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110 (東條凛視点)

東條凛視点




 どうしてなのかな?

 シナリオ通り、思うとおりに事が運ばない。


 ちょっと怪我したくらいなのに、何であたしが謹慎処分になるの!?

 怪我する方が悪いんじゃない!

 あら、もしかして、これもイベントかしら?

 『会えない時間が二人の愛を育む』って言葉があったモノね。

 きっとそうよ!

 じゃあ、頑張って時間稼ぎをしないとね。

 中間試験とか、メンドーだしさぼっちゃえ。


 そんなことを考えていたんだけど、大体どのくらいの時間が必要なのか、全然わからないことに気が付いた。

 この世界、あたしが主役で世界の中心のはずなのに、仕様が不親切なのよね。

 パラメータとか表示させてくれればいいのに。

 大体、このゲームって元から難易度高いんだから、もう少し考えてくれてもいいと思うのよ。

 課題はテキトーに終わらせたけどね。

 だって、そうでしょ?

 あたしが主役なんだもの。

 課題を済まそうが終わってないだろうが、時間が来れば呼ばれるに決まってるわ。

 多分、重要なのは『家から出ない』ってことなのよ。

 色んな乙ゲーやった私だからわかるのよ。

 例え、シナリオにないイベントだって、経験値で予測可能なんだから。

 きっと退屈なのを我慢して、じっと家の中にいれば、伊織君との愛が深まるのよ。

 八雲様の弟君や他の攻略キャラとのパラがどうなるのかが微妙だけれど。

 まあ、いいわ。

 今回は仕方がないと諦めてあげる。

 伊織君ルート攻略が今回のミッションにするわ。

 でも、千景君に未だに会えないのが残念だけれど。

 ほんっと、彼ってば隠しキャラ並に難しいのよねー。


 そうやって頑張った2ヶ月近く。

 ようやく学校側から連絡があった。

 課題提出して、期末試験を受けるようにって。

 ちょっとー! 遅いじゃないのさ。

 普通は1ヶ月ぐらいでしょ、謹慎って。

 ホントに無駄に難易度あげちゃってさー、きちんとシナリオ通りに動いてよね。

 次の伊織君のイベントは、期末試験だったわね。

 あたしが彼を差し置いて主席になるやつだったわ。

 うふふふふ……伊織君、すごく驚いて、あたしを見直すの。

 それから夏の大伴家のパーティのパートナーで選んだ相手の攻略ルートのシナリオが2学期以降から展開されるんだっけ?

 んー……ちょっとそこのところが曖昧だなー……肝心なところなのに。

 まあ、いいわ。

 どうにでもなるしね。

 だって、私が主役なんだもの。




 復帰したあたしを待っていたのは、想像とは全く違う展開だった。




 歓迎されるはずのあたしの復帰は、完全無視だった。

 目を合わせる人はいない。

 当然話しかけてくる人も。

 いなくて当たり前の人だという認識になっているということがわかった。

 何なのよ、これ!?

 どういうつもりなのかしら、神様ってば。

 伊織君までもがあたしを無視する。

 おかしいでしょ!?

 あなたの恋人はあたしなのよ!

 八雲様の弟君の姿もないし。

 その疑問は、ようやくわかる。

 期末試験があるからだって。

 そりゃ、仕方がないわね。

 いい成績を取らないといけないものねー。

 あたしみたいに、書けば正解なんて主人公補正があるわけでもなし。

 せいぜい無駄な努力をしてなさいって。

 八雲様の弟君は、どうやら病弱なようね。

 今日は休みだって心配そうに誰かが言っていたのを聞いたし。

 だから疾風君たちが過保護になってるみたいだわ。

 儚い美少年ってことかしら?

 新キャラとしては成り立つパターンよね。

 隠しキャラなのかもしれないけれど。

 情報が少ないから、最後に攻略すればいいわね、あの子は。

 とりあえずは、伊織君が1番よね。


 試験問題は、ナニコレ? なモノばかりだった。

 ミニゲームの内容とは全然違うじゃない。

 でも、いいわ。

 あたしには『主人公補正』っていうモノがあるんだし。

 テキトーでも何とかなるしね。

 試験が終われば、伊織君とのお話タイム。

 ホント、伊織君ってばツンデレよねー。

 あたしが話しかけてあげてるっていうのに、まともに返事しないんだもの。

 その分、デレたときのギャップが激しいのね、わかるわ。

 いつでもデレてちょうだい。

 あ、その前に、少しは次の手を打っておかないとね。

「あっそーだっ!! 大伴家のパーティ! 私、パートナーになってあげるね」

 さあ、いつでも誘いなさいな。

 詩織なんてババアにいつまでも血迷っていないで、若くてかわいいあたしに声を掛けるべきよ。

 そう思っていたあたしの耳に届いた言葉はありえないものだった。

「諏訪家は、大伴家の夏のパーティに招待されていない。東條家の人間は、一切、大伴家の敷地内に立ち入ることを禁じられている。そんなことも知らずによく莫迦なことが言えたな」

「え?」

「大伴家のパーティにおまえを誘う者など、何処をどう捜しても現れることはない。いや、どの家のパーティでも東條を招く者はいないだろう。諏訪も然り。犯罪者を出した家の末路はそんなものだ」

「え? 犯罪!?」

 一体、何のことよ?

 大伴家の敷地内に立ち入り禁止って、パーティに行けないってこと!?

 冗談じゃないわよ!!

 あれがないと、攻略ルートがっ!!

「伊織君!? ちょっとー!! ねえ、待ってよ!!」

 諏訪家が招待されてないって、どういうこと!?

 それじゃ、伊織君攻略できないってことじゃないの。

 あたしを置いて行く伊織君の後を追い駆けたけれど、伊織君は振り返りもせずにそのままどこかへ行ってしまった。


 一体どういうことなのか、確かめなきゃ。

 早く家に帰らないと。

 そう思って、あたしは東條の家に急いで帰った。




「どーゆーことか、説明してよ!! 何であたしが大伴家のパーティに行けないの!? ううん、他の家のパーティに招かれないって、何なの!?」

 あたしの質問に、おじいちゃんは溜息を吐いた。

「分家だ」

「は?」

「分家が刑事事件で逮捕されているから、その余波が本家に及んでいるんだ」

「あら、あなた。民事事件でも検挙されていますわ。本当に役に立たない分家だこと。まあ、あなたの親族だから仕方がないことですけれど」

 おじいちゃんの説明におばあちゃんが言い添える。

 つかおばあちゃん、ちょっと辛辣じゃない?

「また、分家!? ホント、マジやめてよね! 居なくなってもあたしの邪魔ばっかりして!!」

 ホント、ムカつく!

 あたしの役に立たない存在なんて、この世に必要ないわ。

 まあ、モブはあたしの引き立て役とかあたしの栄光を見守る役としていてもいいけど。

 観客がないと、せっかくのLLEDが引き立たないしね。

「何なのよ、もう。せっかくのチャンスを潰しまくる分家って。なんできっちり管理しておかないのよ!」

「ホントにねぇ。だから、勝ち目のない喧嘩を売って、逆に潰されることになったんだわ」

 忌々しげにおばあちゃんが同意する。

「葉族だからって、馬鹿にされ続けることになったのも、元はと言えば、あなたがしっかり分家を管理しておかないからよ」

「そういうおまえこそ! いい加減に四族だった時のことを忘れるんだな!! 四族で貰い手がなくて仕方なくその葉族に嫁いだのだろう!? まあ、四族といっても分家の下枝だがな」

「なんですって!?」

「そういうおまえだからこそ、娘の教育に失敗して、家出などされたのだろうが!!」

「そういうあなたこそっ!」

 あれ?

 夫婦喧嘩勃発?

「大体、あなたが女にだらしないからいけないんですわ! メイドなんかに手を付けて、孕ませたりするからこそ、あの子が愛想を尽かせて出て行ったんじゃありませんか!?」

「男を産まないおまえが悪いんだろうが!!」

 あたしそっちのけで、莫迦な喧嘩始めちゃってさ。

 あーあ……馬鹿みたい、ホント。

「どこの馬の骨ともわからない下賤の女に産ませた子にこの東條を継がせるというのなら、最初からわたくしを買わなければよかったのですわ! おかげでわたくしは3人も始末をしなければならなかったのですから」

「……おまえかっ!? おまえが17年前、あれらを……」

「そこまでにしていただけませんか? お父様、お母様。子供の教育上、かなり不適切な表現が混じっていますわ」

 いつの間にやって来たのか、扉に寄りかかるようにしてママが立っていた。

 ちょうどいいところだったのに、リアル昼ドラでさ。

「凛ちゃん、期末試験中なんでしょう? お部屋に戻ってお勉強しなさい。東雲は外部生は50位に入らなければ退学になっちゃうのよ」

「へ?」

「だって、そうでしょう? あなた、中間試験受けてないんですもの。期末試験で50位に入らなければ、校則で退学になってるのよ? 頑張らないとね」

 にっこりと笑うママの笑顔は実に無邪気だ。

「大丈夫よ、ママ。だって、あたし」

「あのね、凛ちゃん。東雲学園の試験、あなた、落ちてたんですって」

「は!?」

「ママ、この間、学校に呼ばれて初めて聞いたわ。学力足りなくて落ちてたのをおじいさまが寄付金積んで、あと、理事の皆さまが後押ししてくださったから、強引に合格名簿に名前を載せることができたんですって。ママ、それ聞いて、とっても恥ずかしかったわ。無理しないで今まで通っていた学校に戻った方がいいんじゃないのかしら? お友達もいることだし」

 柔らかな笑顔で告げる言葉は、初めて聞くことだ。

「あたしが、試験、落ちてた?」

「ええ。まあ、当然だと思うわ。凛ちゃんの通ってた公立高校と東雲じゃ、ランク、かなり違うんですもの。受かるわけがないのよ」

 ちょっと……自分の娘にひどくない!?

「それを無理やりお金を積んで合格させろだなんて、恥ずかしくて……これだから葉族はって言われても仕方がないことしてますわね、お父様」

 思わず背筋がぞくりとするような、冷ややかな声でおじいちゃんを睨むママ。

「私から子供を奪い去ろうとしたこと、いくら我が親でも一生赦しませんからね」

 ママからおじいちゃんたちが子供を奪い去ろうとした……あたしのこと?

 まあ、確かにそうなるかもね、ママから見れば。

「大体、妙な欲を出して、凛を引き取ろうと言い出さなければ、あの人だって巻き込まれずに済んだのに。すべてはお父様方の自業自得です。分家のせいじゃないわ」

「親に向かって何を言う!?」

「一度縁を切ったからには親子ではないと仰ったのはお父様でしょう? 正式に相続放棄の手続きも完了しましたし、私、今度こそ、この家を出ることにしますわ」

 せいせいしたと言いたげなママの晴れ晴れとした表情。

「あとは、凛ちゃんね。あなたはどうしたいの? あなたの戸籍は今、パパとママの所からおじいちゃんの所へ移されてるの、養女として。それこそ、あなたやママの意思を無視してね」

「ママ?」

「おばあちゃんが、あなたのママになってるのよ」

「は!? おばあちゃんが!? いつの間に!!」

「ほーんと、いつの間にって言いたいわよね。ママも手続してる時に、弁護士さんに教えてもらって初めて知ったの。当事者抜きに勝手に戸籍を動かすなんて」

「それは、おまえたちの為を想って……」

「没落した家が何を仰るやら。しかも、当代限りと決まっているにも拘らず。悪足掻きをしたところで好転するどころか、さらに落下の一途しか道は残されていないのに」

 ママの言葉がおじいちゃんを追い詰めてるって感じがした。

 もう後がないっていうのは、はっきりとわかる。

 ついでに言うと、おじいちゃんに当主としての才能がまるっきりないことも。

「凛ちゃん、自分でよく考えなさい。もう高校生だものね、自分の進むべき道くらい、自分で選ばないといけないものね」

 そう言ったママはまるで知らない人のようだった。




 そうして、数日後、あたしはもっとひどい現実と向き合うことになる。

凛の攻略知識は完全に間違ってます。

思い込みの残念知識で進んでいます。

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