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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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ヒノクニ――贈り物

「これ、受け取って下さい!」

 

 後方から誰かがぶつかるような衝撃と共に、緊張で上ずった若い女の声が聞こえてきた。思わず受け取ってしまったそれは綺麗に包装されており、青いリボンと小ぶりの花で飾られていた。


「あの……いつも応援しています」


 見返されてしどろもどろになりつつも、うるんだ瞳で見上げてくる。彼女はそれだけ告げると、少し距離を取って見守っていた友人たちの元へと、足早に戻っていった。そして仲間たちと共に抑えた嬌声を上げている。


「なんて顔してるんだ」


 隣で吹き出したのはハルカだった。 少し前に変身館から連れ立って出てきて、バス停まで並んで歩いているところだった。


「ちょっとは笑いかけてやるとか、ファンサービスしろよ……あーでも、ああいう子にとっては、その滅多に見られない不意打ち食らった顔の方が嬉しいのかな」

「今のは完全に油断してたからだ。予想しないだろう。こんな何もない道端で」


 既にライブハウスの明かりも見えない程の距離を歩いてきていた。雪が降りしきる寒空の中、いつからあの子達は自分が通るのを待っていたのだろう。


「熱心なファンを獲得するだけ、有名になってるってことだよ」


 単純な話じゃないか、とハルカは笑った。今一腑に落ちない顔をしながら、ユウキはやや早足で歩を進めた。先程の女性達がまだ同じ場所にとどまって、此方へ視線を向けていたのだ。


「落ち着かないなら、オンとオフで外見変えてみたら? ぱっと見ただけじゃユウキって分からないくらいに。そういう人よくいるだろ?」


 友人の提案に、ユウキはしばし考え込む。 

 確かに変身館の歌歌いにのみならず、よくあることだった。人目の煩わしさから逃れるため、外では敢えて目立たない外見に変えたり、普段のイメージとは真逆の格好をするのだ。魔法を使えば切り替えの手間も勿論かからない。


「良いかも知れない。変身は得意だ」


 変身に関して、良いアイディアを思いついたユウキはふっと笑った。しかし隣を歩くハルカは、そんな表情に一緒に笑ってやることをすぐに止めた。笑みの中に、微かな哀愁を読み取ってしまったのだ。




◆◆◆




 年季の入った古い門構えはずっしりと重厚だ。しかしユウキの手がその戸口に触れただけで、あっさりと錠は外れる。


「合鍵まで持ってたんじゃ、良いように噂されたっていよいよ文句は言えないよな」

「だから言わせておけば良いんだよ」


 家主はまだ帰宅していない。リリーは今頃ステージの上だし、歳納を控えたこの時期に彼女が帰るのは、この家ではなくジロウの屋敷だった。

 欠かすこと無く毎日訪れるユウキに、リリーは合鍵を渡したのだ。ユウキの訪問の理由を彼女は勿論知っていたし、頻度を抑えるように窘めようともしなかった。


「やっぱり今日はまだ来てないか」


 玄関から屋根裏に続く押入れへと直行だった。天井を閉め、部屋に降りるとようやく暖房をつける。


「ユーコちゃん、今日パーティーだから」

「ああ。向こうじゃ聖人の誕生を祝うんだってな。外国みたいだ」


 部屋の中心に置かれた炬燵に足を滑り込ませると、ハルカは身震いした。今夜は冷える。雪が止む気配もない。


「プレゼントを贈り合うんだって。楽しそうだよね」


 侑子の手紙から、彼女がクリスマス会での贈り物選びに悩む様子が伝わってきた。プレゼント交換はくじ引きで行われるらしく、自分が選んだ贈り物が誰に渡るのか予想はつかない。確かに品物を選定するのは苦労しそうだ。


「パーティの後、ライブハウスにも行くって書いてあった」

「へえ。向こうの世界のライブハウスか。どんなんだろう。あまり変わらないのかな。ユーコちゃん、歌うの?」

「いや、お客さんとして観に行くみたいだ。同好会の友達と先生と一緒に。クラスメイトの家族が出演するらしい」

「友達とライブハウスか。楽しいだろうな」

「ああ」


 相槌を打ったユウキは窓の外に目をやる。そこから見えるのは、元々は桑畑があった広い空き地だった。侑子が魔法練習に勤しんでいた場所である。雪に覆い尽くされて地表はすっかり白くなっていた。


「お前は贈り物するの?」


 ハルカにかけられた質問に、ユウキは再び友人に意識を戻す。


「むこうではそういう習慣なんだろ?」


 誰に対しての贈り物を指すのか、ハルカが明言しなくとも分かった。ユウキは未使用の封筒と便箋の束を、炬燵机の上に広げている。


「封筒に入るものじゃないと届かないから」


 左手を広げて、その上を右手の人差し指で軽く撫でた。まるで掌から湧き出てくるように、数枚の硝子の鱗が出現した。次にユウキの右手の人差し指と親指が、こよりを作るような動きをする。すると銀の細い鎖がその場に生じ、それは先程出現した青い鱗を絡め取りながら掌へと落ちていく――硝子の鱗を円状に連ねたモチーフをトップに配した、銀チェーンのネックレスが完成していた。


「器用なもんだな」


 素直に感心した様子のハルカが、ネックレスに注目した。

 銀のチェーンのコマ一つ一つにも細かくカッティングが施され、キラキラと光りを反射させて輝いている。


「本当はもっと装飾過多の方が、俺としては作っていて楽しいけどね。ユーコちゃんはこういう方が好みだろう。これくらいだったら封筒にも無理なく入るし」


 記録媒体ではないので確実に届くはずだ。

 時計に目を走らせる。午後十時を過ぎるところだった。


――向こうは昼間か


 もう一度屋根裏を見てみよう。それでも手紙が見当たらなかったら、今晩は諦めて明日の朝確認しよう。今日はこのままこの部屋に泊まるつもりだった。

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