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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
138/140

ヒノクニ――震度四

 その前触れを、紡久は知っていた。

 本棚の本やキャビネットの中の物が小刻みに震える音。僅かに擦れ合う音が聞こえてくる。そしてミシミシという建物が立てる音と共に訪れる、身体の均衡が奪われる不快感。


――地震だ


 ヒノクニにやってきてから、その自然現象がこの国に限って稀有なものなのだと知った時には、仰天したものだ。

 地震を経験した国民が殆ど存在しないなんて。

 紡久が小学生の頃、東日本大震災が起こった。当時関東に住んでいた紡久の周囲に実害はなかったものの、いつまでも揺れが収まらない恐怖とその後しばらく続いた非日常の記憶は、今でも強く頭に残っている。

 度々起こる地震を経験して、紡久は体感として今の揺れがどれほどの強さなのか、大体の見当をつけることができるようになっていた。

 しかしヒノクニの人々はそうではない。

 先日起こった小さな揺れ――おそらく震度二か三程だったのだろう――でも、人々は恐れおののいていたのだ。


――この間より強い


 ぐらっと大きな揺れを感じて、部屋が斜めに傾いた。片隅に置いてあったティッシュケースが、ズルリと音を立てて床を滑っていく。

 そして揺れは止まった。長くはなかったが、強かった。

 揺れが止む寸前に、透証がけたたましい音を鳴らしていた。政府からの緊急の知らせを告げる音だ。


「ツムグくん! 平気か?」


 部屋に飛び込んできたのはジロウだった。無事を確認しに階段を駆け上ったのだろう。酷く息を切らしていた。


「大丈夫です。ジロウさんは」

「この通り。ノマさんも椅子に座ってたから平気だ」


 透証を確認すると、たった今起こった地震についての情報が出ていた。


「震度四。やっぱり」


 それくらいかと考えた通りの数値だった。


「驚いてないな」

「日本は地震国です。たまにこれくらい揺れることがありました」

「マジか……」


 はぁと大きな一息を吐き出すと、ジロウはツムグの部屋の床に座り込んだ。


「寿命が結構縮んだぞ」

「何ですかね。この間も揺れたばかりだ」


――魔法という大きな相違点はあるにしても、国の形や地形と気候に二つの世界の違いは感じられない。だとしたら地震を引き起こす要因は同じなのか。これは大きな地震の前触れなのか……


「嫌な予感がするな……」


 紡久が至った考えと同じ事を、ジロウがぽつりと呟いた。普段彼が滅多に口にしないネガティブな言葉に、紡久は密かに息を呑んだ。

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