変態が進歩する時
というわけで、今はペットショップにいる。あれ、どんなわけだっけ。
「ぐるるう~ワン!」
テンションが、やばい。
「ミャー」
無駄に高い声しやがって。お前はいつ変声期が来るんだ。
「って! ふれあいコーナーの動物全て占拠してんじゃねえよ!」
境の周りには犬、猫はもちろんウサギなどこの柵の中にいる動物全てに囲まれていた。
いつも疑問に思うのだが、動物のふれあいコーナーがあるのになぜ幼女のふれあいコーナーがないのだろう……。これは差別なのか!?
「おお? 志多野も抱っこしたいのかぁ?」
このドヤ顔……ムカつく。
「別にー。俺は田仲抱っこするからいいんだよ」
「俺の想像の中でお前が逮捕されてるんだが……」
どんな想像すれば俺が逮捕されるんだよ! おかしいだろ!
まあ気にしないでおこう。
「田仲~おいで~」
しゃがんで境の周りにいるウサギを撫でている田仲を呼ぶと、不思議そうな顔をしながらこっちへ来た。
「ほれ!」
半ば強引に田仲を抱っこする。嫌がる素振りは見せないのでしばらくこのままでいよう。
この幼女体型……たまらん。
「境、誘拐していいか?」
「俺を!?」
「誰もお前なんか誘拐しねえよ!」
「私が誘拐するよ!」
今まで夕真と悠奈を愛でていた阿部が急に乱入してきた。この手の話には必ず入ってくるからな……。
「そうだったな阿部がいたな。よかったじゃねえか」
「よくねえよ! ワニとかになら誘拐されてもいいな」
「死ぬぞ」
境はジョークで言っていないので危険だ。ワニはさすがに……まずワニは誘拐しないだろ。
「志多野、次あたしね」
「いや、絶対抱っこしねえよ? 俺の腕の中は幼女限定なんだぜ」
「…………幼女化する薬ってないのかしら……」
あったら便利だろうな。
前澤はそのことを考え込んで、マイワールドへと入っていった。石像の如く一ミリも動かない。
「くぅ~ん」
さっきから鳴き真似をしている境がどうも気にかかる。
「何がしてえんだよ」
「動物たちと、心を通わせているのさ!」
こういうのを見ているとかなり嫉妬心が出てくる……動物ならいくら触っても逮捕されんのに、幼女を触るとすぐ刑務所行きだからな。
「それならもっと境さんも動物になりきらないとね」
そう言って悠奈が境に犬耳を付けた。また何を企んでいるんだ悠奈の野郎。それと悠奈はまださっき俺が着させた白い服を着てランドセルを背負っている。もちろん三角頭巾付きだ。
「おおー! そうだな!」
案外犬耳気に入っとる! なんだこいつ!
「ちょっちょっちょっ……境がかわいすぎて、私もうやばい……」
なんとか立ってはいるものの今すぐぶっ倒れそうな勢いだ。阿部の精神をここまで狂わせるなんて……。
「おいよだれ!」
「……ふぁあ?」
多分だが、今の阿部には俺たちの声がちゃんと聞こえないのかもしれない。このままだと店内がよだれプールになってしまう! どうすればいいんだ……どうすれば……あっ、そうだ。あいつがいたな。
「夕真! 阿部のよだれどうにかしてくれ」
「任せろ兄貴!」
一体どうする気なんだ……。ペットボトルかなんかに溜めたって足りやしないぞ。
そして何故この状況で悠奈は爆笑しているんだ。全てはこれが狙いなのか?
「――――!」
――な、な、な、な、なんだと!?
「何でこうなった?」
「クしゅんっ」
「ちょっと……予想外」
「夕真くん、なかなかやるじゃない」
一人は理解不能、一人はくしゃみを、また一人は驚きを隠せないでいる。さっきまでの爆笑はどこいった。前澤なんか称えてやがる。
俺は意外すぎるよだれの対処法に、度肝を抜かれている。
だって……口から垂れてくるよだれを阻止するためとはいえ……。
「キスをするとはな……」
読んでくださりありがとうございます。
ペットショップなのに今回あまり境が目立ちません。
阿部と夕真が濃すぎました。
次回は境をちゃんと出そうと思っています。
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