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死んだ、と思っていた俺は眼が覚めたことに驚いた。起き上がり、自分の身体をまじまじと見る。特に変わった様子はない。
「…生きてる、のか?」
そう呟いた時だった。
「う…うぁ…ぁ…」
隣から呻くような声が聞こえて、俺はそちらにゆっくりと目を向けた。何故か、見てはいけないと思った。
そこにあったのは、黒こげの『モノ』だった。
「…え…?」
ソレから漂う異臭で吐きそうになっている俺の頭に、低い声が響く。
『お前の家族だ』
「そんな…話が違うじゃないか!!」
俺は焼けただれている家族を見るのに耐えきれず、眼をそらした。声の主はその様子を見ているのか、愉快そうに続ける。
『誰も、健康な状態で甦らせてやるとは言っていない。死ぬ直前の状態で甦らせたら、そうなっただけのことだ』
ガラガラに枯れたような声で呻いている物体の方へ、俺はもう一度眼をやった。黒く焼けただれた肉。皮膚が所々が裂けていて、赤黒い肉がはっきりと見える。瞼がなくなり、露出している眼球。
「…ぁあ………ぅ」
3人の苦しそうな声を聞いていられなくて、俺は耳をふさいだ。
『お前が望んだことだ』
耳をふさいでいるはずなのに、その声だけははっきりと聞こえた。
『お前の命は頂いた。お前ももう、死人だ』
それを聞いて、眼を見開く。耳をふさいだまま、俺は反論した。
「けど、俺は生きてる…!」
『生ける屍』
その声は、笑っていた。
『お前の命は確かに、もうその身体にはない。お前は死んでいるのだ』
「何言って…」
『もはや死んでいるお前は、もう死ぬことはない。成長することも、ない』
悪魔は少しだけ、その声を高くした。
『これでお前も、悪魔の仲間入りだ』
そして、声は聞こえなくなった。
俺は、家族であるはずのモノに目を向けた。
苦しそうに呻く声。焼けただれた赤黒い身体。
「……ぐ……しぃ…」
妹の声を聞いて、俺は立ち上がった。生ぬるい液体が頬を伝う感覚。俺はそれを服の袖で乱暴に拭うと、大きな石を両手で持ち上げた。そして、まずは妹に近づく。
くるしい。妹は確かに、そう言ったのだ。
「…ごめん」
小さな声とともに、妹の頭を石で砕いた。
家族を殺すのは、これで2回目だった。
一刻も早く「それ」が終わるように、何度も何度も石を振り下ろした。
何かが砕ける音。何かが飛び散る音。
聞こえなくなる、呻き声。
「ははは…」
気付けば、一人で笑っていた。
俺は、アクマ、だ。