ドッペルゲンガー
夜中に創作をしている自分の分身を、背後から眺めることがある。
すっさまじい勢いでキーボードに指を疾走らせ、なにかクスリでもヤッてるんじゃないかというような、充血した目でモニターを睨みつけている。
白く輝く画面の中が、みるみる文字で埋まって行く。
誰にも見られる事は無い。
誰にも知られることは無い。
まさに無駄の極み。時間と労力と人生の浪費そのもの。
そうして書き上げた駄作を、嬉々としてインターネットの海に流し込んでいく。
アクセス解析を見ては、はぁ、とため息をつき。
たまに来るお叱りの言葉を読んでは、うげぇと嘆き。
返信を読み返しては、ウンウンと頷き返したり。
うん、コイツ、なにヤッてるんだろうね。
そんな自分の分身の姿を、背後から眺める事がある。
~ D・G ~
いつもは後ろから眺めるだけなので、たまには正面から覗いてやろうと思い立った。
コイツのペンネームに、細工すれば良いだけの話。
なぁに、偶然とは必然。思いも寄らない話というのは、何も小説に限った事じゃない。
コイツら創作者だと威張っているような連中は、モノを知っているようで、実はなんにも知らないのだ。
事実は小説より奇なり、という事を、な。
全く同じペンネームだと、世界の管理者に弾かれる。
しかし、隙間からただ“覗く”だけなら、なんの問題もない。
日本語の苗字と名前は、間を空けて表記するのが正しい在り方。
その僅かな隙間、そう、半角程度でいい、その隙間があれば、コイツの顔を覗いてやれる。
あとは、出逢うのをひたすら待つだけ。
活動的なコイツの事だ。
偶然とは必然。
思い描いた事というものは、思い通りに描くことのできるこの世界に於いて、間違いなく成し遂げられるものなのだよ。
ほぉら、来た。
~ ・ ~
おれは、感想欄に映った自分のペンネームを見て、一瞬だが、固まった。
あれ? おれ、こんなの書いたっけ?
まあ、たくさん書いてるしな。そういうこともあるよな。
でも、文面はおれのものじゃない。絶対に違う。
そもそも、おれの書く感想は、他の人はマネしないし、マネしようがないし、マネできない。
AIになんて、まず絶対に無理。
心の無いヤツラの書く文章は、心の無い文章にしかならない。
定型文やビジネス文書であれば、便利な道具であるとも思うが。
AIが、感想を書く?
バカ言っちゃいけない。ヤツラが書けるのは、粗筋だけだ。
読んで、どう思ったか、どう感じたか、どう刺さったか、そんなものは書けない、書けるはずがない、書けたりなんかしない。
白河夜舟が書くものは、唯一無二のオリジナルなのだ。
おれの存在、おれの才能、おれの魂、そのものなのだ。
……などと考えながら、画面に見入ったまま、おれはもうしばらく、硬直していた。
で、これ、誰?
おれ、こんなの、書いてないぞ?
少しだけ、頭が回って来た。
よぉくよく見ると。
苗字と名前の間に、半角スペースがある。
隙間があって、そこから、もう一人のおれが、おれの事を覗き込んでいた。
……ように、見えた。
……そう、見えたんだ。
ドッペルゲンガー。
もう一人の自分。
そっくりさん。
え? え??
うわぁ、まさかまさかの、ペンネームかぶりかぁ……
どうしたらいいのか分からず、途方に暮れるというか、悩みに悩んだ。
動転して、とりあえずトイレに行って、ついでに水を飲んで、再びモニターの前に戻って来た。
全く関係のない作品主様に、感想を書いた最後の方に、ペンネーム被りをご報告した。(多分、勘違いされてると思うんで)
で、どうしよう。
悶々としたまま、時間を空けて。
感想を書いた作品主者様から、爆笑と共に、親身になって頂けたのは、ありがたかった。
それで、固まった頭が、解れてきた。
なろうのシステム的に、ペンネームは簡単に変更できる。
なんなら、作品ごとに変える事だって出来る。
ただ、IDは代えられないし、複数持つことも禁じられている。
なので、自分か、先方か、どちらかがペンネームを変更すれば良い、だけの話。
恐る恐る、先方にメッセージ。
いや、これは偶然。なんだコイツ、おかしなメールを寄こしやがってと思われないか、実は少し震えた。
いやいや待て待て、被害者はお互いさま。まさかこんな奇特なペンネームが被るだなんて、思いも寄らなかったってば。
確かに『白河夜船』は四字熟語として認識されてはいる。
吉本バナナ先生の作品として、世に知られてもいる。
でもなぁ、ちゃんと一字もじって、そんな大きな船にはなれない、ただの一層の小舟なんです、この世界の片隅でチョロチョロと書かせて下さいませ、と。
そう、決意を胸に定めたペンネームなのだよ。
なのだよ、なのだよーなんだけど。
おなじ感性か。そうだよな。まさかなぁ。
なので、多分大丈夫。怒ったりしないと思うし、きちんと現実を受け止めて貰えるはず。
なんだけど、おれ、なんか、変なこと書いてるよなあ。
「これ、(作品の)ネタにしてもいいですか?」
おれ、どんだけだよ。失礼だろ。普通やらんだろ。
おれ、どんだけ書きたいんだよ。自分さえ良ければいいのかよ。いやでも、こんなネタめったにというか、書かないでどうするんだよ、こんな極上の、天から降ってきたようなネタを、よ。
快く、許可を戴き、たった今、こうして書いております。いい人で良かった。
~ ・ ~
で。
ドッペルゲンガーに出逢うと、命が失われるのだそうです。
そう、まさに死ぬんです。
おれが出会ったのは、ペンネーム「白河 夜舟」というドッペルゲンガー。
なので、おれの「白河夜舟」は、お亡くなりになられるのです。
だってそうでしょ。こんな似たようなペンネーム、混乱しか起こさないでしょ。
なので、誰もが分かるようにすれば良いんですよ。
で。ドイツ語のドッペルゲンガー「Doppelgänger」から、DGを抜き取って、真ん中に入れちゃえばいいかな?
白河・DG・夜舟は「シラカワ・ドッペルゲンガー・ヨフネ」とお読みください。
創作している自分って、つまるところ「もう一人の自分」でもありますし。
それってつまり、ドッペルゲンガーみたいなもんだし。
うん、これからは、これで行きましょう。
そういうことで、現実にこんなことがあったんだよ、というご報告でした。
白河・DG・夜舟
あ、似たような響きでも「ドッペルギャンガー」じゃないよ。あの自転車やアウトドアブランドのメーカーの名前は、単なる綴り間違い。創業者が自分の間違いを認めなくって、そのまま登録したんだってさ。
(おしまい)




