遊びたい!
「おー、志多野ー無事だったかー」
おもいっきり空気の読めてない伸び伸びとした声は、茂みから現れ、こちらに歩いてくる先生のものだった。ていうか今までどこ行ってたんだよ……。
「なんとか無事だったけど。先生、あの時どこ行ったの?」
よく考えてみると、何にも理解できていない。あい子ちゃんたちが仲直りした、それは分かる。あの教室の前に来た瞬間先生と川上が凍りついたように動かなくなって……それから川上があい子ちゃんに乗っ取られて……。
その時から先生の姿はなかったはずだ。
「あー? いや、普通に1―4の教室の前にいたな。志多野と川上がいなくなったっけか、たしか」
表情一つ変えず恐ろしいことを言う先生が、逆に怖い。
「俺と川上も同じ場所にいたはずだぞ。あれ、じゃあ何で――」
先生はいなかったんだろう。
「そんなの簡単だ。磁場だよ。その子たちが作ったね」
何もかもお見通しのように先生はニヤリと笑い、四人の子どもたちを見る。
「作られた磁場の中に志多野と川上は入ってしまったのさ。私はプロだからな、引き込まれる前に回避した」
ドヤ顔やめろよ……。
「幽霊の想いの念が強ければ強いほど磁場は大きく、危険なモノになる。その子たちの磁場はまさにそれだ。だからすぐに助けを……志多野と仲の良い境たちを呼んだってわけさ」
なぜそこで境たちを呼んだんだ。普通は霊能者とかじゃないのか?
「てか、俺と境たちが仲良いって何で知ってんの?」
一番の疑問だった。先生に境たちのことは話した覚えはない。
「え、だって私あんたらの担任だし。まだ一週間くらいしか経ってないけどそれくらいは分かるよ。いつもべったりきもいくらいくっついてるし」
担任だと!? 今初めて知ったぞ!
「明らかに今初めて知った、って顔してるわね」
図星過ぎて何も言えねえ。前澤め、痛いところついてきやがる。
「そりゃそうだよな! だって志多野はババアに興味ねえからな!」
「当たり前だ。そんなもんに頭使う暇があったらあい子ちゃんを襲う!」
決まった……。しっかりガッツポーズもし、高らかに言い切る。
「バカなの? 本人の前で」
――――。
「あ」
「あ」
近くから殺気のようなものが漂ってくる。
「これが誘導尋問てやつか! 境、やりおる」
「境がいつ志多野に尋問したのよ」
「そうなると……境が志多野に強引に攻める――志多野が受けってのもなかなか」
阿部のニヤけた口元から滝のようなよだれが垂れていた。いつも思うけど、どこからあんな大量のよだれが出てるんだろうか。
「なんかマイワールドに入りやがった。だから俺と境で妄想すんなよ!」
もう阿部には何も聞こえていなかった。
「まー志多野、境」
殺気マックスだと思われる先生だが、やっぱりその声に感情が無い。というより棒読みすぎて感情が掴めない。
「後で面かせよー」
棒読みのせいで、また違う恐さあった。
「俺の面は高いぜ?」
何言ってやがる境は……。空気を全く読めてない!
「あーもうそんなことどーでもいいでー、磁場の危険性だっけー? とにかく、めんどいから適当に説明するけど」
「適当かよ!」
「そこ、いちいちツッコむな、くそめんどい」
やる気なく睨まれたが、俺は目を背く。仕方ないじゃない! ツッコみたくなる体質なんだもの!
「磁場の中はいわゆる別世界だ。今の世界とは似て似つかない世界だな」
言われてみれば確かにそんな感じだ。あのときは1―4の教室にちゃんと床はあった。でも俺があい子ちゃんに引き込まれそうになった瞬間、床が消え、ぽっかりと暗闇が大口を開けていた。その瞬間のときに磁場から出た、ということか。
「んじゃ、言いたいことは言った。境たちは担当の先生たちに言ってあるから、午前中は授業をサボリます、とねー。午後までは好きにしなー」
と言って森の闇の中へ溶けていった。
「……はぁ!? あの先行! サボります、じゃねえよ! サボるために来たわけじゃねえよ! くっそ……!」
境はありったけに怒鳴ったが、先生が返事をするはずもなく。
「クしゅんっっ!」
お、珍しく田仲が怒っている! くしゃみから怒りの雰囲気が漂っている。
「ねえ、あい子これからどうすればいいの?」
「そうだな。あい子ちゃん『たち』で決めればいいと思うぜ」
あい子ちゃんは首を傾げた。しかしすぐ三人のほうを向く。
「あい子、どうすればいい?」
「私たちはあい子ちゃんと遊びたいな……」
「僕もだよ」
「私も!」
もう、彼女らはうまくやっていけそうだ。これで他人を襲うこともなくなると、思う。
「ありがと! あい子も、遊びたい!」
今ここには俺たち五人と、あい子ちゃんたち四人、そして忘れてはならない、彼女がいる。
読んでいただきありがとうございます。
ホラー?編の全てが決着しました。
もっと明るい話を書いていこうと思います!
世間はクリスマスモードですが、彼らの頭の中は毎日がクリスマスのような思考ですのでお付き合いください。