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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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ヒノクニ――断たれた糸

「こちらへ」


 かけられた言葉の通りに、タカオミは示された場所へ歩み寄る。

 声の主は彼の主で初老の男だった。顔や手に年齢相応の皺が刻まれているが、発する声は震えもなくよく通る。

 渡殿に二人並んで立ち、欄干の向こうに広がる庭をしばしの間無言で眺めた。上空からは今朝から止まること無く雪が舞い降り続けており、すっかり地表を覆い隠してしまっていた。


「少年は息災のようだね」

「はい。問題ございません」

「少女の方は……」

「良くも悪くも変わりません。頻繁に封書が届きますが、そこに書かれている限り健康も記憶も問題なさそうかと」

「そうか」


 男は自らの手のひらを、おもむろに眺めた。


「彼女に続く糸は、断ち切れたままだ。気配を辿ることができない。限られた条件下とはいえ、封書はなぜ行き来できるのか。私にも考えが及ばない」


 侑子が突然消えた日、あの瞬間確かにこの手指に感じた、プツリと糸が切れる感触。ピンと張られた糸に鋭い刃物が触れたように、いくらかの振動と衝撃を伴っていた――――王と侑子を繋いだ神力の糸は、断ち切られたのだった。


「イカラシ・ユーコは……彼女は透証のついた装身具を身に着けたまま姿を消しました」


 花色の髪が僅かに揺れる。身体ごと主の方へ向けたタカオミの、薄紫色の瞳が一度だけ瞬かれた。


「お上が伸ばされた神力の糸端は、彼女が肌見放さず身につけていた装身具に私が結びつけてきたのです。ちょうど一年前、彼女と初めて対面した日のことです」

「装身具は、彼女と共に()の世界へと渡ったということだな。魔法の存在しない国へ」


 薄く笑った男は咳き込んだ。ここのところ胸の調子があまり良くない。


「中に入りましょう。身体が冷えます」

「タカオミ――いや、今はアミという名だったか」


 障子戸を開ける近習の名を言い直して、王は続けた。


「引き続き少年の側にいるように。それから今後の私への報告は、マヒトにも同様のことを伝えるように。頼めるか?」


 菫色の瞳はいささか見開かれたが、すぐにアミは表情を消した。「は」と短い返答をして、花色の頭を垂れた。

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