お引越し!の9
「てめえ起きやがれ!」
別世界から境の声が聞こえてきた気がした。
「起きろっつってんだよ!」
「う……う~ん? 空襲か?」
何だ急に。こちとら眠いんだ起こすなよ。
「こんな時代に空襲なんてあるわけねえだろ! 早く起きろ」
「あと五時間……」
「あと五分より質悪いぞ。まあいいで起きろ!」
起きろと言われて素直に起きるわけない。眠いから。
「まあいいや。引きずり持ってくからよろしく」
境はそう言うと布団を剥がそうとした。しかし布団はしっかり俺が握っているので剥がれはしない。
「いちいち抵抗すんな!」
境が無理やり布団を引っ張ったので俺ごと床に落ち、背中を強打した。
「ぃてぇ……」
「よし、行くぞ」
そのままリビングまでほんとに引きずって行く。
リビングに入ると味噌汁のいい香りが……しなかった。
境だけの力ではどうにもならなかった俺の布団を、三人の勇敢な戦士が加わったことにより剥がされてしまった。
「じゃあ食おうぜ! 質素過ぎる飯を!」
俺は介護されているかのように、イスに座らされる。眠い。
「では、いただきます!」
「いただきます!」
前澤の言葉にみんな続いた、俺を除いて。田仲は分からんけど。
「おやすみなさい」
そして寝る!
「おまっ! 寝んなよ!」
だが断る!
「もう寝かしとけばいいんじゃない?」
阿部、ナイスだ。よくぞ言ってくれた。
「うんまあ、そーだな」
これが俺たちの、最初の食卓だった。