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73 (東條凛視点)

東條凛視点。






 あたしの名前は、東條凛。

 ママの実家に戻ってこの名字になった。

 それ以前の名前は安倍凛。

 地味な名前よね。


 あたしに前世の記憶があるって気が付いたのは、高1の夏の終わりごろ。

 ママと買い物に出かけたとき、目の前に黒い高級車が止まって、そこから老夫婦が出て来た時だった。

 この人たち、知ってる!!

 そう思った時、何もかも思い出した。

 ママのお父さんとお母さん、つまり、あたしのおじいちゃんとおばあちゃんって人たちは、あたしを迎えに来たんだとわかった。




 あたしの前世、あたしは高校生で車に轢かれて死んだ。

 カレシはまだいなかったけど、いつかできるんだと思ってた。

 だからその日を夢見て、乙女ゲームってやつをやってたんだけど。

 あたしの周囲はそんなことを理解してくれなかった。

 キモい、暗い、地味子って散々陰口をたたかれた。

 本当のあたしを誰ひとりわかってはくれなかった。

 それは仕方ない。

 だって、あたしを理解できるのは、あんたたちじゃないもの。

 王子様なんていやしない。

 あたしの王子様は、あたしが掴まえるのよ。

 当然じゃない! だって、あたし、結構可愛いのよ。

 地味子なんて呼ばれてるけど、あれは単なる僻みだもの。

 学校のランク低い男共にモテたって仕方がないじゃない、だからわざと地味にしてただけ。

 休みの日は、うんと着飾って1人で街を歩いてたら、結構ナンパにもあったし。

 もちろん、付き合ってなんてあげなかったけど。

 そんなカンジで街に出てた時に車に轢かれちゃったんだけどね。


 その頃、あたしがハマってたゲームが『seventh heaven』だった。

 結構、難易度があって難しかったのよね。

 だってさ、逆ハー狙いじゃないのに途中までは攻略対象の好感度をある一定のレベルまで全員引き上げなきゃならないんだもの。

 そこから先は、攻略したい相手だけでいいんだけど。

 やっぱり玉の輿度が高い八雲先輩と伊織君はダントツ人気だったわ。

 あたしもこのふたりが大好きだったもの。

 でもねー、八雲先輩は美人過ぎてスチルを見るのがつらかったわね。

 主人公よりもきれいなんだもの。

 だから、どちらかというと伊織君オシなのよね、あたし。

 その2人の次は、疾風君かな?

 寡黙で守ってくれる男の子ってかっこいいじゃない?

 八雲様の好感度を上げないと疾風君は攻略できないんだけど、八雲様を上げ過ぎるとすぐに彼のルートに入っちゃって疾風君が攻略しにくくなるのよね。

 他の人たちもそれぞれお金持ちだし、カッコいいし。

 甲乙つけがたいってこういうことなんだってカンジ。


 その世界にあたしが転生してるって知って、それこそ有頂天になった。

 パパもママもおじいちゃんたちの申し出を素直に受け入れればいいのにさ。

 猛反発しちゃって大人げないんだってば。

 このままいくと、2人とも交通事故で死んじゃうのよ?

 まあ、パパは怒ってばっかりだから別にいらないけど。

 でもママは必要よね。

 何でかって? そりゃ、伊織君ルートに進んだ時に東條分家からあたしが狙われちゃうからよ。

 ママがいれば、あいつら、あたしじゃなくてママを狙うでしょ?

 だって、ママがおじいちゃんたちの娘なんだもの。

 あたしって賢いでしょ?

 だからあの日、具合が悪い振りしてママを引き留めた。

 何も疑わずママは残って、パパはブレーキ事故で死んじゃった。

 仕方ないよね、そういう運命なんだもん。

 助けてあげたんだからさ、ママはあたしに感謝して、ちゃんと役目を果たしてよね。

 パパのお葬式の時、立派な身なりのおじさんたちが参列した。

 式の後、あたしたちの所に来て、パパのお兄さんだって言い出した。

 ママは知ってたみたいだったけど、これってどういうこと?

 よくよく聞いてみれば、ママの家よりもパパの家の方が雲泥の差でお金持ちだということがわかった。

 嘘っ!! パパの家に引き取ってもらった方が優雅な暮らしができたわけ!?

 でも待って。

 ここはあたしのための世界なのよ?

 東條凛で暮らした方が、あたしは素敵な彼氏と一緒にもっと優雅な暮らしができるはず。

 そうよね。きっとそう。

 だって、あたしが東條凛なんだもの。

 葬儀が終わって、東條家に行ってみたら、話が全く違っていた。

 これって、どういうこと!?




 ゲームで見ていた家とは違って、何かものすごくさびれていた。

 そうして、あんなに強硬にママに戻ってこいとか、あたしだけでも来ればいいとか言っていたのに、母娘2人で暮らしたいならそれでもいいとか言い出しちゃって。

 話が違うじゃない!!

 そう思っていたら、おじいちゃんがぽつりと言った。

 莫迦な分家が手を出しちゃいけない人に手を出して、ほぼ全員、刑務所送りになっちゃったんだって。

 あら、いい傾向じゃない。

 あたしの邪魔をする人がいないってことよね?

 でも、それならどうしてここまで貧乏臭くなってるのかしら?

 半年前に会った時には、おじいちゃんもおばあちゃんもお金持ちっぽかったのに、今は何だか普通の人っぽいし。

 そこをはっきり聞いちゃったらまずいのかしら?

 首を傾げてたあたしに気付いたのか、おばあちゃんが苦笑して説明してくれた。

 ちょっと! 東條家が終わったってどういうこと!?

 これもやっぱり分家のせいなの!!

 本当に役立たずな人達よね!!

 それに、おじいちゃんとおばあちゃんもだらしないわよ。

 会社の株を誰かに一気に買われて、会社を手放す羽目になっちゃうなんて!

 あたしに贅沢させてくれるんじゃなかったの!?

 仕方ないわね。

 東雲学園に行って、伊織君が八雲様を落としてくるわよ。

 そうすれば、あたしはずっと贅沢して暮らせるわけでしょ?

 こんな家、いらないし。

 だって、あたしがこの世界の中心なんだもの。


 進学校じゃないのに、東雲学園の試験はちょっとだけ難しかった。

 でも大丈夫! 絶対通るから。

 そう思ってたら、やっぱり通ってた。

 クラスもゲーム通りに伊織君と一緒だった。

 これならゲーム通りに攻略進めれば伊織君とエンディングを迎えられるわね。

 あたしとラブラブになれる伊織君ってば、ハッピーよね。

 そう思いながら伊織君に声を掛けてあげれば、何よ、この態度。

 失恋を慰めてあげたのに、酷いじゃない。

 ああ、そっか。

 人前だから、照れてるのね。

 ツンデレなんだから。

 そう思ってたら、伊織君に手を振り払われてよろけてしまう。

 危ないと思ったら、あたしを助けてくれた人は八雲様だった。

 ゲームで見てた顔だけど、現実はもっと美人!!

 素敵素敵!

 こんなカレシがいたら、自慢できるわ。

 ゲームじゃできなかったけれど、現実なら両手に花も不可能じゃないかも。

 そう思ってたら、この人、八雲様じゃないとか言い出したし。

 誰よ、じゃあ!

 そう言えば、同じクラスになるはずの八雲様の妹の瑞姫はいなかったわね。

 この世界、あたしの邪魔な人はいないように神様が作ってくれたのね。

 やるじゃん、神様。

 結局、八雲様の弟は、名前を教えてくれず、伊織君と話し出す。

 ちょっと待ってよ。

 伊織君、なんでそんなに嬉しそうなの!?

 その人、どんなに美人でも男の子なのよ?

 だって胸ないんですもの。

 まさかのBL展開なんて言わないでよね!!

 それより、ヒロインのあたしを無視して話を進めないで!

 疾風君も誉君も、何でそんな目であたしを見るのよ。

 あなたたちはあたしのカレシ候補なのよ、一応だけど。




 クラスの女の子たちは、問題外。

 誰が仲良くしてあげるものですか。

 伊織君は、あたしのものなんだから、物欲しそうな目で見ないでよね。

 その伊織君は、ゲームよりもかなりの照れ屋さんみたいで、話しかけても目も合わせてくれない。

 でも、いいのよ?

 だって、すぐにあたしの魅力の前にひれ伏すことになるんだから。

 八雲様の弟君も気になるところだけど、あれから全然会わないし、何処にいるのかしら?

 ゲームじゃないから新キャラっていうのも変だけど、八雲様より攻略しやすいでしょうから、いつでも会いに来ていいのに。

 それとも、伊織君に遠慮してるのかしら?

 そう言えば、紅蓮君も静稀君も千景君にも会ってないわね。

 出会いイベントを起こさないといけないのよね、確か。

 条件はわかってるし。

 あたしが実力テストでいきなり10位以内に入って、話題をさらうってイベントだった。

 あら、そろそろ結果が出るころじゃない?

 あたしは伊織君のお嫁さんになるんだってことも、牽制として女の子たちに言っておかないとね。




 掲示板を見に行ったら、皆があたしを注目していた。

 そうでしょ、そうでしょ!?

 そりゃ驚くわよね。

 転校生がいきなり10位以内に入ってるんですもの。


 ………………あら、名前がないわ?

 って、ちょっとーっ!!!

 全教科赤点って何!?

 あたしの書いた答えのどこが間違っているのよ!!


 あたしが、この世界の主役なのよっ!!

この人書くのは、非常にツライです。

色々と勘違いしている最中なのです、今。

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