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殺され屋  作者: うわの空
11/18

10

「燃やしてもいいんですか?」

 そう言ってきた客は久しぶりだったので、俺は思わず笑った。

「悪いけど、それだけはできないんだよね。火災報知機が反応しちゃうから」

 天井を指さしながら返事をすると、結局その客は電動のこぎりを持ち出した。どちらにしてもかなり残虐なやり方だ。よっぽど誰かのことを怨んでいるんだろうか。そんなことを考えながら、俺はされるがままに切り刻まれた。自分の肉片が壁に飛び散るのを見ながら、遠い昔のことを思い出していた。




 父の机からこっそりくすねたマッチは、当時の俺の宝物だった。子供にとって、何で火遊びはあんなにも魅力的なんだろうか。駄目だと言われると、余計にやりたくなる。俺はその日、夜中に一人でこっそりと火遊びをしていた。暗闇の中で燃える赤い炎が、やたらと綺麗に見えた。


 例えばその時、俺がマッチをくすねていなかったら。火遊びをしていなかったら。家の中でそれをしていなかったら。未来は変わっていたのだろうか。


 畳に燃え移った炎は、あっという間に燃え広がっていった。その光景を見た俺は焦って、小さなバケツに水を汲むのをひたすら繰り返した。怒られるのが怖かったのと、自分で消せるだろうという楽観。あの時もっと早く事態の深刻さに気付いて、2階で眠っている両親と妹を起こしにいっていたら。

 …どれもこれもいまさら、だ。



 どんどん広がる炎はついに、家を飲みこんだ。俺は一人で家の外に逃げ出して、その様子を茫然と眺めた。近所の野次馬たちの声。消防車の音。漏れ聞こえる、隊員の声。


「中にいる人はもう…」


 …俺が、殺したんだ。




 親戚に引き取られてから、俺は毎晩家を抜け出して、人気のない空き地で一人で泣き続けた。俺が殺した。俺が殺した。それだけが頭にあった。

 その時だった。


『…失った家族を、取り戻したいか』


 声が、聞こえたのは。



「え…?」

 俺はあたりを見回した。だが、誰もいない。

『家族をよみがえらせたいか』

 先ほどよりもはっきりと、腹に響くような低い声が頭の中に聞こえた。俺は見回すのをやめて、宙を見ながら頷いた。

『ならば、お前の命を賭けろ』

 その声はさらに低い声で、俺に話しかけた。

『お前の命と引き換えに、家族を甦らせてやる。私には、その力がある』

「あんた、誰だ?」

 俺が震える声でそういうと、その声の主は言った。

『悪魔、だ』

 笑っているような、声だった。


「…俺の命と引き換えに、家族を甦らせてくれるんだな?」

『ああ』

 悪魔の姿は見えない。だけど俺は、その言葉を信じた。

「分かった。俺の命をあげるから、家族を皆甦らせて」

『契約、完了だな』

 その声と同時に、俺の身体が強く光った。眩しすぎて、眼を開けていられない。

 ああ、きっと俺は死ぬんだ。だけど皆が生き返れば、それでいい。


 俺の意識は、ゆっくりと遠のいていった。



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