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目の前の世界が揺れる。
何かが壊れそうになる・・・
私と彼の肌と肌が擦れ合う。
静寂の中で、私の声と彼の吐息だけが響く。
何もかも忘れてしまいそうになる。
――――時計の針の音が割り込んでくる。
確実に、刻は朝を迎えようとしていることを、私に知らしめるように。
時計の針はどんどん大きくなっていく。
目眩を感じる・・・・。
「――――加奈子?」
その声に、彼女は我に返る。
どうしたの、と頬に優しく触れてくるその手を、彼女は柔らかく握り返す。
「大丈夫。なんでもないの」
「女性のなんでもない、って言葉は、本当は何か言いたいことがあるんだって、サイトに書いてあったよ」
「ふふっ・・・どういうサイト見てたの?」
加奈子は、そう言いながら、彼の手を解き、仰向けに寝そべる。
私の心を自分の所へ置いておきたいから、そういうサイトをチェックしているのだろうか。
それとも、『私の心』ではなく、元々引き止めたい対象が前にも居たのか・・・・
と考えながら、考える事をやめる。
考えても、どうしようもない事だ。彼に聞くわけにもいかないのだから、
答えなどない。答えのないことを考えても、自分の意識がいい方向に向くわけがない。
「もう少し休んでから・・・出ようか」
「うん、そうね。了一さんも寝ないと、明日が大変」
「大丈夫、体力あるから」
二人でくすくすと笑い合う。
時計の針は動く。
時間を止めようなどとは思わない・・・この時計の針が、二人の愛を深めているという合図なのだから。
この瞬間だけは。