トコヨノクニ――秘密
侑子の部屋。いとこ達四人がヒノクニから送られてきた写真に見入っていた。
侑子は久々に目にできたユウキ達の姿に喜びで胸がいっぱいになっていたが、その横で愛佳は写真におさまる若者たちの髪色や瞳の色彩にうっとりと見入っていた。蓮はただ唖然とした表情で写真を凝視している一方で、遼は興奮しているのか目を丸くしながら鼻息が荒くなっている。三者三様のその反応を、侑子は予想通りだと思った。
「驚いたよ……でもゆうちゃんの話していたこと、最近じゃ本当なのかもしれないって思い始めてたから……この写真で確信が持てた……」
蓮のつぶやきに、愛佳はもう! と眉を寄せた。
「本当にあんたは疑り深いんだから。でもまぁ……これできっちり、信じたってことだよね?」
「うん。ごめんね、ゆうちゃん。正直信じてなかった」
侑子は笑う。
「いいんだよ。普通なら信じられないって。それは分かってたから」
「流石にこんな風に写真で目の当たりにすると……そういう世界があるんだなって、疑う余地もなくなる。この人たちは、今もどこか――並行世界で、生活してるってことなんでしょ? 手紙も読ませてくれてありがとう」
蓮は数通の手紙の束を侑子に返却した。それはユウキから侑子へと書かれた、大量の手紙の一部だった。
「それにしても、皆カラフルだな。これは何もしてなくて、こんな髪や目の色なの?」
遼の言葉に、愛佳も大きく頷いている。二人が驚いている点は、侑子もヒノクニに迷い込んだ当初、最も驚異に感じたことの一つだったのだ。彼らの気持ちには深く共感できる。
「目の色は遺伝なんだって。元々色鮮やかみたい。髪の毛は染める人が多いみたいだけど、地毛も色んな色があるんだよ。この五人でいえば、今染めてないのはハルカくんだけかな……あ、ユウキちゃんも染めたんだ。珍しい」
ローテーブルに広がる写真の中から、ユウキが写る二枚の写真を見比べて、侑子は呟いた。いつもの灰色の短髪と、顔と首元を隠す長さに伸びた黒髪の、二人のユウキが此方を見ていた。
「その人がユウキちゃんなんだ。ゆうちゃんに手紙書いてくれてる人」
愛佳が顔を寄せて写真を覗き込んできた。
「綺麗な人だね」
「うん」
侑子は頷きながら、写真の中のユウキをまじまじと見つめた。髪型は違っても、こちらに向ける緑の瞳は侑子にとって馴染み深い優しい色で、褐色の肌も広角の上がった表情もよく知ったものだ。侑子の記憶の中にある、ユウキ。確かにその人だった。
しかしその一方で、侑子は頭の片隅で僅かに動揺する自分に気づいてしまった。
――青い鱗に覆われた半魚人は、どこにもいない
髪色ががらりと変わったユウキを目の当たりにして、腹落ちしてしまったのかも知れない。
――いつだって私が頭の中で思い描くユウキちゃんは、夢の中の半魚人のままだったんだ
あの夢を見なくなって一年以上経つというのに、ユウキと半魚人のイメージは、侑子の中で強く結びついたままだったのだ。
しかし、写真という画像を通して目に映るユウキは一人の人間の男で、そこにあの青い半魚人を彷彿とさせる要素は何もなかった。
「ユウキちゃんは、向こうの世界で私を助けてくれた人。歌が上手で、私にギターを教えてくれたのも、ユウキちゃんだよ」
繰り返し見てきたあの夢に関する顛末は、自分だけの秘密だった。これからも誰かに説明するつもりはない。
――なぜだろう。私どうして、こんなに驚いているんだろう
半魚人がいなくなり、写真に写る一人の男だけがそこに残っている――しかし彼も今や、侑子と住む世界を別にしている存在だった。
そんな現実を改めて理解した侑子は、興奮するいとこたちの横で、一人静かに小さな絶望と対峙していたのだった。




