お引越し!の4
「次は田仲よ、志多野よろしく」
「おうよ!」
田仲の番、だけど俺も一緒に撮影する理由……それは、田仲は一人でやらせると自己紹介をしない、てゆーか喋らない。だからいつも俺がインタビューして田仲がそれに答える、という形式を執っている。
田仲を先導してソファに座らせ、俺も一緒に座る。
ソファはマシュマロより柔らかかった。
前澤が録画ボタンを押すのが見えたので、インタビュー開始だ。
「……お嬢ちゃん、お名前なんて言うの?」
「田仲……クしゅんっ」
なんか息遣いが荒くなってきた。
「飴あげるからお兄さんのお家行こうか」
うへへ。
「待て前澤カットしろ。志多野落ち着け!」
おもいっきり境に頭を叩かれた。
「いてえなおい。何事だよ竜巻か?」
何が起きたか分からず境を見た。叩かれたことだけは分かっている。
「お前の違う人格が出てた」
「境、違うぞ。決して違う人格ではない。俺は俺だ」
境の言葉を冷静過ぎるくらいに否定する。
「誰だお前! 後言っておく事といえば、田仲はまだ性別が判っていない。いくらかわいくて襲いたくなってもダメだ! それだけを胸にしまっとけよ?」
こ、こいつ……何なん?
いくら俺がアレでも田仲は……。
「それはね、分からんのだよミシェル君」
「ミシェル誰やねん!」
「俺の母さんの妹」
「まじか!」
「嘘」
「嘘かよ!!」
俺から吹っかけたけど、実にくだらん!
「いい加減始めない?」
「うっす」
前澤の一言で、境は退散していく。
「はい録画スタート」
「じゃあ名前から聞こうかな。お名前は?」
田仲の顔を見て言う。身長が二十センチ程違うせいもあって、田仲を見下ろすような形になっている。
「田仲……クしゅんっ」
小さな口元を雲のような白さの小さい手で覆い、小さくくしゃみ。
田仲は風邪でもひいてるんじゃないかと思うくらい、いつもくしゃみをする。
「趣味は?」
「植物を育てること……クしゅんっ」
静かな水のせせらぎのような声が俺の耳を癒してくれる。
田仲と出会って四年くらい経つけど、みんな性別が判っていなかった。趣味はかなり女の子っぽいが……。
今回は理性を保てそうだ。
「どんな植物が好き?」
「ハス……」
滅多に見せない『微笑の上』。
かわいいなあと思うが、男だったときのダメージが大きいのでその気持ちを抑える。
「じゃあ性別は?」
「クしゅんっ!」
性別はくしゃみによって聞き出せなかった。いくら問い詰めてもくしゃみしかしないと、俺たちは知っている。今はわざと聞いてみた。
諦めよう……時期判る、多分ね。
「明日は何の日?」
「新山高等学校植物園芸科の入学式」
いつの間に付けたか分からない扇風機の風で、深海のように青い田仲のセミロングの髪がなびいていた。この砂浜のようなリビングによく似合う。
てか寒いんだが。
「この家でしたいことは?」
「庭園でいろんな植物を育てたい」
田仲は微笑こそしなかったが、期待に溢れた瞳をしていた。庭園は田仲のテリトリーになりそうだ。
「たとえば?」
「ハス」
庭園の真ん中にあった噴水で育てるのだろうか。
ここで録画一時停止。
「田仲の性別がかなり気になるけど、最後は志多野だな」
カメラマンが再び境に入れ代わった。