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137 (東條凛視点)

東條凛視点

少々長いうえに、不快表現ありです。

お嫌な方は飛ばされることをお勧めします。



 夢の中を歩いている気分。

 すべてが頭の上で決まっていく。

 実際、何が起こっているのか、全然わかんない。


 あたしは、東條凛。

 『seventh heaven』のヒロインだ。

 ホントは両親2人ともだったけど、パパだけが自動車事故で死んで、ママのおじいちゃんとおばあちゃんに引き取られた。

 東雲学園に編入して、極上の御曹司とかいう人たちとラブラブになるはずだったのに。


 すべてが何も上手くいかない。

 あたしがヒロインのはずなのに。

 ストーリーと全く違う展開ばかり。

 何で、どうして!?

 あたしの思う通りに攻略が行かないの?


 挙句の果てには、バグを修正してやろうとしたのに、殺人未遂で捕まった。

 何でなの?

 あたしが主役よね?

 ここ、ゲームの世界だもの。


 そういえば、『seventh heaven』は続編があったっけ。

 うんうん。確か、『seventh gate』だったわ。

 出たばっかりでまだやり込んでなかったけど、先行して小説は出てた。

 乙女ゲー雑誌に連載されてたのよ。

 世界観そのままで、攻略キャラもほとんど変わらずに、でも、主役が変わってた。

 今度はお嬢様だったから、そこまで興味は沸かなかったけど、人気としては前作よりもいいって評判だった。

 キーキャラの設定をがらりと変えたからってことと、王道キャラの1人が誰かと交代したせいで男の人もゲームしやすくなったとか聞いたし。

 乙女ゲーを男がやるってキモいからどうでもいいや。


 警察のおじさんたちは、あたしが何度も説明してやってるっていうのに理解しない馬鹿ばかり。

 挙句の果てには溜息ついて、精神鑑定とか言い出すし。

 ホント、ばっかじゃない!?

 しかも妙なこと言い出すしさ。

 パパとママがあたしの本当の両親じゃなくて、おじいちゃんがパパで、ママはメイドさんとか。

 しかも、メイドなママをおばあちゃんが誰かに頼んで殺しちゃったって。

 他にもお兄ちゃんがいたのに、それもおばあちゃんがって、どこのメロドラマよ?

 ママはママじゃなくてお姉ちゃんだって。

 それじゃ、あたしが主人公じゃなくなっちゃうじゃない。

 ヒロインはあたしなんだから!


 でも、紅蓮君が変なこと言ってたわ。

 あたしがバグだって。

 そんなはずない! だって、あたしが主役なんだし。




 格子付きのどっかの寮みたいなところに入れられて何日か経って。

 ママが頭の良さそうな女の人と一緒に来た。

 あたしを連れて帰ってくれるって。

 遅いじゃないの!

 手続きがあるからまた後でって言ってどっかにいっちゃった。

 そうしたら、今度は男の人が来た。

「東條の家を継ぐのは凛様、あなたですよ。さあ、御不自由をおかけいたしましたが、こちらにどうぞ」

 にっこり笑ったおじさんは、どこかの弁護士さんみたいな人だった。

 ほら、ドラマとかで見るでしょ?

 黒いスーツ着て、ピンバッジつけてる。

 銀縁メガネまでしててさ、完璧よね。

 その人があたしを車に乗せて連れて行ってくれたのは、高そうなホテルだった。

 しかも、スイートだかセミスイートだかわかんないんだけど、最上階近くのやっぱりものすごく高そうな部屋で、超可愛い作りだった。

 めちゃくちゃ豪華!! すごい!!

「御屋敷の準備がございますので、しばらくの間、こちらに滞在してのんびりとお過ごしくださいませ」

 そう言って、おじさんが世話係だって連れてきたのが、これまた弁護士さんみたいな女の人だった。

 こっちもいかにも! 的な人。

 高そうなベージュのスーツで、美人じゃないけど頭がよさそう。

 赤縁のメガネで、穏やかそうな人。

「凛様、あちらにお召し物を用意しておりますので、お気に召されたものに御着替えくださいませ。ああ、その前に、バスルームへご案内いたしましょう」

 そう言って、その女の人はあたしをバスルームへ案内してくれた。

 わかってるじゃん。

 あそこ、シャワーは使わせてくれたけどさ、すっごく不便で嫌だった!

 しかも、掃除も自分でしなきゃいけないなんて最悪!!

 でも、ここはホテルだから、好きなように使って片付けしなくていいんだもの、最高よね。


 それから数日間、あたしはその部屋でのんびりと過ごした。




 男の弁護士さんは、あたしをホテルに連れて来てからは会ってない。

 女の弁護士さんの方はずっとつきっきり。

 とは言っても、1人にしてくれるし、必要なときにはいつでもいるし、いろんな話を教えてくれるし、欲しいものも用意してくれる。

 すごく便利な人だわ。

 こういうのを有能な人っていうのね。

 でもさ。

 ゲームじゃこんな展開ないのよね。

 シナリオはずれてるわ。

 どうやったらシナリオに戻れるのかな?


 部屋の中はいつも快適。

 欲しいものは全部揃ってるしね。

 でも、たまには外に出たい気もする。

 いつまでここにいればいいのかな?

 でも、テーブルの上に置かれたフルーツ盛り合わせって、なんかすごくない?

 自分で好きなものが食べられるように、ちゃんとフルーツナイフも用意されてるし。

 それを毎日何回も取り換えてくれるし。

 タワーのように積み上げられてるそれを見るのは、テンションあがる。

 一応、リンゴの皮むきくらいはできるのよ?

 だから、試しにむいて食べてみたら、ものすごく美味しかった。

 ナイフなんてするするってよく切れるし。

 上手ですねって、女の弁護士さんも言ってたくらいの腕前なんだから、あたし。

 そんな弁護士さんが、面白いことを教えてくれた。

 相良瑞姫、あの女が展示会を開いてるんだってさ。

 友禅作家? 着物に絵を描くやつだっけ?

 あいつ、そーゆーのらしい。

 お嬢様なのに、変なの。

 まあ、いいわ。

 その展示会をしてて、そこにいろんな人がくるらしい。

 それで、そこから離れたところで車に乗って帰るんだって。

 ふうん。チャンスじゃない?

 あの女がいなきゃ、皆、あたしのこと好きになるんでしょ?

 バグは正さなきゃ。

 今度こそ、間違えないようにしないとね。


 あたしは、女の弁護士さんに散歩に行きたいと言ってみた。

「ええ、どうぞ。ずっとお部屋にこもっていても退屈でしょうし、偶には気分転換も必要ですものね」

 そう言って、その人はバッグとかの小物を見繕ってくれた。

「歩きすぎては疲れますから、ホテルを出て少し歩いたら、タクシーに乗って回るのもいいですよ」

 お札が結構たくさん入ったお財布まで用意してくれた。

 御嬢様っていいわね。

 あの女に思い知らせたら、このお金でどっかに旅行っていうのもいいかもしれない。

 あたしが生きてた日本と違って、ここ、四族だとか葉族とかっていう貴族みたいな特権制度的なものがあるし。

 確か、公式ファンブックに四族とか葉族とかの説明書いてたけど、あんまりよく覚えてないのよね。

 侯爵とか伯爵みたいなものかしら?

 ゲームの中じゃ、グループ分け程度にしか出てこなかったからわかんない。

 細かいところ気にしたってしょうがないか。

 そう思ってふとテーブルの上のフルーツナイフが目についた。

 あ、あれ。持っていこうっと。

 最近、何かと物騒だもの。

 護身用に必要だよね。




 ホテルを出て、タクシーに乗って、聞いていた場所へと行ってみた。

 本当に聞いていた通り、あの女がビルから出て来たわ。

 すごいすごい! チャンスじゃない!!

 あの弁護士さん、本当に有能ね!

 じゃあ、ちょっとバグを片付けなきゃ。

 あたしはバッグの中からナイフを抜き取る。

「ふふっ 今度こそ、間違いなく消してあげるから」

 そう呟いて足を踏み出した時だった。

「確保!!」

 がしっと誰かに肩を掴まえられ、近くで叫ばれた。

「ちょっと! 邪魔よ!! 放しなさいっ!!」

「大人しくしろ!」

「凶器、刃渡り10cm程度のナイフのようです。こちらも確保!」

 誰かががしっと右手首を掴み、フルーツナイフをもぎ取った。

「やめてよっ!! 邪魔しないで!! いらない物を消すんだから」

 思いっきり暴れようとしたけれど、押さえつけられてびくともしない。

「もうっ!! 放して!! 邪魔だったら!!」

 あの女が行っちゃう!!

 疾風君があたしに気付かない。

 どうしてよ!?

「……あーあ……東條の人間って、皆、こんなカンジばっかりだな」

 どこかで呆れたような声が聞こえる。

「バカばっかりの分家と一緒にしないでよ! あたしは東條凛よっ!!」

 この世界は、あたしのためのものなんだから!

 モブが邪魔していいわけないのよ!




 ムカつく!

 ホントにムカつく!!




 どうして思い通りにならないの!?




 憤るあたしを無視して、またしても狭い部屋に押し込められる。


 今度は、野暮ったいスーツの女の人があたしの前に現れた。

「東條凛さん、で、間違いないですね?」

「そうよ。それがなに?」

 あたしは間違ったことをしていないわ。

 なのに、誰もがあたしを責める。

 いらないわ、こんな世界。

 ねぇ、神様。

 こういいわ、こんな世界。だから、いつでもリセットしていいわよ。

 早く2周目に入ってよ。

「相良瑞姫さん殺害未遂の容疑があなたにかかっています。何故、このようなことを?」

「あいつ、バグだからいらないのよ。あたしがこのゲームの主役なのに。この世界の主役はあたしだって決まってるのに、思い通りにならないやつを消して悪いの?」

 何度も言ったセリフ。

 いつもはこれで変な顔をされるけれど、この人は違った。

「あなたが知っている相良瑞姫さんについて話していただけますか?」

「八雲様の妹よ。八雲様は1つ上の3年生だったはずなのに、何故か5歳も年上になっちゃってた。それに、相良瑞姫は完璧なお嬢様って呼ばれてて、腰ぐらいまでの真っ直ぐな髪だったのに、ショートになってて、しかも男の子の制服着てるんだもの。最初は八雲様かと思ったわ」

「では、何故、彼女が男子生徒の制服を着ていたか、御存知?」

「知るわけないでしょ!? あんな奴」

「……不思議な話ですよね。あなたと相良瑞姫さんが会ったのは、3回だけだそうです。様々な目撃証言を集めて確認しました。4月の始業式の日、それから授業で1回、そうしてあなたが階段から突き飛ばした時。それなのに、何故、あなたはさも相良瑞姫さんのことを知っているように話されるのですか?」

「だからーっ!! それは、ゲームで何回も邪魔されて……」

「……今回は、邪魔されました?」

 そう言われて、ふと気づく。

「そう言えば……全然?」

 八雲様の弟君だと思い込んで探し回ってたのに、全然会わなかった。

 なんで?

「彼女が何故男子生徒の制服を着ているのか、その理由もご存知でないわけですね」

「それが、何よ?」

「数年前、事件に巻き込まれて、それこそ生死にかかわる大怪我を負ったそうですよ。一生消えないかもしれないという傷が身体中に残っているそうです。本当はこういうことをお話しするのはいけないことなのですが、あなたには必要だと思われますので、許可をいただいております」

 そう、女の人があたしに言う。

「事故?」

 何だろう?

 記憶に引っ掛かった。

 聞いた、ううん。見た覚えがある。

 事件。

「あなたがつきまとっていた諏訪伊織君とその従姉妹の諏訪詩織さんを誘拐しようとしていた犯人たちによって、彼女は害された」

「……え?」

 何だろう。

 見た覚えが……。

 伊織君は詩織に失恋してなかった。

 王道攻略キャラが入れ替わっていた。

 それって……嘘。

「heavenじゃなくて、gateってこと!?」

 どういうこと!?

 あたしがいるのに、heavenじゃない!?

 嘘よ、あたしがモブなんて!!

 主役はあたしよ!!

「東條凛さん?」

 混乱するあたしの名前を女の人が呼ぶ。

 そうよ、あたしは東條凛よ!!

 『seventh heaven』の主役なんだから!!

 ええっと、でも、gateの主役は誰だっけ……確か、確か……。

「……安倍りん……」

 うそ。

 あたし、だ。

 うそうそうそっ!!

 あたしじゃない!!

 東條に引き取られる前のパパの名字!!

 あのやたらとお金持ちっぽいパパのお兄さんたち!!

 あっちに行けばよかったの!?

 じゃあ、今のあたしって、モブ以下!!




 呆然としたあたしに、女の人は根気よく説明してくれた。

 そうして、あたしも彼女の質問にぼうっとしながら答える。


 何で私が死んで、ここに来たのかはわからないけど、そのあとの事は理解できた。

 あたしは、最初の選択で間違ったんだ。

 パパが生きてれば、こんなことにならなかった。

 引き留めてれば、パパは生きてて、普通に生活できてた。

 だって、あたし、安倍凛の記憶がないんだもん。

 これからどうやればいいのか、全然わかんないってことはよくわかる。

 元の学校に戻ることはできない。

 凛の友達、知らないんだもの。

 話なんて合わないし、きっと向こうもあたしのことを忘れてる。

 友達ってそんなものだから。

 それに、あたしはパパに対する殺人幇助と相良瑞姫に対する殺人未遂の容疑があるんだって。

 まあ、それはホントのことだから。

 あいつがいなきゃと思ってたから。

 理解できたら、余計なことまで思い出した。

 相良瑞姫って、ライバルキャラだけど、悪役じゃないのよね。むしろ、キーキャラだった。

 彼女との会話で攻略がわかるの。

 東條凛の駄目なところを教えてくれて、こうした方がいいって注意してくれるキャラだった。

 友達にはなってくれないけれど、要所要所で助言をしてそれをクリアできればフラグが立ったり、回収できたりするんだっけ。

 ただし、彼女自身が完璧なお嬢様だから、クリアできるレベルは鬼だけどね。

 なんで忘れてたのかな……。

 あたしはぼんやりと天井を見上げる。


 白い、白い、パネルの天井。

 高くなくて、むしろ低くて圧迫感がある。


 あたし、これからどうすればいいんだろ。

 どうやって生きていけばいいのかな。




 お願い、だれか、教えてよ……

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