お引越し!の3
で、リビングに着いた。また中が凄いのなんの。
玄関よりも広い。当たり前か。
窓からの日差しで、白貴重とするリビングは砂浜をイメージさせるかのようにキレイだった。広さは学校の教室一個半と言ったところか?
「よし! じゃあ始めようぜ」
境が十人は座れそうな白いソファのど真ん中に俺を座らせた。
「ビデオカメラ設置完了! 最初の司会は志多野、頼んだ。録画スタート!」
「え!? ちょっこれもう始まってんの?」
うん、とみんな頷く。一人だけを録画している場合、その人以外の声は入れてはならないというのが俺たちのルール、らしい。
「げは、んん! 失礼。ではこれから【引越し無事終わったよスペシャル、ちなみに明日俺たちが入る『新山高等学校』の入学式だぜ】を始めます」
噛んでしまった……
「あと、これは激烈な下ネタが含まれる危険性があります。注意してください。全てノーフィクションです」
「はいカァット! いいねえ。最初噛んだのいいねえ。じゃあトップバッター阿部!」
おおっと、トップから危険だ。もしかしたら一番危険……てか危険な奴は多分阿部だけだ。
阿部がソファに座ると同時に録画開始。
「名前は阿部明美で~す。永遠の二十歳だよ! この度新山高等学校、教育科に入学できました~」
ここでみんなで拍手。
「んで~、少年と幼女大好きです! 世間でいうショタコン、ロリコンかな? でもここから重要……だって私、腐女子ですから!」
来た……今から爆弾発言連発か?
「たいてい妄想してよだれ垂らしてます、多分。どんな妄想するかは、男の子同士が「クしゅんっ!」したり~」
ナイス田仲! 完璧なタイミングのくしゃみ!
「それで「クしゅんっ!」を「クしゅんっ!」で「クしゅっ!」みたいな妄想をしてま~す。最後に、変態は褒め言葉です!」
はあ、危険だった。毎回阿部は危険だ。阿部は何も喋らなければ男たちの虜にできるのだが……ダメだな。
「うん実に良かった。じゃあ次、前澤!」
これもまたソファに座った直後録画スタート。
「前澤、立派な男よ。半人前のニューハーフだけど。今はとある店で働いてるわ。どんな店か、収入はどのくらいか、聞かないほうが身のためよ」
ストレートの黒い髪が窓からの日差しによってきらびやかに光っている。
「ちなみにこの家の支払いは全てあたし持ち」
カメラのレンズを獲物を見据える猛獣のように、鋭い瞳で睨みつけて
「積極的な男は大好きよぉ。逆に感じやすい男も……あたしがエスコートしてあ・げ・ル」
ゾッと背筋が凍りつく感覚に襲われた。気のせいか?
「特に志多野、あんたは大歓迎よぉ」
気のせいではなかったようだ……。
「余談だけど新山高等学校の接待科に入学するわ」
余談にすんなああ。大事だからさ!
前澤が立とうとした瞬間に境が録画一時停止ボタンを押した。
「相変わらずだな前澤は、じゃあ次は俺だよな。前澤、録画よろしく」
境がソファの感触を味わいながら座る。
何も言わず前澤は録画開始。
「俺だ! 境だ! 動物だ! 動物大好きだ! この家に住む以上、動物をたくさん飼うぜ! 好きな動物はワニ、ワニには思い出がたくさんあるから……」
照れくさそうに馬のような茶色の短髪をぽりぽりと掻く。
「あと、お父さん! お父さんめっちゃ好き! 何歳になっても俺はお父さんと風呂に入りたい! 一緒に動物を観察したり育てたり釣りしたり、楽しいことしたい」
なんとも境らしい。いわゆるファザコン。猫のようなかわいい目をして好きなものを存分に話している。
いやかわいくない、男だからな。隣で阿部はよだれを垂らしているが……
「そんで明日、新山高等学校動物飼育科に入学するぜ! 将来はお父さんの動物園を継ぐことだ!」
力強い決意の言葉を残し、録画一時停止。
「いつもどおりだねえ」
阿部が腕を組み、しみじみ言う。