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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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トコヨノクニ――鱗の口づけ

 自分の想いを綴った手紙を送ったのは、つい数日前のことだった。

 ユウキは巡業に出かけたものと思っていたが、まだ央里に残っていたのだろうか――予想外に早い返信に、封を切る手が震えた。

 手紙を読んだ侑子は、便箋を広げたまま、脱力するように仰向けにベッドに倒れ込んだ。

 倒れたまま、便箋一枚に収まった文面を何度も繰り返し読み返した。一つ一つの言葉にそれ以外の意味がなかっただろうかと慎重に確かめながら。それから噛み締めるように。


「……」


 紙の上には、愛を伝える言葉が溢れていた。

 詩でもなく歌詞でもなく、和歌でもない。遠い昔に生きた人が残した歌でもなく、確かなユウキの言葉と筆跡が侑子に愛を伝えていた。


「『夢みたいだ』」


 便箋の中のユウキの言葉を読み上げたのか、心の中の自分の言葉が口から転がり落ちたのか。

 曖昧になればなるほど、遠く隔てた時空の向こうの愛しい人と、一体になっていく感覚に陥る。


「良かった」


 ユウキへの気持ちに、素直になってよかった。恋に落ちていたことを、認めてよかった。

 こんなに素晴らしい感情は、今まで知らなかった。追体験した正彦とちえみの感情の中に、近いものがあったかもしれない。しかしその感情は、あくまで正彦とちえみだけのものであって、今正に侑子の身体に走るのは、侑子だけの感情なのだ。

 侑子の歓喜に呼応するように、封筒の中から無数の硝子の鱗が零れ落ちてきた。それは横たわる侑子の身体の上を、彩るように散らばった。


――一体何枚の鱗を詰め込んだんだろう


 便箋一枚の重さではなかった封筒は、確かにずっしりしていたが。

 侑子の両腕、首筋、頬、唇――ベッドの上に投げ出された身体全てを、小さな青が点々と色をつけるように広がった。

 まるでユウキの意思が乗り移ったかのように、優しい口づけを落とすように、侑子に触れていく。

 カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされて、青い無数の鱗が反射させた光りの粒が、壁や天井の上で踊っていた。その美しく幻想的な光景の中、侑子はユウキの気配を確かに感じている。

 短い手紙の最後に記された言葉を、侑子は歌うようにそっと繰り返した。


「……愛してる」


 顔を横に向け、シーツに散った鱗の一つにそっと口づけた。

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