文字とか文化とかネアンデルターレンシスとか
文字そのものについては、後できちんと触れたいと思います。「2」に移ってからかな。
サピエンスの特徴の一つとして文字を使うというものが挙げられたりします。「時を彷徨い」の「6,000年まえ」で、「文字が現われた」というようなことを書いていました。これはシュメール語の古いものあたりを参考にしています。楔形文字より前のです。結構、絵っぽいものです。
で、文字ではないと思いますが、壁画が3万前とかからあります。
そこで問題になるのは3万年とか前という時代です。というのもネアンデルターレンシスもいたからです。ネアンデルターレンシスが壁画を描いていたかは不明です。ただ、昨年だったか今年に入ってからだったか、ネアンデルターレンシスの洞窟に石で洞窟の壁を引っ掻いたようなものが見付かっています。それが実際にネアンデルターレンシスによるものかもまだ実際には不明ですが。また、その引っ掻いたようなものが、数を数えたものか、文字や何らかの記号なのか、それも不明です。
では、ネアンデルターレンシスは言葉を持っていたかどうかを考える必要があります。ですが、そこはたぶん疑う必要はないと思います。既に書いたことでもありますが、100万年まえあたりの頭骨で、サピエンスが言葉を使うのに使っている領域の発達の痕跡が見られるからです。ネアンデルターレンシスの化石から見られる喉から口の奥の形状から、要は口腔の形とそこから推測される舌の可動範囲から、サピエンスに比べて出せる母音に少し制限があったであろうと推測されています。ですが、それはネアンデルターレンシスが言葉を使っていなかったことを意味するわけではありません。例えば、現存する言葉でも、母音を3つしか使わない言葉があったりします。例えば琉球語は、3つあるいは4つの母音を使います。日本語の標準語では現在は5つの母音を使います。万葉仮名あたりを見ると8つあったと考えられていますが。それに対して少ないからといって、ウチナンチュは言葉を使っていないと考える人はいないでしょう。
さて、ではネアンデルターレンシスは文字を持っていなかったとしましょう。なら、サピエンスはどうやって文字を使っているのでしょうか。まぁ文字を使うようになるまでに時間がかかってはいますが。
ネアンデルターレンシスが文字を使えず、サピエンスが文字を使える理由として、まず思いつくのは「文字を扱う脳領域が存在する」という可能性です。ディスレクシア(識字障害)の存在は、その可能性を裏付けるもののように思えます。
ですが残念ながら、その仮説は間違っています。というのも文字の扱いは、結構高次の機能で行なわれていることがわかっています。逆に言えば、サピエンスの脳にも文字を扱うための専門化された領域は存在しないのです。他の機能の貼り合せで、文字を扱っているのです。
ということは、解剖学的(?)な面からは、文字を使うことをサピエンスの特徴とすることはできないということです。そして現在でも文字を持たない民族はいます。すると、それは高次領域の機能という遺伝子の問題もなくはないでしょうが、歴史も考えるとむしろ文化的遺伝子(meme)の問題であろうと考えられます。
すると、更に疑問が浮かびます。ネアンデルターレンシスは文字を持ち得なかったのかという疑問です。つまり低次であれ高次であれ、文字を扱う機能を持つことは遺伝情報の面から、つまりはそこから構成される脳の構造として不可能だったのかという疑問です。
他のどの機能を見ても、ネアンデルターレンシスがサピエンスに機能として劣っていたと考えるのは難しいように思います。ただ一つ、サピエンスはピーチクパーチク話しまくっているという点を除いて。これは遺伝子からの話ではなく、集団の間の交流の痕跡から考えられている説です。ただそれだけがサピエンスの強みだったと考えられています。ネアンデルターレンシスはただそれだけのために氷期に滅びたとも。
では氷期になんとか耐えられたとしたら、ネアンデルターレンシスはその後も生き延びたでしょうか。フローレシエンシスは1万年ほど前まで生き残っていました。脳容積は400mlに満たない小ささです。それでも石器を作り使っていたようです。またフローレシエンシスとサピエンスは共存していたとも考えられています。サピエンスと交流があったのかどうかはわかりませんが。少なくともネアンデルターレンシスにも生き延びる可能性はあったはずです。
では、ネアンデルターレンシスが生き延びたとしたら、どういう文化を作り上げたでしょうか。
ピーチクパーチク喋りまくっていなかったということからは、文字が現れなかった可能性もありますし、むしろ文字が現われることを促進したかもしれません。サピエンスでも時間がかかったということと、ネアンデルターレンシスにはその時間がなかったということだけが確かなことです。
さて、文字と書いていましたが、これは数式でも同じです。一つのチャンクの内容を豊かにする数式。物理法則は地球上ですから変わりようがありません。そうすると、書き方はともかく、同じ数式に辿りついたでしょう。細かい文化は違ったものになるでしょう。ですが物理に基づいた文化は同じになるはずです。少なくとも表面的なものを除いたその根幹は。
それにホモ族以外の環境や生態系も同じでしょう。木を使ったことでしょう。石を使ったことでしょう。鉄を使ったことでしょう。見た目としてもサピエンスと似た文化を作ったかもしれません。
また、物理に関するもの以外でもサピエンスは文字を使うことで知識を記録し、伝えてきました。ネアンデルターレンシスでも同じことが起きたはずです。
サピエンスは何かの特権を持っていたために現在生き残っているわけではありません。現在は結果であるにすぎません。
ですが、文字はサピエンスの知的能力を拡大したことは確かです。ですが、それは脳の機能の向上という話ではなく、外部の脳として機能しました。そして言うなら、現在人間はその機能を脳の機能と誤解しているのではないかと思います。
つまり、あなたの脳は原始人と変わりはないのかもしれません。まぁ、そう言うと結構な人が「侮辱された」と感じるらしいですが。ちょいそのあたりは私の理解の範疇外ですが。
んと、「科学エッセイ2」に移ったら、「言葉」そのものをメインに書こうかと思っています。




