俺の正義!
「ちょい、あそこ」
俺は隣で歩く境の肩を叩き言った。
「ああ? そーゆうのは阿部か田仲に言ってくれ」
「阿部! 田仲! あそこ」
反対の歩道に、俺のジャスティスが歩いている!
「大丈夫、私たちも気づいてるから」
そうか。それにしてもいいな!
あれこそ神がこの世に最後に残した希望なんだろうな。
「志多野、あんまあっちばっか見とると不審に思われるぞ」
「大丈夫だ。手は出してない」
「いや、そーゆうことじゃなくて」
最近は不審者が多発しているからな、集団で登校している。俺たちのことではなく、反対の歩道で歩いているあの子たちのことだ。男共はどうでもいい。
三人並んで歩いている真ん中の子――――
かわいい!
あのポニーテールはその子の母親が結ったものなのか?
もしそーだったら羨ましすぎるだろ! 俺と代わってくれよ!
それでピンク色のランドセル背負って…………ミ、ミニスカート……だと?
「ガードレールの白いのが付いてるわよ」
「大丈夫だ」
「でもだいぶ白いわよ、そこの部分だけ白無地みたいに」
「大丈夫だ」
実際俺はほとんど前澤の話を聞いていなかった。目線はずっとあのポニテの子に向けられている。
幼女がニーソを履くとなぜあんなに可憐に見えるのだろう。
「てかさ、前澤」
「なに境」
あの細いスラッとした足触ってみてえ。
「お前なんで女の制服着てんの?」
「なんでって、仕事場じゃいつも着てるわよ。どこか変?」
絶え間なく笑うあの子の横顔が、天使そのものだった。
「いや、男が着てるとは思えないほど似合ってるけども。男だろ……学ラン着ろよ」
「いいじゃん! 前澤めちゃくちゃかわいいじゃん!」
あの子たち右に曲がっちゃったじゃねえか!
……後姿もかわいいな。
「女である阿部がそれ言っちゃ終わりな気がするんだが。そしてもう一つ、田仲はなんで学ランなの? 男なの?」
ちょうど横断歩道がある! でもまだ赤か……
「着たかったから。クしゅんっ」
おっ、青になったぜ。
「そうなのか…………てか志多野も少しは会話に加われ……って! おめえどこ行く気だ!そっちは学校じゃねえぞ!」
「こっちだって学校だ!」
右に曲がり横断歩道を渡ろうとする俺の左腕を、境の子どものような手に掴まれた。
「学校って、小学校じゃねえか! 俺ら行くの高校だぞ!」
境の手を振りほどこうとする、が……こいつ、なかなかの握力だ。伊達に動物飼ってないな。
「離してくれ。俺には行かなきゃならない所があるんだ!」
「それが高校だよ!」
「あーもう赤になっちゃったじゃねえか! てかこの信号変わるのはやっ!」
「俺らはこっちだ。入学式に遅刻とかぜってぇー嫌だからな!」
「あぁぁぁ……あの子、かわいかったな…………」
ぼそりと俺は呟き、境に左腕を掴まれたまま真っ直ぐ横断歩道を渡った。というより引きづられた。
「てか横断歩道渡ってすぐのところに正門あるのに右行こうとすんな」
「そうは言ってもだな、俺は高校より小学校のほうが良いと思うんだ」
「小学校のほうが良くても俺らは今日から高校生だ。ほら! ここにだって幼女、っぽいのはいる!」
境は田仲を指差す。
「…………そうだったな。すまん境! 田仲!」
俺は境と田仲に深く腰を折り謝った。急に謝られた田仲はちょっと顔に困惑の色を出していた。
「正門の前で何やってるのよ。恥ずかしいにも程があるわ」
呆れ顔で俺たちを見て前澤は言う。
よく辺りを見てみると俺たちと同じ入学生らがこっちを見て笑っていた。
「とにかく行くわよ」
そんなの、俺と境が気にするはずがない!
そして羅生門みたいな正門を通った。