大事な一線と魔術
「志多野のファーストキスはあたしの物よ! 志多野、早く境から離れないさい!」
「境、動くなよ」
あまり近くで口を開けたくないせいで小声になる。境は伸びているのか聞こえていなようだ。
「なんかやけにうるさい……ね……?」
ガラッと扉が開く音がした。
「志多野くん、何やってるの?」
聞き覚えのない声、誰だよ。振り向こうにも動いたら当たってしまいそうだ。
「今志多野が境を押し倒したんだよ!」
「ちげえよ! いや、違わなくはないけど! でも違う!」
阿部め、余計なこと言いやがって!
「う、う~。バッ!」
――――
「……」
「……?」
「キタアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「そ、そんな……志多野のファ……ファ……ウボアァ!」
「クしゅんっ!」
…………。
「…………?」
あまりにも衝撃的過ぎて思考が何秒間か止まっていた。とりあえず離れよう。考えるのはそれからだ。
「…………………?」
「いつまで寝ぼけてんだよお前は!!」
渾身の一撃で境の空っぽな頭をはたいて全力で部屋の隅まで逃げる。
「え、いや、え?」
「おお~」
パチパチという乾いた音と、「うおおおおおおお!」という絶叫が部屋にこだましていた。
「やっぱり志多野と境は最高のカップリングだね!! うおおおおおおお!」
「……あ」
恐るおそるといった感じで境は片手を口元に運ぶ。
「は、まじで?」
まだこの出来事をあまり理解できていないようだ。
「境が飛び起きようとしたからだぞ……」
全ての責任は境だけではない。元はと言えば無理やり俺とダイブした前澤のせいだ。その前澤はというと、血の泡を吹いて畳の上にぶっ倒れている。
「……ピョォォォォーーーーーーーーーーー!!」
「何ちゅう悲鳴上げてんだよ」
「いやだってよ!? は!? 意味分かんねえよ! あ、でも俺いっつも動物たちとキスしまくってるしそれと同じにしちゃえばいいか! よし!! 万事解決!」
「いや待て! 境が良くても俺が良くないんだよ!」
「あー、たくさん叫んだから喉渇いちゃった~」
「話を替えようとしても無駄だぞ阿部、俺は……!」
「じゃぁちょっと、私の魔術でブルーポーションを出してあげよう」
読んでくださりありがとうございます。
かなり長い間を空けての投稿となりました。
ようやく変態な日常に戻ってきた今日この頃。
※この物語はファンタジー物ではございません!!
次話をお楽しみに。