運命は一つとは限らない
あれから俺たちは人波に流されて入学式が行われる講堂へとたどり着いたのだった。
「おい、これは……」
「ありえんて!」
俺と境は呆れて――いや、驚嘆していた。
呆れているのは前澤のほうだ。
「この広さなんだよ! アメリカの牧場並に広いぞ!」
「いや、それは言い過ぎだって! でもそんくらいありそうだな!」
講堂の広さが異常過ぎる!
なんだこれ! 俺ん家とは比べ物にならん!
「席自由だけど、どこ座る?」
前澤はなんでそんな冷静でいられるんだ!
「一番前行こうぜ! 一番前!」
境が人の迷惑など気にせず一番前の席へ走っていく。
その後を俺は、迷惑を掛けた人たちに軽く謝りながら境に着いて行った。
「おせえぞ志多野!」
丁度一番前の席は空いていたようで、境は先に座って俺に手を振っている。
「お前が早いんだよ! 謝るのに苦労したぜ……」
後半は独り言のように呟き、境の隣に座った。
「もう急に走らないで。それに一番前って……」
まるで母親のように前澤は俺たちを叱る。
「私はどこでもいいよ。ただし! 境か志多野の隣ね」
できれば阿部、俺の隣に…………ダメだ!
よだれが俺に付く可能性があるしな。
となると――
「志多野の隣はあたしよ」
ですよねーー。
よだれが付くか、痴漢的行為を受けるか…………。
俺の運命は『邪』しかないのか!
「…………クしゅんっ」
少し強めにくしゃみをしながら、田仲は俺の隣に――――
座った。
「田仲ああああああああああああああ」
あまりの嬉しさに俺は、幼女のような体つきの田仲に抱き着いていた。
濃い青の肩よりちょっと長い髪からは、女の子特有の香りがして、理性が狂いそうになったので、田仲から離れる。
ありがたや~ありがたや~。
しかし、別に阿部と前澤が嫌いなわけではない。
むしろ好きだ! ライクの意味で。
「なかなかやるわね…………今日は譲ってあげるわ」
悔しそうな顔で、涙を堪えるようにしながら田仲の隣へ前澤は座った。
そんなに俺の隣に座りたかったのか……なんかすまんな……。
でもなぜ田仲は、俺の隣に自分から座ったのだろうか?