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箱庭管理業務代行

掲載日:2026/05/16

 神様って何処にいると思う?

 空の上? ザ・スタンダード。

 厳かな神殿? これもコモン。

 この世のありとあらゆる物? ツクモガミってやつね。

 どれもいいセン行ってるけども、そのどれもが大間違い! 少なくともこの世界ではね。

 それでは正解を発表します! 正解は———


 ハイドラ帝国は帝国兵修練場、中央の円に人影三つ。見習い帝国兵少女、同じく見習いの稽古相手、審判を務める上官。試合は一方的に少女が攻め立てられ、なす術なくされるがまま。


「ま、待って待って! ウェ……ゲホッゲホッ! ギブアップ! 助けて!」

「そこまで!」


 模擬戦ボロ負け、槍を杖代わりに地面に突き立て、膝をつき、息絶え絶え、命乞い。現在進行形で醜態を晒しているこのへなちょこ少女こそがこの世界の神である私なのです。花も恥じらう十五歳の乙女! 名をキャスリーン──キティって呼んでね。もちろん偽名。上位存在である私の本当の名前など下位存在は聞き取ることも知覚することもできないのだ。

 正解は人に紛れて人間ライフを満喫している、でした! まさか神様がこんなところにいようとは誰も思うまい。ふっふっふ。……これもありきたりだって? そうかな? そうかも。

 ま、こんな偉そうにしてるけど、私はこの世界を創った──所謂創造神ではなく『上』から預かったモノを管理しているに過ぎない。じゃあ神様じゃないんじゃんって? 好き勝手に弄れる権能も一緒に貰ったから実質神様みたいなもんでしょ、細かいことはナシナシ。

 そんで『上』から下された命令はただ一つ、預かった世界を壊さないこと。別に人間だとかその他生物を滅ぼしたり地形をボコボコにしたりしてもいい。壊す、というのは例えば魚を飼っている水槽ごとガシャーン! バリーン! みたいなカンジ。

 誰もが思うでしょう。壊すわけないじゃん、と。ところがどっこい、実例が中々にある。初めは皆「ええ、壊しませんとも! 壊すわけがない!」と息巻くけれど、主に人間の醜さに絶望したりしてカッとなってついやってしまうのだ。そして『上』に粛清されるか身勝手にも死ぬ。

 それだけならいいけど、一度こっちの世界も巻き込もうとしてきた奴がいて大変な目に遭ったことがある。ま、それはまた別のお話。いやあ、実に情けのないこと。上位存在でありながら被造物の作り出した神話の神々のように喜びで、怒りで、哀しみで、楽しみで、後先考えずに行動する。私はああはならない、なりたくない。

 壊さなければ何をやってもいいんだなコレが。ファンタジーな世界にして恐怖のどん底に陥れる魔王になったり、逆にそれを打倒する勇者だったり、マジの神として信仰集めたり、もう別に文明とか作らずにテラリウムにしたりとなんでもござれ。同僚達の中で多いのはマジ神ムーブ。曰くそれが人類を導く上位存在としての模範的在り方であるらしい。そして世界をぶっ壊す奴が多いのもコレ。

 私は何やってるかって? 今はご覧の通りファンタジー世界でその辺の帝国の兵士見習いをさせてもらっている。言わずもがな正体は明かしていない。この世界を預かってから今日までずっと、私は何度も歴史を動かせないされるがままのモブとしての人生を送ってきた。「そっちはどんな感じで世界をマネジメントしてるの?」って同僚に訊かれて「私はフツーに人として暮らしてるよ」って返すとだいたいバカにしたような目で見てくる。ムカつく。そういう奴に限ってマジ神ムーブして勝手に絶望して自滅しがち。繰り返すけど、私はああはなりたくない。

 思うにみんな自分の世界の文明に入れ込みすぎている。そりゃま、私も野盗に惨たらしく殺されたり、とんでもなくクズな親に虐待されたり、色々あった。けどさ、どうせ本体は死なないし全部が全部って訳でもないんだからそういうの含めて楽しめば良いのに。嫌な事と同じくらい良い事はあるんだから。難儀だね、完璧主義者は。

 でも愚痴りたくはあるよ。今回の人生はさぁ! わーくにがブラックでさぁ! ……お? 誰か来たな。ちょっと席外しますよっと。


 ハイハイどなた? ああ、統括管理局の! お疲れ様です。どのようなご用件でしょう? はい! はい? あー……ありがとう、ございます。はい。わかりました。はい。ではまた後日。


 朗報。私が預かっている世界がなんと『上』の定める基準に達したとのことで、近いうちに回収されます。史上十三例目! いぇい! そして私も功績が讃えられ統括管理局に登用だ。見たか、私を嘲笑ったボケ共。『上』で待ってるで。なんつって。

 ……正直嫌だ。この世界のこと結構好きになっちゃったから。人類が発生するまで待つのかったるいから、その辺のを参考にして最初から人間を置いたりして歴史ペラッペラで作り込みは甘いけど、それでもずっとここで生きてきたのですもの。たかが三千年、されど三千年。人間の感覚で過ごしすぎたな。

 この世界はどうなるんだろう、どうするんだろう。何が御眼鏡に適ったんだろう。『上』はなんも教えてくれないんだよね。

 残り時間、キティの人生を送れるくらいはあるか。よし。



「◻︎◻︎さーん、回収に参りましたー。……◻︎◻︎さーん? 入りますよー?」


 辺り一面真っ白で、デスクとチェアだけの殺風景な空間。此処こそが◻︎◻︎の領域であり、机上にあるりんご大の卵型オブジェクトは彼女に貸与された世界だ。統括管理局員は辺りを見まわし◻︎◻︎の所在を確認する。だが領域にはもちろん、世界の中にさえ彼女の気配は無い。


「留守か? あー、いや……アレっぽいな」


──偉大なる帝国の勇士たちここに眠る。


 帝城に広く設けられた庭にある、戦没者を祀る慰霊碑。それにずらりと並ぶ名の中にはキャスリーンのものもあった。

 ハイドラ帝国を良く思わない周辺諸国が連合軍を率いて戦争を仕掛けてきたのだ。辛くも帝国が勝利を収めるが、その戦いの最中でキティは命を落とした。享年十九歳。最期は呆気なく、連合軍の新型魔導兵器によって小隊まるごと蒸発。塵ひとつ残らなかった。

 ◻︎◻︎はというと、キャスリーンの身体と完全に融合し普通の人間になることを選んでいた。彼女()死んだのだ。

 世界を預かる者が自死を選ぶことはそう珍しくない。理由は様々だが、例えば世界を壊してしまった者は『上』からの粛清を恐れ、実に七割が自らの手で命を絶っている。


「彼女の場合はたかが借り物にのめり込んだ結果、ある種の独占欲が生まれたのでしょう。自分の手から離され何か得体の知れない事に利用されるのを見るのは耐えられなかった、といったところですかね。自暴自棄になって破壊するよりかはマシですが、結局のところ彼女もそのテの連中と同じく愚かだった。なんと勿体のない」


 箱庭管理業務代行の説明会にて、虚空へ投映された事例に対し統括管理局局長はそう補足する。


「皆様はくれぐれもそうならないように。講習は以上です。お疲れ様でした。質問等ある方は後ほど窓口で対応いたします」

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