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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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どうしてこうなった?

どうしてこうなった?

(────どうしてこうなった!?)


 町外れの孤児院に育てられてる私は今、豪華でフカフカな椅子に座っている。

 フリルだらけの、お姫さまのようなドレスを着せられて。

 あちこちの肌に触れるヒラヒラ。

 沈み込んで上手に座ってられない椅子。


(こちとら、庶民よ? しかも孤児院の孤児よ、孤児。どう見ても場違い……)


 室内は、いい香りで満たされている。

 高級そうな匂いがする。


(えっ、てか、なにこの部屋。悪趣味過ぎん?……いや、それより──)


どうして、こんなことになったの!?



 すべての発端は、ほんの数時間前に遡る。



 今朝、私はシスターからお使いを頼まれた。

 町まで行って、パンとミルクを受け取って帰るという簡単なミッション。

 

 その帰り道のことだった。

 私はちょっと生まれと育ちがアレなもので、警戒心は強い方だ。

 

 あー、なんか怪しい男たちがいるなあ、と視界に入れていたんだよね。

 で、すれ違いざまにいきなり腕を掴まれ、馬車に引き込まれそうになった。


 私はお使いのパンとミルクが入った袋を咄嗟に振り回し、一瞬の隙をついて腕を振りほどいて路地に逃げ込んだ。

 怪しんでなかったら、抵抗する間もなかったと思う。


 後ろからは、大声で叫ぶ男の声。


(──数人はいる! 心当たりはあるけれど、今じゃない、早すぎる──)


 使いまわしで与えられている靴は、サイズも合っていないため、とっくに脱げていた。

 裸足で地面を蹴り、がむしゃらに逃げる。

 幼い身体能力でお貴族様に勝てるとは思えないけど、街中の裏道なら──地の利は絶対私にあるはず。


 (──まだチャンスはある)


 そう思ってはいたけれど、大人数人の相手は分が悪すぎた。

 気がつけば袋小路に追い込まれ、絶対絶命だ。


 ただ──とあることを私は知ってたから、ここに逃げてきた。

 この行き止まりの高い塀には、小さな裂け目がある。

 猫が通れるかも怪しいサイズだ。


 だがこの裂け目、私は通れるはずだ……小柄でガリガリだからではない。

 私なら『設定上通れることになっている』からだ。

 ただ、今じゃない。


(時期は違うけど、試すしかない!)


 いきなり誘拐されそうになってるんだよ?

 緊急事態の今、塀の先が現在どうなってるかなんてどうでもいい。

 設定上通れることになってるんだから、今通ったっていいんじゃない?


 私は無理矢理裂け目に手を突っ込み、肩を入れ塀の内側に身体を捩じ込んだ。


(やっぱり通れる! なら──)


 うわ、なにこれ?植物?


 塀の内側に侵入出来たのはいいけれど、想定外な事になってしまった。

 どうやら藪のなかに出てしまったようだ。

 子供の柔らかな皮膚に、枝の突起が突き刺さり肉が裂けていく。

 

(痛い痛い! これじゃ動けないじゃないの)


 が、もう後戻りはできない。

 塀の外に戻ったら捕まるし、そもそも動くのが不可能だ。

 私はあまりの痛みに進退窮まって、静止するしかなかった。


 

「……裂け目がありましたが、これでは犬猫でも通れませんな」


「左様か。あの髪色、見逃す筈はないんだが」


「もしかしたら、見落とした脇道が? とりあえずお嬢様には、報告を」


「ここは──例の酔狂者の屋敷か。……まあいい。他を当たれ」


 そう言い残して、気配は遠ざかっていった。


 私はひたすら息を潜めて、いや正直に言うと動けずにいた。

 動くと眼球にまでトゲが刺さってきそう。

 しかも、この植物──段々と絞まってきてる……。



「……人間が引っかかるとは、珍しいわねぇ」


 その声は、頭の上から降りてきた。

 どちらともつかぬ、不思議な声。


(──んん? 男の人? それとも女の人?)


 激痛と共に藪から引きずり出された私は、痛さで声も出なかった。

 見上げた顔はよく見えなかったけれど、金か銀色の髪と琥珀のような煌めく瞳だけは脳裏に焼きついた。


 何か呪文のような言葉がささやかれ、痛みがすうっと消えていく。


(……夢みたい)


 そう思ったところで、意識が途切れた。

その後、気がついたら私は鏡の前に立たされていたというわけだ。


「……え?」 


 鏡の中の自分は、豪華なドレスに身を包まれていた。

 汚れきっていた肌は洗われて、髪はゆるく巻かれ、顔にはほんのりと香油の艶。

 めっちゃ美少女。

 

「……これは」


 目の前に立つのが、普段の薄汚れている自分とは違いすぎて焦る。

 艶々の桃色の髪、ネオングリーンの鮮やかな瞳。


(この外見──非常に不味い! ヒロインなのがバレるやつだ──)


 目立たないよう必死に隠していた美しさが、余すところなく磨き上げられている。

 これは、非常に良くないことだった。


 そう、私はヒロインなのだ。

 あ、頭はいたって正常だよ?

 正確には、三年前に自分がヒロインであることに気がついてしまった、ただの孤児だけれど。

 

 



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