なにかのイベント?
「ねえ、涼斗、 見てよ、すごい霧だよ」
隣の席の花崎香に、肩をゆすられて、俺は目を覚ました。
「なんだよ…。もう本願寺に着いたのか?」
目をこすりながら、問いかける。
修学旅行、二日目の昼すぎ、移動中のバスの中だった。
「違うよ。それどころか、さっきからほとんど進んでないよ、このバス。なんにも見えないもん」
よく見ると、花崎の言うとおり、俺たちが乗ったバスの周りは、一面の濃い霧に包まれていた。
バスは、異常にのろのろと動いている。
なにしろ、すぐ目の前も見えないほど霧が濃いのだ。
前を行くはずの隣のクラスのバスの灯りも、まったく見えない。
それどころか、街の灯りも、なにも見えない。
「いま、どのへん走ってんだ?」
俺は、花崎に尋ねた。
「ええ? わたしに、そういうこと聞く? たぶん、壬生のあたりかな? 西本願寺の近くまでは着ているはずだけど…」
バスの中の生徒たちは、ほとんどが寝ていた。
みんな、前夜の修学旅行初日にはしゃぎ過ぎて、寺社めぐりの移動中は、完全に睡眠時間と化していたのだ。
その日は、午前中に清水寺を見学して、昼食後、西本願寺に向かう途中だった。
「だめだ。完全に止まっちゃったよ、このバス」
花崎がイライラして言った。
「まあ、そのうち着くだろ」
俺はまた眠ろうとして、目を閉じかけた。
が…
「あれ? なんだろ、あれ?」
花崎が、また肩をゆする。
「あのなぁ…。俺は眠いんだよ…」
「いや、でも…。見てよ、あれ。提灯なんか持って、なにかのイベントかな?」
「イベント?」
俺は、花崎が指さすほうを見た。
そこには、深い霧の中に数人の男が立っていた。
みんな、提灯みたいな灯りを手にしている。
男たちは、バスの進路をふさぐように、正面に立って、提灯をゆらしていた。
「なんだ、ありゃ?」
思わず、俺もつぶやいていた。
霧の中に浮かぶ男たちの姿は、サムライそのものだった。
はじめまして、一と申します。
こちらは、二本目の小説になります。
一本目は、「修学旅行に行ったらヘタレな俺がなぜか勇者に⁉︎」という小説です。
書き始めて半年も経つのに、いまだ主人公は勇者になれていない、というテイタラクなのですが、そちらも、もしよろしければ、ご一読いただければ幸いです。
二本目のこちらは、当分、不定期更新で書いていこうと思っています。
今後とも、よろしくお願いします。(-_-)zzz