後藤VSサムライ
修学旅行、二日目。西本願寺に向かっていた俺たちのバスは、ありえないほど濃い霧に包まれていた。
「なんだ、ありゃ?」
濃い霧の中をノロノロと進むバスの前方に、提灯をもった男たちが立ちふさがっていた。
霧が濃いので、ハッキリとは見えないが、全員、揃いの和服を着ているようだ。
頭も、髷を結っているように見えた。
要するに、そいつらはサムライの格好をしていた。
バスは、男たちの直前で止まった。
「なんだよー。いくらイベントだからって、バスまで止めるのは、やり過ぎだよね。はやく本願寺に着いてほしいのに…」
隣の席の花崎香が、イライラして言った。
「おい、どうしたんだ?」
さすがに、同乗していた担任の後藤先生が、座席のあいだをぬって、まえのほうに出てきた。
「いや、あの人たちがバスの前に立っているもので…」
運転手さんも、困惑しているようだ。
「いったい、なんなんだ、あの連中は? コスプレってやつなのか? 扉を開けてください。私が話してきます」
後藤先生がそう言うと、すぐに運転手さんが、バスのドアを開けた。
この頃になると、眠っていた生徒たちも、だんだん起きてきていた。
「なになに?」
「なんか止まってるよ、このバス」
「うわっ。なにこの霧? やばくねえ?」
みんなが霧に気がついて、車内がざわつきはじめた。
後藤先生は、バスから降りて、男たちのほうに向かっていた。
体育教師の後藤は、身体が大きく、厳しい指導で、生徒たちから恐れられている。
だが、こんなときは頼りになる。
後藤先生がバスから出ると、サムライ姿の男たちは、後藤先生を取り囲むようにして立った。
「後藤VSサムライだぜ!」
「サムライも、後藤には勝てないっしょ」
バスの中は、意外に盛り上がっていた。