神の変態
「兄貴兄貴」
「どーした?」
耳元で話しかけてきた夕真の顔は、いつもの気が小さい顔とは何か違っていた。
「明美ちゃんの首筋に……」
………………。
「流れてる汗、とっても舐めたい!」
ぐはっ! さすが我が弟、言うことが一味、いや二味違う。何という変態発言なんだ!
これが今時の小学三年生の男子なのか!?
否否否否否否否否否。
そんはずがない。これは志多野夕真だけの特権なんだ……阿部を見る目がもはやストーカーレベルだ!
「ん? 夕真くんが私のことを見てる!? ダメ! そんな見つめられたら……」
阿部は阿部で興奮してやがる。田仲を目前にしてこいつら緊張感が全くねえ。もしかしたら性別が判明するかもしれないってのに。
「おい、動き出したぞ!」
「だからお前は声でけえよ。田仲にバレるじゃねえか」
「ふっ……」
な、何で今ドヤ顔したん?
「行くわよ」
「待て待て、みんなさっき脱いだだろ。着るんだ」
そう言って境がさっき脱ぎ捨てた迷彩服を押し付けてきた。
「そんな暇ねえよ。着たきゃ一人で着てろって」
そして迷彩服一人と俺たちは田仲の後を着けるのだった。
田仲にバレないように追跡するのは、困難極まりなかった。
向かっているのは恐らく店の方だ。温室を真っ直ぐ歩けば五分もかからんだろう。だがしかし、何なんだろう。
真っ直ぐは歩いている。いるが……五歩くらい歩くと前向きのまま十歩くらいバックするという無駄すぎる動きをしていた。でもその顔には何故か楽しげな表情を浮かべている。
バックするせいで近付きすぎると見つかってしまうのである。なんて面倒くさいんだ。
「てかさ、あれちゃんと前進んでんのか?」
「…………進んでない気がするわ……」
それもそのはず、田仲は五歩歩いて十歩下がっている。
「田仲ってあんな変なことする奴だったんだな……」
境が何故か俺のメモ帳にメモしていた。
「境はいつも変だけどな」
「志多野には絶対言われたくねえ事だ!」
「いいねえお二人さん! お熱いねえ!」
「神の変態だ」
「ああ、神の変態だ」
俺と境はそこで黙った。
「それにしても田仲何してるんだろうね……私ちょっとスパイしてくるよ」
「待て阿部」
「志多野おめえ、気持ち悪いぞ」
立とうする阿部を境を抱くことによって気を反らせた。
「俺だって本意じゃねえんだ! 泣きてえよ!」
「うおっ! カメラカメラ!」
何で俺のカメラを使うんだこの変態女は! 男とハグしてるところを自分のカメラで収められるなんて!
「抱きつくな! きしょい!」
我慢の限界のため、境を吹っ飛ばした。
「お前が抱きついてきたんじゃねえか! ぶっ飛ばされたいのか!」
「もう終わりなのぉ?」
「阿部は少し黙れ!」
「阿部は少し黙れ!」
俺と境は口を揃えて叫んだ。
「あんたら……あたしにぶっ殺されたいわけ? 何、それとも襲ってほしいの?」
やべぇ……。
読んでくださりありがとうございます。
次回からどんどん展開させていきたいと思っています。
念のため、志多野はあっち系でもそっち系でもありません。
※ただの変態ロリコン幽霊好きなだけです
次回もお楽しみに