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 少しずつ、空気が冷気を伴い、澄んでいく。

 吐く息が白くなり、上着も厚みを増していく。

 秋だと思っていたのに、冬の気配がそこかしこに潜んでいる。


 車窓から覗く街はクリスマス一色だ。

 まだ11月だというのに、賑やかなことだ。

 そこまで考えて、ふと気づいた。

 クリスマスプレゼントを用意しなければ。

 渡す相手は限られているが、今までは瑞姫さんが用意していたので同じものを贈らないように日記を見て確認しておこう。

 そう考えて家に戻り、日記を確認していて目についたのはレジンというものだった。

 カフスボタン等を作っていたらしい。

 瑞姫さんはとても几帳面な性格だったらしく、用意したプレゼントなどはすべて写真付きで記録されている。

 私と入れ替わった時に、記憶としてそれが残っているかどうかがわからなかったこともあるが、何時・誰に・何を用意したのか、その準備を誰に頼んだのか、どのように指示したのか等、事細かに書かれているうえに、品物とラッピング後のそれを写真で記録していたので非常に助かっている。

 ラッピング1つ、カードの内容1つで、相手との会話が躓くこともあるからだ。

 贈った相手がカードの内容に触れたときに覚えてないということでは、相手に不快な思いをさせてしまうだろう。

 そういったところに気を配れるのはすごいと正直思う。

 実際にこの記録で助かったこともかなりある。今もそうだ。

 その記録の中で気になったレジンというものをネットで検索してみる。

 すぐに2種類がヒットした。

 エポキシ剤というA剤(主剤)とB剤(硬化剤)を混ぜて硬化させる種類のモノとUVレジンと言われる紫外線に当てて硬化させるモノ。

 瑞姫さんが使ったのはUVレジンの方だ。

 絵を描いて、その上にレジンを乗せて硬化していったようだけれど、最初から色を混ぜる方法もあるのか。

 これは面白そうだな。

 ネットには色々な作品の写真が載っていて、そのひとつひとつが手が込んでいて素晴らしく、目を楽しませてくれる。

 作り方もそれほど難しくはないらしい。

 レジンとパーツと型枠、色付け用の樹脂用着色剤などだ。

 メインのプレゼントに添える形で何かを手作りしてみるのはどうだろう?

 幸いにもUVレジンはまだ少し残っているようだし。これにパーツを揃えて作るのも楽しそうだ。

 何かいいものはないかとさらにネットで検索をかけると、キラキラとしたものを封入したレジンを見つけた。

「……オルゴナイト?」

 キラキラしたものは金属片のようだ。

 何でもポイント水晶と呼ばれる先端が尖った水晶に銅線をぐるぐると巻きつけたり、あるいは渦巻き状の銅線と水晶の細石、金属片をレジンに封入したものらしい。

 銅線が一番いいけれど、他の金属線を巻きつけてもいいのか。

 金属片は……ステンレスたわしとかアルミのたわしを細かく切り刻んだものでもいいらしい。

 たわしって、束子のことだろうか?

 金属のモノもあるのか、知らなかった。どこに売ってるんだろう。

 水晶の細石だけではなく、パワーストーンと言われる石も入れていいのか。

 画面の文字を読みながら感心する。

 空気をきれいにするとか水をきれいにするとか、電磁波をカットするとか、何だか色々と効能が書いてある。

 専門家でないと作れないものなのかと思えば、誰でも気軽に作れるものだと書き添えてある。

 楽しんで作ればいいと書かれてある文字を読み、作ってみようかという気になった。

「ペーパーウエイトなんて良さそうだな」

 効能なんて素人が作るのだから期待はできないだろうけど、それでもキラキラした綺麗なものが机の上にあれば気分転換にはなりそうだ。

「よし。やってみよう」

 失敗したところで、困ることはない。

 とりあえず材料とそれらが売ってある場所をメモに書く。

 それから、作る際の注意事項をよく読む。

「レジンはあまり身体によくないのか。換気に気をつけなければならない……外で作ればいいのか?」

 あ、でもUVレジンなのだから紫外線がある外では硬化が始まるので無理なのか。

 とりあえず窓を全開にして、給気と換気を行えばいいのか。

「アレルギー? ああ、身体によくない物質が含まれているのならありえるな。直接液に触れないように気をつけなければならないということか」

 手に湿疹とかが出来ている写真とかも載せてあり、気軽にできるけれどリスクもあるものだということを知る。

 その辺りを考え、対応できると答えを導き出し、とりあえずやってみようという結論に至る。

「まずは材料集めだな。レジンはネットで注文して……着色剤も。あとは、実際に見てみるか」

 そう考えた私はスマホに手を伸ばした。




 翌日、疾風に頼んで学校の帰りに材料を見に行くことにした。

 石やさんと呼ばれるパワーストーンを扱うショップに手芸屋さん、それからDIYのお店と100円均一のお店。

 初めて行く所ばかりなので興味津々だ。

 まずは大量に細石が必要だと思うので石やさんに行く。

 壁面にまで大量に、しかも色々な種類や大きさの石が飾られ、あるいは並べられ、圧倒される。

 値段も手頃のようだ。

 石の質は微妙なところ。

「まあ、宝石じゃなくてパワーストーンだからな」

 石を眺めて固まった私の耳許で疾風が囁く。

 どうやら店員に聞こえないようにという配慮らしい。

 つまり、ある程度の力があればよいという考え方なのか。

 まあ、そうだろうな。パワーストーンと言いつつも、天然石だけではなく人工石や加工石、金属やサンゴやベッコウ、アンモナイト等の生物もその範疇に入っているのだから。

「浄化用……?」

 何故か乾燥した葉が置いてある。

 タグを読めば、ハーブの一種であるセージの葉で浄化用と書いてある。

 どうやって使うのかと思えば、燻すらしい。

 煙をあてて燻せば浄化できるようだ。本当か?

 思わず半眼になってしまう。

 そう言えば、ネットでのオルゴナイト制作法の中に、ポイント水晶や細石を浄化するとか何も書いていなかったが、実際はどうなのだろうか。

 書いていないということは、細かいことは気にするなという意味なのだろうか。

 それとも、浄化することが当たり前なので敢えて書く必要はないという認識なのだろうか。

 あとで調べよう。浄化の方法も燻す以外にもあるのかもしれないし。

 とりあえずざっくりと気に入った石もあわせて細石等をトレイに乗せていく。

「……瑞姫、こんなに買い込んで、何するんだ?」

 胡乱な目でこちらを見る疾風にだんまりを決め込む。

「まあいい。はしゃいで買いすぎるなよ?」

 その言葉にハッとしてラリマーを掴んでいた手をそっと皿の上で開く。

 危ない危ない。ついうっかり余計なモノまで買いそうになっていた。

 これをレジンに封入したとばれたら、勿体ない事をするなと怒る人が出てきそうだ。

 こういう時はストッパー役の疾風はありがたい。

 石を眺めて必要ないものが無いかを確認したのち、レジを済ませた。

 その後、DIYのお店へと移動した。


「一体何をやらかすつもりだ?」

 あまりにも脈絡のない買い物に疾風が顔を顰めて問いかけてくる。

「失礼な! ちゃんとレシピに書いてあったものを集めているだけだぞ!」

 胸を張って言えば、懐疑的な視線が向けられる。

「レシピ? 何を作るつもりだ?」

「とても綺麗なものだ」

「金属たわしが、か?」

 全く信用できないと言いたげな眼差しだ。

 それもそうだろう。

 あんなにキラキラしたものがたわしからできているなんて、私も最初は疑った。

「出来上がれば、わかる。まあ、失敗して元々的なものだから、出来上がるまでは予想できなくても仕方がない。私も作ってみるまでわからないからな」

「キケンなモノを作るということだけはわかった。御館様に報告してもいいか?」

「それはまだやめてくれ。何事も試してみないと結果は出ない。結果が出て、初めて語れることがある」

 とりあえず言い包めてしまえと、尤もらしい言葉を紡ぎだす。

「……何を企んでるんだ?」

「キラキラした綺麗なモノを作ること」

 嘘ではないので、堂々と言い切れば、疾風が深々と溜息を吐いた。

「怪我、するなよ?」

「わかった!」

 銅線やら真鍮の針金やらを買い込んだせいで、怪我をしそうだと思ったようだ。

 針金を切る時は慎重にやろうと心に決めた。




 試しにいくつか作ってみたところ、大きな失敗もせず、それなりにキラキラしたものが出来た。

 正直に言おう。

 銅線の針金をぐるぐると渦巻き状にしてみたり、真鍮の針金をコイル状に巻いてみたりするのが非常に楽しい。

 ついつい下準備が重要だからとぐるぐる巻いて下手すると15cm以上の長さのコイルを作っていたりする。

 型枠の中に入れるためにはもちろん途中で切って短くするけれど、あまりにも楽しくてやめられずに気付けばものすごくぐるぐると巻いているのだ。

 自分で言うのもなんだが、随分とコイル巻が上達したように思える。

 渦巻き状の分も、直径1cmぐらいをと思っているのに、気付いたら3cm以上のものを作っていたり。

 もちろん、使うけれど!! 無駄にはしない。大きい型枠に入れればいいだけだ。

 楽しいことは良い事だと思うぞ、私は。

 作ってみてわかったことは、色の付け方が重要だということだ。

 全体に色を付けるのなら、なるべく薄い色がいいけれど、底の部分だけに色を入れるのなら、濃い色を使うと映える。だけど、黒に近くなると見えにくくなってしまうので固まりづらくなる。

 四苦八苦で試行錯誤を繰り返しながら、何とか人にプレゼントしても許されるかもと思える出来になってきた。

 これが瑞姫さんなら、1度で上手くいくだろうけれど、やはり私には経験値が足りないので、失敗をしながら経験値を積むしかないようだ。


 家での作業とは別に、期末試験の準備をはじめつつ、今年は少しばかり早く聖歌隊の練習に入った。

 私は今年もオルガン奏者の補欠だ。

 唄わなくて済むのは助かるが、こういう時は甘やかすのではなく厳しく練習をする方向に持っていくべきなのではないだろうか。

 そうすれば多少は音程が外れるのが修正できるかもしれない。

 まあ、実際に練習に割ける時間が少ないせいで、足を引っ張って合わせの時間を取るよりも、最初から下手な者は外しておいて上手い人たちをより美しい歌声にするように指導した方がいいという考えなのだろう。

 口惜しいが納得がいく指導だと思う。

 少々やさぐれた気分を味わいながら遠くを眺めていたら、男声部のところで何か話し合っているのが見えた。

 声楽担当の教師が誉に何やら楽譜を手渡そうとしているのだが、誉はそれを断ろうとしているようだ。

 在原が誉の背中を叩き、表情を輝かせて何か言っている。

 千景も疾風もいつも通りの表情で、誉に言葉をかけているようだ。

 楽譜を押し付けられた誉が天を仰ぐ。

 教師は上機嫌でその場を去った。

 どうやら、あの楽譜が問題のようだ。

 深々と溜息を吐いた誉は、肩を落とし、その場から離れた。

 何があったのだろうか。

 ざわめく会場の中では今のやり取りは全く聞こえなかった。

 在原の様子から、そこまで悪い事ではないようだが、誉の気落ちした様子が気になる。

 追い駆けてみよう。

 誰もこちらを気にしている様子がなかったので、その場を離れ、誉の後を追いかける。

 教会の外へ出て、ひと気のない木立の方へ歩いていく誉に声を掛ける。

「誉!」

「……瑞姫?」

「何かあったのか? さっき、何やら楽譜を手渡されていたようだが」

「ああ。見てたのか……」

 力なく笑う誉は肩をすぼめる。

「何となく視界に入った」

「そういうこと……瑞姫は今、休憩中? どこの担当になったの?」

「去年に続いて、オルガン奏者の補欠だ」

「そ……そうか」

 吹き出しかけた誉は、慌てて口許を手で隠し、笑いを収める。

「素直に笑え! 唄の才能はからきしないようだからな。こればかりは仕方がない」

 腰に手を当て、堂々と言い切れば、誉はくすくすと笑い出す。

「瑞姫の声は綺麗なんだけどなぁ……」

「他の音につられて、自分が何歌ってるのかわからなくなるんだ」

「それ、堂々と言うこと?」

「仕方ないだろう、事実だ!」

「……どこまで男前なんだか……」

 笑うだけ笑った誉は、手にしていた楽譜を私に差し出す。

「ん?」

「ソロパートの楽譜」

「ソロ!? すごいな……」

 ソロと言えば、聖歌隊の中でも一番歌が上手い人間が選出されるパートだ。

 誉の声は、確かにとてもいい声をしている。

 話声だけでも心地良いのだから、歌声になればもっと聞き惚れるだろうことは想像に難くない。

「あまり、ね……」

「誉は目立つのが苦手だからなぁ……」

 こればかりは持って生まれた性質なだけに、人前に立ってどうこうするのが苦手というのは仕方がない事だろう。

 彼の場合、今までが今までだ。

 橘家の跡継ぎとして人前に立てば、そのあと陰湿な大人からのいじめにあっていたのだから、それがトラウマになっているとしても納得できる話だ。

 その場に相応しい態度を取るということに関しては、問題なく立ち振る舞えるのだから苦手だろうが実際は大した問題ではないのだが。

「でも、まあ、その楽譜を持っているというのは、引き受けたということだろう?」

 押し付けられたというのが正しいかもしれないが、突き返さなかったというのなら誉ができると判断したということだ。

「私は誉の声が好きだな。その歌、聞いてみたい」

 そう言えば、誉は片手を挙げ、前髪をぐしゃりとかき混ぜてそのまま顔を隠す。

「瑞姫は人をノせるのが上手すぎるよ……」

 耳が赤い。

 照れているのだろうか?

「……どうせ、練習しようと思ってこっちに来たんだ。初めて歌うんだから、下手なのは愛嬌と思ってくれ」

「うん、わかった!」

 さて、どこで聞こう?

 わくわくしながら周囲を見渡せば、誉がベンチを見つけてそちらを指さす。

「向こうに行こう。あそこならあまり人目にもつかないし」

「了解!」

 そう言ってベンチに向かい、そこに座れば、苦笑を浮かべる誉が後を追ってくる。

「じゃあ、始めるよ」

 ある程度の距離を取ったところで楽譜を手にした誉が息を吸う。

 そこから始まった曲に、思わず聞き惚れる。

 柔らかな低音が紡ぐ神の愛は、静かな木立の中に溶け込んだ。

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