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夏みかん  作者: あき
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そして朝は明けていく

朝の四時半。辺りはまだ薄暗く、静寂の中にかすかに聞こえる小鳥のあくびのような鳴き声だけが響く時、誰に起こされる訳でもなく目を覚ます。

二度寝するほどの眠気もなく、パチリと目が覚めるほどの清々しさもない。

ただあるのは「またこの時間に起きたのか」というため息だけだ。


ベットから身体を起こし、顔を洗い、上下のジャージに着替え、靴を履き、歩いて二分の場所にある「かぼす池公園」に向かう事が毎朝の日課となっている。


誰に命令されるわけでもなく、誰かに強制させられるでもなく、これが自分の朝のルーティーンとなっている。


かぼす池公園は池の周りを囲うように桜の木が並んでおり、ジョギングをする人もいれば、散歩コースとして使ってるお年寄りもいる。

春になれば桜がこれでもかというぐらいに咲き乱れる。それなりにお花見のスポットともなっているようだ。


しかし公園といえど、子供達が遊べる遊具もなければ、サッカーや野球をするような場所もない。

あるといえば、ベンチいくつかある程度と、ジュースの自動販売機が一つ。

そのせいもあってか、俺ともう一人を除いては、この公園を利用している人の平均年齢はやや高めだ。


公園に到着すると、池の周りを準備運動をしながら一周歩く。

一周歩き終わったところで、その日の気分で走り出す。

特に何周走るとか、何分走るとも決めず、気の向いたままに走る。

強いて終わりのタイミングとして挙げるとするならば「疲れたら」だろう。


走っている最中は基本的にボーっとしている。

何を考えるわけでもなく、ただ目の前に広がる景色をかき分けるように走るだけだ。そんな時間がたまらなく好きだった。


人間生きている中で一番疲れることは「常に何かを考えている」ということだと思う。眠っている時は夢を見て、その夢の中ですら人は考えることをやめない。

目覚めてみれば過去の記憶を思い返したり、何の確証もない未来に思いを馳せて。


俺は走っている時はすべてを忘れられる。

いや、忘れているという事にすら気付いていない。

ただ足を前後に動かすという命令が全身を駆け巡るだけだ。


しかしながら最近ではその時間が奪われつつある。

後数分すればいつものように後方から細かい砂利を軽快に鳴らす音が聞こえてくるだろう。


この軽快な足音の持ち主こそ、この公園の利用者の平均年齢を俺と共に下げているやつだ。

そして俺の貴重な時間を奪う張本人だ。


その名も少女A。名前は知らない。


名前も知らないどころか、顔もまともに見たことがない。


数ヶ月前に突然現れ、謎の少女Aとして俺の中で今話題を呼んでいる。


とまあ、そうは言ってみたものの、実を言うとあまり話題も呼んでいなければ、さほど興味もない。強いて言うならば、ちょっとした好奇心というやつで、更に言えば、俺の貴重な時間を邪魔するやつが少し気になるだけだ。

それに別に当の本人はただこの公園にジョギングをしに来ているだけで、誰の邪魔もしていない。俺の被害妄想も甚だしい話だ。

公園はみんなのものです。

他人に興味、関心を持たないわけではありません。

器が大きいのです。そういうことにしておいてください。


それでも彼女を何度か見る内に分かったことがいくつかある。


彼女は毎回赤いキャップ帽を目深まで被っている。

ショートカットで最初後ろ姿を見たときは男かと思ったが、しっかりと胸のふくらみがあったので、女と確認できた。


彼女は走るスピードが速いと言うこと。

速いときだと俺が一周している間に二回は追い抜かされる。これは俺が遅いだけという説も俺の中ではある。


彼女はいつも同じぐらいの時間に現れるが毎日ではないと言うこと。

小雨が降っている時でも俺はかまわず走りにきているが、彼女も走りにきていることがあった。と思えば次の日には来なかったりと、ずいぶん気まぐれで走りにきているようだ。


彼女は毎回音楽を聞きながら走っていること。

これもたまに気まぐれで口ずさんでることがある。


そして今わかったことがある。


噂の少女Aがまさに今後ろから走ってきたということだ。

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