続ディアリス、ダイダロスへやって来ました!!
ダイダロスには東西の都市を繋ぐ鉄道が引かれている。
都市の南北にある2本の線路で交互に列車を走らせ、都市間を効率よく往来出来るようになっている。片道の所要時間は30~40分ほどで、およそ60キロ程の道を止まることなく走って行くのだが、
「はあ? あの鞄にアーティファクトが入ってる? それも決戦級の?」
「ケイト、声が大きいぞ。周りの迷惑を考えなさい」
「あ、ううう……」
そんな列車の中で、俺達は情報の整理をしていた。……といっても、主な話題は俺が説明していなかった鞄とその中身の事だ。ケイトさんも駅に駆けていく俺の様子から、あの鞄の中身は何かまずい物では……と予想していたらしい。
だが、流石に付与導具とは思っていなかったらしく、そこそこ乗客のいる中で大声を上げ、軽い視線を集めて頬を赤らめてしまっている。
「ちょっと、説明!! もっと詳しく!!」
恥ずかしさを誤魔化すように、小声だが真剣な表情で聞いてくる。
「……だが、その頬がまだ恥ずかしさで赤らんでいるのは内緒だ!」
「うっさい! さっさと説明するの!?」
やれやれ……あんまり茶化すと、ケイトさんに本気で怒鳴られかねないな。
「説明って導具の?」
「そう! ていうか、なんでアーティファクトなんて入れてたの?」
「?? そりゃ荷物になるからだけど?」
「はあ? アーティファクトよ、アーティファクト! 普通は無くさないように肌身離さないでしょ!?」
付与導具、今後はアーティファクトと呼ぼうかな。これ等は付与魔法の産物で、白の魔力が宿った物体を指す名称だ。
ちなみに、アーティファクトは総じて高額。ケイトさんがちょっと混乱気味になるくらいの値の張る品で、普通は彼女が言うように肌身離さず管理するのが当然なのだ。
尚且つ、
「しかも決戦級とか!! なんで、なんでジャパニーズ?」
その等級が彼女の心を壊してしまったらしい。
『決戦級』とはアーティファクトの等級で、その名の通り「決戦に使う位の~」というレベルである。……つまり、盗まれたアーティファクトは『破格に値の張る最終兵器』と思ってもらえばいい。
「なんでもなにも、学園側が責任持って預かるから安心して送ってくれ、って言われたからだけど? 一応、俺の留学は学園長の推薦ありきなんだぜ?」
なので、『信頼』の名のもとに色々頼ってみた結果が今の状況である。
「へい!? なんで、なんでダイダロスィーズ?」
「スィーズってなんだ! なんかムカつくけど、結局こっちがごめんなさいだよ!!」
「な……、ツッコミ勢い謝罪だと!? こやつ……出来る!?」
流石はダイダロスィーズ!?
「……いや、もうそういうのはいいから。とりあえず話を戻そう」
「はいはい。まあ、アーティファクトについてだけど、そんなに危険な代物じゃないよ。ただの法衣だしね」
ある人が『俺専用』に仕立てた羽織りが一着入っているだけだ。
「あ、そうなの? なーんだ……」
「鞄を開けて俺が傍にいないと5分位で次元の門が開いて、周囲を飲み込み始めるんだけどね♪ まあ、決戦級のアーティファクトにしては大人しいでしょ?」
「全然大人しく無いから! こんなんだと思ったよ! 落ちがあるって思ったよ!!」
ケイトさんの突っ込みが激しくなり、またしても乗客の視線が集まってくる。俺はいいけど、彼女に恥ずかしい思いをさせるのは……まあいっけど、乗客に迷惑を掛けるわけにはいかない。仕方ないので、安心材料を提供しておこう。
「ちなみになんだけど、さっきから誰かが鞄の解錠に取りかかったみたいだぞ。……うーん、この調子なら後40分位で開くかな?」
「……って、もしかして何処にあるのか、感知してるの?」
「君の情報のお陰でね♪ もっと近付けばそれだけ分かりやすくなるよ」
いくら封印を感知出来ても、これだけ大きな都市に紛れれば探すのは困難だ。だが、学生課で『東にある』と目印を教えてもらったので、後は東に絞って封印の気配を探せばいい。
お陰で、簡単に鞄に施してある封印の魔力を捉える事が出来た。
「解錠が始まったなら、もう移動はしないだろう。後は時間との勝負だけかな?」
列車が駅に到着するのに後20分程のはず。不足の事態を考えても15分位で見つけたいところだ。
「ま、そういう訳で駅に着いたら急ぎましょー、な?」
ツッコミ疲れて項垂れているケイトさんに声をかけると、
「了解……。願わくばこれ以上厄介事の追加は御免だね……」
なんて返ってきた。
「……それは同感。こちとら一月丸々厄介事のフルコースだから、いい加減お腹一杯だわ」
せめて消化の為に時間が欲しい……。ただ、この願いが叶うのはもう少し後になりそうだけれど……。
ふと、窓の外を見れば景色は変わり、いつの間にか高層ビルの並ぶ新都に突入していた。
……少し時間を戻し、とある場所に話しは移る。
そこはダイダロス東の新都市にある、知る人ぞ知るお店。
駅から続くメインストリートからいくつかの道を外れ、そびえ立つビル群の影にひっそり佇む怪しい雰囲気のお店が……、
『何でも屋「ダウジング・フェアリー」』
物の売り買いから人材派遣、迷宮探索のお供等々、名前の通り何でも引き受けてくれる便利なお店である。
「"お金次第"でだけどね?」
「は? いきなり何言ってんの?」
そんな店の中で取引は行われていた。
カウンター越しに相対しているのは二人の少女。
一人は売り手、学生課所属ルティ・キーパー。
もう一人は買い手、何でも屋の店主ミティス・ミスティア。
そして……カウンターの上には、何処かで見た事があるようなスーツケースが一つ。
「……またあんたは、どうしていつもいつも面倒そうな物ばかりを持って来るかな?」
うんざりした顔で鞄を見る店主ミティス。
彼女は、一目でこれが厄介な代物だと判断した。スーツケースには明らかにややこしそうな封印がかかっており、しかも、かなり強い『白』の魔力の存在を感じる。
「お、なになに? そんな凄いの? ラッキー♪」
店主が厄介そう=高値が付きそう。
経験則からの取引の方程式(根拠0)が成立し、ルティのテンションは一気に上がった。……逆に、金にしか頭に無さそうな常連の言葉にミティスのテンションは一気に下がった。
「流石は私、大天才! いやー、私の目利きも極まってきたな―!! あれだけある倉庫の荷から……」
「はいはい。じゃ、これ書いて。あと、余計な事喋るな」
追い出すわよ、とそう言ってからミティスは鞄の鑑定に取りかかった。
白魔法の封印が施してある鞄。
おそらく盗品であろう物だが、ミティスはその事を聞く気はない。
自分は売られた物を調べ、値を付け、買い取る……それだけだ。
「外側に不審な点はない。じゃあ、今から解錠に入るから適当に時間潰してて」
「はいはい、頑張ってね~♪」
ルティも一言そう言うと、書類への記入を始めた。
常習犯の常連客も、店に迷惑をかける気は毛頭ない。それに、余程大事にならなければ、この店主が客を売ることはない。それだけこの店主が守っている"売り買いの仁義"は重く大切なものなのだ。
…………………………
……………………
………………
…………
……10分経過
「クッ、手強い……」
解錠中にミティスが唸る。
その顔には余裕がなく、額には汗が浮かんでいる。そんな様子に、自然とルティも邪魔にならないよう息を殺していた。
……………………
………………
…………
……更に5分経過
「はあ? 何で行き止まりだよ!! もう2回も縦穴に落ちてんのよ!!」
突然大声を上げるミティス。
内容は意味不明だが、どうやら手こずっているようだ。
……………………
………………
…………
………更に5分経過
「……もう無理だ。こいつ、クリアなんてさせる気ないんだ……」
疲弊し、項垂れたまま呟くミティス。
声音に泣きが入っているっぽいが、やはり意味は不明だ……。
「ク、クリア? ……って、ミティス?」
流石に様子が変なので、恐る恐るルティが声を掛けた。ミティスとは長い付き合いだが、ここまで追い詰められているのを見るのはルティも初めての事だ。
「…………………………」
無言のまま立ち上がり、フラフラと店の奥へと歩いていくミティス。何やらごそごそと棚を漁り、何かを手に持って帰ってきた。
「……って、妖精王の鍵!? 」
安心・安全の解錠アーティファクトを……しかも、その最高級品を持ち出してきた。ストックも少ないであろう一品を持ち出してきたという事は……。
(ああ、よっぽどタチの悪い封印だったんだ……)
そして、余程悔しかったのだろう……。
そう……、例えば攻略本有りの裏技無しでゲームをクリア出来なかった時のような……。
完全敗北のプレイヤーのような……。
(案外、子供っぽいところがあったんだねー……)
今後は注意しよう……ルティはそう思った。だって20分間の様子が尋常じゃなかったもの。薮蛇つつくべからずなのである。
「…………………………」
そんなルティの心境など知らず、ミティスはただ無言のまま鍵を使って、
カチャリ……
その封印を解いた。
役目を終えた鍵は消え失せ、鞄を守る力もまた消え失せた。
解錠までの所要時間……25分。
それは、誰かの予測よりも15分以上も早い解錠だった。
プロローグ"中"です。
個人的にですが、結構なボリュームになったので切りました。
今回から登場人物説明や解説なんかも加え、
『文章力の無さをちょっとでも補う』
姑息な手段に出ております(-_-;)
想像の助けになれば幸いです。
次回はプロローグ完結です。
よろしければお付き合い下さい(._.)




