ありがとうございました!

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