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ヒノクニ――はじまりの振動
ある日の昼下がり。
ジロウは食品庫の中で、先日仕込んだ梅シロップの出来を確認していた。
今年の梅仕事は、巡業に出ていたユウキとハルカは参加できなかった。いつもよりも人手が少ない中、それでも楽しい笑い声に溢れたひとときだった。
今年仕込んだ瓶の奥には、一昨年仕込んだ梅酒の瓶が並んでいる。紡久が成人するタイミングに飲めるようにと、二年前の梅仕事で作ったものだった。昨年飲んだものよりも、熟成が進んでまろやかになっているだろう。
「今晩出してみるか」
ジロウが一番端の瓶に手を伸ばした時だった――――ゴゴ……と地が唸るような不可解な音を、耳が捉えた。
「?」
その音の出処を確認する間もなく、次にジロウの耳が拾ったのは、食品庫に並んだ瓶がお互いに打つかり合って生じる、カタカタという軽やかな音だった。
「揺れてる……」
そう言葉にした時には、既に揺れは止まっていた。




