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変態の日常的生活  作者: 荒崎 藁
新山高等学校での変態たち
54/66

かけがえのないもの

 教室から出て、俺は床に寝転がる。川上は突っ立ったまま俯いている。

「志多野、お前……」

 そんなに俺の泣き顔がおかしいのか、地上に上がるなり境は腹を抱えて笑い出していた。

「なんだよ――!」

 俺も、つられて笑う。

 しかしいつまでも笑ってはいられない。まだ何も解決してないのだから。

「あい子ちゃん」

 涙を拭いて立ち上がり、教室の前にいる彼女を呼ぶ。

「…………」

 反応がない。

――何だろう。彼女から何も感じ取れない。ていうか、目の前に人がいないような……もちろん彼女はすぐそこにいる。

「あい子はここだよ」

 その声は裏から聞こえた。途端、彼女は重力に任せて体が傾く。

「おっと」

 それを境が支え、床にそっと寝かせる。

 俺は、体を反転させる。そこに立っていたのは、あの三人の子どもたちと同じような光を放つ、両腕の無い少女だった。しかしそれは薄っすらとあるだけで、よく目を凝らすと少女越しに床の木目が見える。

「…………」

 絶句? 開いた口が塞がらない? まさにそんな状況だった。

俺の目に映っているのは――、


『幽霊』


 幽霊が居たっておかしくない。この霊学科で幽霊を見た生徒はもう何千人といるのだ。しかもここは数十年前に理由わけあって廃校になった小学校。そこまでしかあの先生は話さなかった。

 ということは、あい子ちゃんが川上の身体を乗っ取っていたということだろうか。でも何のために……。

「どうしたの?」

今考えても仕方が無いか。まず、あい子ちゃんとあの三人を仲直りさせんとな。

「いいや」

 首を横に振り、1―4の教室にいる三人を呼ぶ。

やっぱりこの子たちも幽霊だ。床の無い教室で、ずっと浮いていた。床があるところでも、足音などなかった。

 俺の傍まで来ると、三人は動きを止める。

 それからしばらく無言の空間が生まれた。境たちも空気を読んでくれている。

 最初に沈黙を破ったのは、両足と片目の無い女の子。

「ごめんね……あい子ちゃん」

 あい子ちゃんはずっとそっぽを向いていた。また暴れるかと思ったが大丈夫そうだ。

「私たち、あい子ちゃんとずっと遊びたかったんだよ……」

「――なら! 何で断ったの! あの時も、あの時もあの時もあの時も!!」

 殺気立って声を荒げると、三人は少し怯んだ。しかし、負けじと言葉を続ける。

「あい子ちゃんのなくし物…………探してたんだ」

 片腕の無い男の子は真っ直ぐにあい子ちゃんを見つめた。そのあい子ちゃんは、何のことか分かっていないような顔をしていた。

「両腕――あい子ちゃんの、両腕」

「……」

 今の殺気が吹き飛んだように、俯き黙りこくる。

「七並べ好きだったよね。でも、腕なかったらできないでしょ?」

「だから僕たち、必死に探したんだよ。またみんなで楽しく、笑って遊べるように――」

「見つかるまでは遊ぶのはやめとこう、って約束したんだ。あい子ちゃんの悲しむ顔が見たくなかったから……」

俺には、彼らが幽霊だとは思えなくなっていた。だって……友達のためにこんな一生懸命で、思いやっていて……。

「――たのに……」

 両腕の無い少女は、ぼそりと呟いた。上手く聞き取れない。全身を包んでいる淡い光とは違った、頬を伝って零れ落ちる光が見えた。

「よかったのに……そんなこと」

 顔を上げ、涙を流しながらもその表情は柔らかかった。

 聞いている俺も、涙腺が崩壊寸前だった。それは俺に限らず、境たちも同じで肩を震わせている、阿部なんか号泣していた。

「……やっと話せた」

「見つかったんだよ」

「あい子ちゃんの……両腕」

 三人は一人ひとり告げていく。

「!!」

 もう、あい子ちゃんからは涙しか出ていなかった。

「すぐ言おうと思ったんだけど、言えなかった……きっと聞いてくれないんだろうなって、何年も」

「そんなとき、志多野さんとあい子ちゃんが遊んでるところ見て……志多野さんのお友達に化けて、一緒に遊ぼうと思ったんだよ。そしてこのことを伝えると決めたんだ」

 片目の失っている女の子は饒舌に語っていった。

「今まで――――ほんと、ごめんね」

 彼女たちの想いが伝わってきたような気がした。きっと彼女たちも苦しかったんだろう

遊びたいのに断らなくちゃいけない。それは大切な友達を傷つけないために。でもそれが逆に友達を傷つけていた。

「ううん、あい子こそ……ごめんね。そして、ありがとう」

 この空間の中で涙を流さなかった者は、いなかった。

「志多野さん、ありがとうございます。志多野さんのおかげで、あい子ちゃんとまた遊べます」

 俺の身長の半分も無い小柄な少女たちは、深々と頭を下げてくる。こういうところを見ると、俺のほうが年下に見えてしょうがない。

「いや、四人で仲直りしたんだ。俺は何もしてない」

 涙を噛み殺しながら無理やり笑顔を作って吐き出した。

「最後にお願い聞いてくれますか?」

「おう。何だ?」

 断る理由など探しても見つからなかった。

「あい子ちゃんの腕を、埋めてやってください。お願いします」

「任せろ――!」

 こっちです、と案内されて三人に着いて行く。川上は阿部が背負ってくれた。

場所は、今回の実習の目的地である保健室だった。

 それ以上は思い出せない。ほぼ無意識で、老朽化している引き出しから二つの細い腕をベッドのシーツでくるみ、校舎の外の近くにあるあい子ちゃんの墓へ埋めた。それくらいの曖昧な記憶しかなかった。腐乱した自分の腕を見て、あい子ちゃんが何か言っていたような気がしたが、内容は分からない。

「ありがとうございます、志多野さん」

 照れくささを笑顔で誤魔化す。

更新遅くなりました。

読んでくださりありがとうございます。


まず、コメディーじゃなくなっているような気がしてならないです。

こんな重い話はこれで最後にしたいところ……。

地の文がこんなんでいいのか、とても不安。


次からはもう超、超はっちゃけさせるつもりです。

もっと変態要素マックスで明るすぎる高校生活をお送りします!


次話をお楽しみに。


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