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夢幻の瞳 現の涙  作者: 橘 伊津姫
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プロローグ

セルギナ大陸四大国の一つ、玉の国・瑰。

いまここから、新しい神話が始まろうとしている。

 闇の中に、妙なる楽の音が流れる。

 低く地を這い、高く空を駆ける。

 月と星が見守る中、複雑な音色に歌声が加わった。耳に心地よい、まろやかな声音。

 夜に、眠りと夢を司るエルキリュースの聖歌が流れていく。

 良質の玉を多く産出する国──かい。険しい山々に囲まれたこの国は、セルギナ大陸四大国に数えられるほど富んだ国だ。だからといって、民の全てが豊かなわけではない。国の中央が富み、離れていくほど貧しくなる。それはどこへ行っても変わらない。

 だが、衣食住がこと足りていれば、そんな事は関係ないだろう。少なくともアイヒナの訪れたこの村は、戦や災害さえなければ、日々の暮らしに満足しているようだった。

 広場の中央には巨大な火が焚かれている。炎に揺られ、長い影を落としたアイヒナが最後の音を奏でた。リュートが静かにその弦を止める。周囲でかすかなため息が漏れる。

「旅のお方、素晴らしい音曲であった。わしらの祭りに、このような華を添えていただけるとは……」

 篝火かがりびを囲むように座っていた村人の中から、一人の老人が進み出て礼を言う。

「何の。私のような流れ者を村に入れ、食事まで与えてくださった皆様への、ささやかなお返しでございます。お耳汚しでなければよろしいのですが」

 答えるアイヒナの髪が、篝火の明かりに輝いた。月光を紡いだかのような銀。

 さらにもてなしを、と張り切る老人に明日の出立が早い事を告げて、穏やかな笑みで辞退する。リュートを肩に掛け、村人の輪の外へと歩を進める。この後、祭りは真夜中過ぎまで続くのだ。宿として与えられた小屋へと向うアイヒナの足が、ふと止まる。

「仕事──かな? 闇姫くらきよ」

 小さく呟かれた言葉に、闇の中から答えがあった。

「そのようじゃな、主殿あるじどの

 果たして何者なのか? アイヒナの周囲に人影はない。

「あの……旅のお方……」

 おずおずといった感じで、アイヒナの背後から声がかかる。振り向くと、十歳くらいの少年を連れた母親が立っている。

「はい。先程の私の呪歌じゅかが聴こえましたか?」

 二人に向ってニッコリと微笑む。

「え? ええ、あの──」

 言いよどむ母親を無視して、少年に目線を合わせて膝を折る。

「夜、眠れないのは君だね?」

「うん、そうだよ。お姉ちゃんの目、すっごくキレイだ。お日様の当たった、どんぐりの実みたい」

「ああ、ありがとう。お礼に君の怖い夢を退治してあげよう。名前は?」

「ボク、マイルって言うんだよ」

「そう。私はアイヒナだ」

 彼女は黄金の瞳を細めて笑った。

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