115 (東條凛視点)
東條凛視点
何よ、何よ、何よっ!!
おかしいじゃない、コレ!?
絶対、何か間違えてるわよ!!
あたしは掲示板を見上げてそう思った。
何であいつの名前があるのよ、あたしの名前があるべきところに。
この世界にはいないはずの、『相良瑞姫』の名前が。
この世界はあたしのための世界よ。
いらないはずのあいつが、何でいるのよ!?
おかしいじゃないの!
主役はあたしなのに、何で……。
あたしのための世界なのに、何であたしの思う通りに進んでいかないの?
どうして誰もがあたしの邪魔をするのよ。
何で!?
そもそも、八雲様が1歳年上じゃなくて、5歳年上というのも変な話よね。
攻略キャラが同じ学園内にいないなんて。
その代りに現れたのが、八雲様によく似た弟君。
名前は、知らない。
だって、教えてくれないんだもの。
つか、接触する機会が極端に少ない。レアキャラよね。
八雲様がいないってことは、当然、御付だった疾風君は弟君の御付に変更。
噂によれば、相当な過保護らしい。
まあ、弟君が病弱なら、仕方がないわよね。
そういうわけで疾風君も接触できずにいる。
誉君のお母さんは、この間死んじゃったって聞いた。
これも話が違うわよ!
秋頃に亡くなって、あたしが慰めてあげるってことになってたのに。
静稀君も、婚約者がいなくなってた。
そもそも婚約なんてしていないってことで、奪略愛ができないのもつまんない。
千景君は、いるってことはわかってるのよ!
だけど、パラが上がんないから会えないし。
あのクソ生意気なちびっこが双子だってこと、初めて知ったわ。
そんな設定、あったっけ?
それに、紅蓮君も変よ!
本来、生徒会に入ってたのは静稀君で紅蓮君じゃないわ。
絶対におかしい!!
そうして、一番おかしいのは、伊織君よ!!
あの従姉妹に失恋してないって変じゃないの!?
高校入学前の春休みに失恋して、グッタグタになってるはずなのに、妙に爽やかだし。
伊織君っていったら、オレ様な性格が魅力なんじゃないの。
なのに、全然オレ様じゃなくて、単に孤高の人っぽいスタンス保ってるだけ。
ちなみに、あの詩織ババアに失恋してないなんて言ったのは本人だから。
強がりかと思ったら、そうじゃないみたいで、本当にそう思ってるようだった。
『詩織は俺にとって母親のようなものだった。それを恋と勘違いしていただけだ。ただそれだけのことだ』
なんて、清々しい表情で言ってくれちゃって。
それを気付かせるのがあたしの役目だってーの!
どうして、皆、シナリオ通りに動かないの!?
それと、一番の疑問は、何で主人公補正が効いていないのよ?
今回、あたしがトップを取らないと、イベント始まらないのに。
ああ、そうよ。
シナリオは、あたしが動かせばいいんだわ。
イベント起こして、フラグを立てればいいんだ。
なによ、簡単じゃない。
大伴家のパーティに行けないのは痛手だけど、別のイベントを起こして代用すればいいのよ。
それに2学期はイベントだらけだし。
まずは文化祭イベントとハロウィンだったかしら?
それに生徒会選挙活動。
伊織君を生徒会長にしてあげないとね。
夏休みのイベントは、パーティだけだったけど、お金持ちって別荘持ってて避暑に行くんでしょ?
だったら、お呼ばれされてあげるわよ。
伊織君のところの別荘ってどこにあるのかしら?
名字が地名になってるんだし、やっぱりあそこよね。
あら? 名字が地名? 地名が名字?
ま、どっちでも同じことだからいいか。
早速伊織君を見つけなきゃ。
伊織君と紅蓮君はほぼ一緒に行動するから、一緒にパラ上げ出来るしね。
ラッキーじゃないのって思いながら、あたしは伊織君を探した。
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学校の中って、案外情報の宝庫だってことは、あたしだって知っている。
ここにきて知ったことじゃなくて、向こうの世界で気付いたことだけど。
例え、お育ちが良くってもさ、結局は同じ人間じゃん? 友達といろいろ話すわよね。
誰が聞いているのかも、結構、気にせずに、ホントにぺろっと喋ってたりね。
だからあたしは知らん顔をして耳を澄ますの。
周囲に人がいることを承知で喋ってる方が馬鹿なのよ。
まあ、男子の話は殆ど役には立たないけどね。
株とかナントカの相場とか、爺臭い話ばっかりだし。
廊下を走るようなガキは殆どいないし、ゲームの話をするような人もいない。
ホント、つまんないガッコだこと。
ゲームの世界じゃなきゃ、東雲学園なんて絶対に来なかったわよ。
ここの生徒たちは、簡単に見分けがつく。
四族の中でも特に上位の本家筋は、品よくおっとりという言葉がよく似合う。
廊下は走らないし、常に穏やかだし、極上の人間って言葉の意味が何となくわかる。
とても静かでつまらないモブキャラよね。
それ以外の四族は、まだ普通に近いけど、あたしを完全無視してる。
あたしの立ち位置が妬ましいクセに、喧嘩を売ることもなく無視という形で嫉妬を隠せない莫迦。
葉族はそれ以下。
無視するのは同じだけど、こっちを見てこそこそと何か話してる。
カンジ悪って言ってやろうかと思ったけれど、所詮負け犬なんだもの、大目に見てやるわ。
やたらと絡んでくる奴らが、外部生ってわけ。
ホント、ウザいんだから。
背景にも描かれないモブ以下なのに、生意気よね。
あたしは、あんたたちと違うんだから! 一緒にしないでよね。
あ、伊織君、見つけたっ!!
あたしを夏休みの間、独占させてあげるんだから、ちゃんと別荘に誘ってよね。
絶対に相良瑞姫には邪魔させないから!
あたしは伊織君の方へと駆け出した。
思えばこれが、悪夢への序曲ってやつだったのかもしれない。
現在、資格試験勉強中。
社会人になってからの方が勉強するってナニゴト