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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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ヒノクニ――漆黒

 その日の侑子からの封書は、酷く不格好だった。長方形の封筒の下半分だけが妙に膨らんでいて、厚みを持った何かが入っているのが一目瞭然である。


「なんだろう」

「ユーコちゃん、何を送ったのかな」


 一緒に屋根裏を覗き込んでいたのはミツキで、後方で見守っているのは残りの幼馴染たち三人だった。


「封筒に入る物だったら、何でも行き来できるの?」

「記録媒体はダメだった。それ以外なら。俺は勝手に薄っぺらいものや小さいもの限定なんだと思い込んでたけど……。こんなふうに分厚くても、封が閉じられれば大丈夫みたいだ」


 不格好になってしまったその封書をまじまじと観察しながら、ユウキは封筒の端を指先でなぞった。音もなくその箇所が開き、中身を明らかにする。


「わあ。写真が沢山!」


 覗き込んだミツキが顔を輝かせる。ユウキの背を炬燵(こたつ)まで押しやると、封筒から滑り出てきた写真を並べ始めた。


「ユーコちゃん、楽しそう。この三角の赤い帽子はなんだろう? 皆かぶってるけど」

「クリスマスの象徴みたいなものらしいよ。向こうの世界では定番なんだって」

「へえー」

「なんか鹿の角みたいなのつけてる奴もいるぞ」

「これが向こうのライブハウスか! 見た感じ変身館と雰囲気変わらないな」

「あ、これがノマさんのレシピで作ったお団子? ユーコちゃんバッチリじゃない」


 写真には一つ一つ付箋で説明が添えてあって、幼馴染たちは物珍しい異世界の風景に見入っていた。

 その横でユウキは一人、封筒から転がり落ちてきたある物に釘付けだった――掌ですっぽり覆い隠してしまえる大きさの、小さなクマのあみぐるみだった。白い糸一色で編まれていて、その細い糸は光沢を持っている。クマの頭はピンポン玉より小さい。その頬を指先で撫でると、艷やかな糸の感触が伝わってきた。そのまま指先を首元に移動させると、ユウキは静かに魔法を発動させた、小さな硝子の鱗が、首飾りのように小さな白クマの首元を彩った。


「ああ、それ。ユーコちゃんのクマ」


 スズカが気づいて指さした。ユウキは手紙に目を走らせている。


「クリスマスプレゼントだって」


 手紙から視線は外さないまま、ユウキは呟いた。笑ってるユウキの顔は、確かに嬉しそうではある。しかしそれ以上に隠しきれない悲しみを感じ取れるので、いつものことながら幼馴染たちは見守ることしかできないのだった。



◆◆◆



「こっちからも写真を送ろうよ。せっかくアオイも帰ってきてるし」


 ミツキの提案で早速撮影した。その写真に写るユウキの髪色は漆黒だった。シャッターを切った瞬間に画像となって手元に出現したそれを確認するや、アオイはそういえばさ、と切り出した。


「この髪じゃユーコちゃん、びっくりするんだろうな」


 勿論ユウキの髪色を指しての言葉だったが、本人はさして驚きもせずに口元に笑みを浮かべただけだった。


「そうかもね。ユーコちゃんの前で普段の髪色を変えたことはなかったから」

「意外としっくり来てるよなあ。それで目元も隠しちゃえば、あまり気づかれなくなっただろう?」


 ハルカの言葉にユウキは頷く。少し前に提案された、外見からユウキ本人だと気づかれにくくするための変身だった。灰色の髪を黒くして、少しばかり長くしてみただけなのだが、それだけでも街中で声を掛けられることは激減した。コンタクトレンズや眼鏡で瞳の色も変えてしまえば、更に効果は上がる。


「ユウキは昔から、あまり髪色とか外見はいじりたがらなかったよね。その分曲芸する時に色々こだわってたけど」


 その噴水広場での曲芸も、衣装やメイクを施さずに行うようになったのだが、最近ではそもそも広場で歌う頻度も少なくなっていた。共に歌う侑子がいなくなってしまったことが理由ではない。広場にユウキが立つと、観客が集まりすぎるようになっていたのだ。少し前にアミが予想していたことが、現実となっていた。


「ユーコちゃんに送るんだったら、髪を元に戻したところも撮っておく?」


 レンズを向けながら首をかしげるスズカに、ユウキは「そうだな」と答えた。

 首を軽く撚ると、漆黒から退色していくように、その髪色は元のくすんだ灰色に変色していった。隠されていた首筋と耳が見える程の長さになって、あっという間に日々ステージで歌う姿のユウキに戻っていた。


「じゃあもう一回。皆もうちょっと寄って」


 スズカが指を鳴らすと同時に、シャッターが切られる音が響いた。

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