死んだ魚の目の侍
霧の京都に現れた侍たちと、体育教師・後藤の対決に、バスの中は大盛り上がりだ。
「後藤VSサムライだぜ!」
みんながバスの窓際に集まって、その成り行きを見守っていた。
それに気づいた侍の一人が、こちらをじろじろと無遠慮に見ている。
「あ! この侍、顔に傷がある‼︎」
誰かが叫んだ。
見ると、たしかにその男の顔には、十センチはある大きな傷が、目尻から口もとまで走っていた。
妙に生々しい傷だ。
「傷よりも、なんか、あの人の目、怖くない?」
隣の席の香が、つぶやいた。
同感だった。
その侍の目は、虚ろというのか、虚無というのか…なんの光も入っていない、死んだ魚のような目なのだ。
いったい、どういう経験をすれば、あんな目になるのだろう?
というか、本当にこの男たち、イベントのコスプレなのか?
俺の中に、疑問が湧いてきていた。
そのとき、後藤先生が、男たちを威嚇するように、なにか怒鳴った。
すると、四人の侍たちは驚くほど俊敏に反応し、後藤先生を取り囲んだ。
「ああっ⁉︎」
思わず、俺は叫んだ。
さっきまで、死んだ魚の目みたいだった男たちの目が⁉︎
いきなり、尋常でないほどの憎悪に燃えたぎって、ギラギラと輝きだしたのだ。
その男たちが、いっせいに刀を抜いた。
ギラギラと、刃が白く光った。