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植物状態になった好きな子を想い続ける話

作者: あおい

看病のために病院に通い続ける青春を描いてみました。二次創作で書いてみるのは初めてです。キャラの性格があらかじめ決まっているとけっこう書きやすい。三河拓斗はオリジナルのキャラです。

俺の名前は三河拓斗。俺には片思いしている大事な友達がいた。

博麗霊夢という少女だ。

彼女とは高校の同級生であり、それ以上でも以下でもない関係だったが、時折話せるくらいには認識があった。

本当はもっと近づきたい。


少しずつ、少しずつ、距離を縮めていこうと思っていた矢先、

事件は起きた。

霊夢は交通事故に巻き込まれた。

幸い命は助かったものの、そのまま植物人間になってしまった。

俺は毎日見舞いに行っている。


序盤はクラスメイトたちも同じように見舞いに行っていたが、やがてその頻度は落ちていった。

まあ、当然だろう。

最初は心配だったり、もしかしらた目覚めるのではないかと期待して見に行くが、やがて皆諦める。

霊夢の両親も例外にあらず、やがてめったに見舞いには来なくなってしまった。


だが、俺は毎日霊夢の病室に通っている。

霊夢は今日も眠っている。

まるで人形のように、身動き一つせず、呼吸をし、点滴から栄養をもらっている。

「霊夢……今日は神社に行ったらすごい桜が咲いてたんだ。もう春だな」

「……」

返事はない。

はたから見ると何やってるんだって感じだ。

だけど俺はある意味満足している。クラスでは人気者でもあった彼女が、今や俺と二人で時間を過ごしてくれているのだから。それだけでも俺は嬉しいのだ。


「....お前、また来てるのか」

そう言葉を返すのは霊夢ではない別のやつだった。

ああ、そういえばこいつはまだ来ていたな。

金髪の長髪姿をした彼女は魔理沙。

霊夢の幼なじみらしく、親友でもある。

「悪いか」

「いや、まあ悪くはないけど……」

魔理沙は少しばかり気まずそうに頭を搔いた。


魔理沙の気持ちはなんとなくわかる。親友でもなかった俺がなんでまだ見舞いに来ているのかという疑念。

それと、自分の好きな人間を独り占めできないことによる嫌悪、といったところか。


後者の感情は他でもない俺が感じている感情だ。だが、恐らくこいつも同じことを考えていることは想像に難くない。

魔理沙は、霊夢が元気なころにはいつも霊夢にダルがらみをしていた。

それを霊夢が面倒くさそうにあしらうのはクラスでよくある光景だった。

俺の予想だが、こいつは霊夢のことが好きでたまらないのだ。


「それより流石だな。他のやつらは当分来てないのに、親友殿は今日もちゃんと見舞いに来てくれるんだな」

俺は魔理沙をおだてようとする。

「まあ、私は霊夢の一番の友達だからな。霊夢がこんなになったからって、見舞いに来ないなんて薄情な真似はしないぜ」

魔理沙はふふんと鼻を鳴らした。

だが、その笑顔はどこかぎこちない。

俺はそんな魔理沙を鼻で笑うように言葉を返した。


「そうだな。お前と霊夢が幼なじみだったおかげで、今こうして二人でいられるんだもんな」

そんな皮肉めいた言葉に魔理沙は少しだけムッとした表情を見せたがすぐに表情を戻すと、霊夢の頬を小指でつつく。


「さあ霊夢、今日も魔理沙ちゃんが来てやったのぜ。頼むから起きてくれよ」

魔理沙は霊夢の頬を優しくなでる。

「……」

霊夢は反応しない。だが、魔理沙は落ち込まずに霊夢に笑顔を向けた。

「今日はな。霊夢が前に食べたいって言ってたケーキを持ってきたんだ。ほら、駅前のケーキ屋のやつ。霊夢、あそこの店のショートケーキ好きだったろ?」

魔理沙は鞄から箱を取り出し、蓋を開ける。中にはショートケーキが二つ入っていた。


「拓斗、お前はもう帰って良いんだぜ。私たちはこれから女子会をするんでな」

魔理沙は自慢げに胸を張った。

「女子会かよ..」

そういわれると男としては弱い。仕方なく俺は席を譲ることにした。

「わかったよ。じゃあまた明日な、霊夢」

俺は霊夢に別れを言うと、病室を後にした。

「あー……疲れた」


とっさに言葉が漏れてしまう。

魔理沙という子はかなり癖が強い。霊夢のことが大好きで、隙あればマウントを取ってくる。

だが、悪い子ではないのだろう。霊夢のために毎日学校帰りにここにきてくれる。

だが、、

「あのケーキどうすんだろうな...」

正直、あの後の二人がどうなるのか、考えるだけで胸が痛くなる。


霊夢、早く目を覚ましてやってくれ……。

そう願いながら俺は帰路についた。


---

翌日。俺はいつも通り学校の帰り際に霊夢のところに寄った。

「よう、拓斗」

魔理沙は昨日と同じ場所にいた。霊夢の手を握りながら。

「ああ、魔理沙か」

「今日は私の方が速いな」

魔理沙は霊夢の髪をなでる。霊夢が目を覚ますことを信じて疑わないような様子だ。

俺はそんな二人を見て胸が痛くなる。だが、それを表情に出さないようにしながら俺は鞄を床に置いた。

そしてそのまま椅子に座ると、持ってきた漫画を読み始めることにした。

しばらく沈黙の時間が流れる。


...なんだか、気まずい。

魔理沙はずっと霊夢の方しか見ていないが、それでも俺がいることは気にしているように見える。

そして俺も、魔理沙が霊夢の手を握っているのを見て、なんだか落ち着かない。

「なあ」

俺は思わず魔理沙に声をかけた。

「ん?どうした?」

魔理沙は俺の方を向き直ると首を傾げた。

「いや……なんでもない」

俺は言葉を濁すしかなかった。だが、それでも魔理沙は俺に対して言葉をかけてくれる。

「……お前さ、なんで毎日ここに来るんだ?霊夢とそんなに仲良かったか?」


「それは……」

「暇だし、霊夢も良いやつだったし、うん...」

と言ってみたはものの、正直言って自分でもよくわかっていない。

魔理沙の言う通り、俺と霊夢はそんなに仲が良かったわけではない。むしろクラスメイトくらいの関係でしかなかった。


魔理沙は微妙な目線でこちらを睨んでくる。言葉に詰まった俺は話題を変えることにした。

「それより、魔理沙は霊夢とどういう関係なんだ?

幼なじみなんだろ?」


「ああ、そうだぜ。」

「その、昔の霊夢ってどういう感じだったんだ?」

「それを知ってどうするんだよ?」

「いや、ちょっと気になっただけで……」


魔理沙は少しだけ考え込む。そして言葉を紡いだ。

「……お前に霊夢のプライバシーを教えるわけにはいかないな」


「そんなこと言わないでさ、教えてくれよ」

俺は食い下がる。だが魔理沙は頑なに口を開こうとしない。

やがて沈黙が続いてしまった。俺は諦めて鞄からスマホを取り出すことにした。

「……そ、それじゃ帰るわ」


少し居心地が悪かったので席を立ち、そのまま病室を後にした。

部屋を去るとき、魔理沙が霊夢の髪を優しく撫でる姿が見れた。

---


次の日。俺はまた霊夢の病室に向かった。

昨日と同じく魔理沙もいる。

「よう」

俺が声をかけると、魔理沙は軽く会釈した。

そして霊夢に向き直ると優しい口調で話しかける。

「霊夢、元気か」

俺は霊夢にも会釈をするが相変わらず無反応だ。

まあそんなもんか。

俺は何気なく席に座ると、昨日と同じように鞄から漫画を取り出し読み始めることにした。


だがこの展開だと昨日と同じく気まずい雰囲気が流れそうだな...

そう思った矢先、今日は魔理沙が口火を切った。

「なあ、お前本当に何なんだ?」


魔理沙は俺に対して訝しげな目線を向けてくる。

「昨日言ったろ、私は霊夢とお前がどんな関係だったのか聞いてんだぜ」

「……別になにもないよ。ただの同級生さ」


俺は適当に言葉を返す。だが、それがいけなかったのか、魔理沙はさらにムッとした表情になる。

「ならどうして毎日ここにきてんだ?」

魔理沙の質問に一瞬言葉が詰まるが、なんとか平静を装って答えた。

「……暇なんだよ。それにほら、友達だしな」

「友達...」


魔理沙は納得していない様子だった。

そしてそのまま言葉を続ける。

「なあ、お前霊夢のことどう思ってるんだよ」

「どうって……大切な友達だよ」


俺は素直に答えたつもりだったが、それでも魔理沙には不満だったようだ。

「……好きなんだろ?」

その言葉に心臓が跳ね上がる。だがすぐに平静を取り戻して言い返した。

「いや、別にそんなことはないぞ」


そう言ったものの内心はかなり焦っていた。このままだとまずいと思い話題を変えようとするも上手い言葉が見つからない。

そんな様子を察したのか魔理沙は言葉を続ける。

「だったらもう来るなよ。はっきり言わせてもらうが、私の邪魔だ」

「邪魔って……友達だし」

「いいから帰れよ!」

魔理沙は怒鳴りつけるように言う。俺は何も言えず、そのまま病室を立ち去った。


---


それからというものの、俺は毎日霊夢に会いに行ったがその度に魔理沙に睨まれるようになった。

時間帯を変えて魔理沙がいなそうなところを狙ったりもしてみたが、なぜかあいつはいつも病室にいて、俺は毎回追い出されるのだった。


正直言って辛い。だが、それでも俺は諦めきれなかったのだ。

そんな日々が続いたある日のことだった。

いつものように俺が病院に行くと、そこには魔理沙がいた。そして俺の顔を見るなり言ったのだ。

「……お前、もう来るなって言っただろ」

「いや、俺は霊夢に……」


俺が言葉を返す前に魔理沙は続ける。

「……お前さ、本当にいい加減にしろよ。毎日毎日来やがって……迷惑なんだよ!」

その言葉に俺は何も言い返せなかった。そしてそのまま病室を後にしてしまったのだ。

---

(くそっ……)

俺は心の中で毒づきながら帰路についていた。

正直言ってショックだった。まさかあそこまで言われるとは思っていなかったからだ。だが同時に納得もしていた。

(そりゃそうだよな……)

俺みたいなやつに毎日来られて、しかもそれが自分の好きな人とくれば、いい気分はしないだろう。

「はぁ……」

思わずため息が漏れる。もう霊夢のことは諦めたほうが良いのだろうか?

(...嫌だ)

(...なぜだ?)

自分で自分に問いを促す。

自分の感情の矛盾に気づく。だっておかしいじゃないか。

別にそこまで仲が良かったわけでもないやつをこんなに追いかけるなんて。しかも霊夢は植物状態だ。一生目覚めることもない。

それなのに、なぜ俺は諦めきれないのだろう?

(あいつに取られるのが嫌なのか?)

(ああそうだ。あいつは霊夢が好きなんだろ?)

(だからあいつは俺を霊夢から遠ざけようとしているんだろう)


---

ふと霊夢がいたころの学校生活を思い出す。

最初、霊夢は俺の1つ前の席に座っていた。

だから、授業中はいつでも彼女の後姿を見ることができた。

肩幅まで伸びる茶色い髪。赤いリボンで結んでいるが、ポニーテールにはめったにしない。


霊夢は綺麗で、勉強もできた。授業中は目立たずに黙々とノートを取るが、先生に指されたら、まず答えられる。まるで舐めてるんじゃないかという余裕がある。


霊夢は孤高の人だ。だけど不思議と人を寄せ付ける。

昼休みは自分からは動かずに本を読んだり、寝たりしている。

しかし周りの女子たちが霊夢に寄ってきては、彼女に話しかけるのだ。

「今日の髪型かわいい」とか、「どこで買ってるの?」とか、俺が思っていることを平気で聞いていて、正直ちょっとうらやましいと思った。


だけど、俺は霊夢とまともに話したことがない。

班を組んで話し合いになっても、霊夢は隣の女子と話すばかりで、俺との会話が続くことはない。

まあ、何度か目があったことはある。すごく緊張して、すぐに目線をそらしてしまったが。。

あと一度だけ、名前を呼ばれたことがあった。

「拓斗くんはできた?」ってさらっと声をかけられたことがあったな。だからまあ、名前くらいは認識されているはずだ。


.......

いや、思い返すと、空気だったな。霊夢にとっての俺は。


だけど俺はずっと彼女を見ていた。口に出したら気持ち悪がられるだろう。

..だからこそ余計に近づけなくて、遠くから見ていることしかできなかった。

---


頭の中がぐるぐると回る。そして、一つの答えに辿り着いた。

(ああ……俺は霊夢が好きなんだ)

(霊夢が植物状態になったと聞いたとき、実はそこまで落ち込まなかった)

(だって、普段の霊夢は、クラスのマドンナ的な存在で、皆にチヤホヤされていた)

(でも、植物状態になった霊夢なら、やがて皆興味を無くす)

(そしたら、俺が独り占めできるかもしれない。ずっと霊夢を思い続ければよいだけだ)

(そう思って、毎日病院に通っているんだ)

俺は自分の本心に気づいた。だが同時に絶望した。

(……でも、もう無理だ)

(魔理沙は霊夢のことが好きなんだ。そして俺は邪魔者だ)

俺は再びため息をつくと、そのまま家路についた。


---

そんな日々がしばらく続いたある日のことだった。

いつものように俺が病院に行くと、そこには魔理沙がいた。そして俺の顔を見るなり立ち上がるとこちらを睨みつける。

「お前、もう来るなって言っただろ」

俺は、意を決して魔理沙の前にまで歩を進めた。


魔理沙は驚いた様子を見せたが、それでも言葉を続ける。

「お前さ、本当に何なんだ?」

俺は深呼吸をすると、はっきりと答えた。

「……好きなんだよ」

その言葉に魔理沙は一瞬動揺した様子を見せた。俺はそれでも言葉を続ける。

「…霊夢のことが好きなんだよ。諦めたくないんだよ」

そう言った瞬間、俺の心臓は大きく跳ね上がった。そしてそれと同時に顔が熱くなり始めた。

そんな俺に対して魔理沙は呆れたように口を開いた。


「霊夢のことは諦めたらどうだ?」


その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れたような気がした。

「嫌だ」

俺は即答する。そしてそのまま続けた。

「俺は絶対に諦めない」


魔理沙はため息をつくと、そのまま言葉を続けた。

「……霊夢はお前のことをどれだけ知ってるんだ?」


「たぶん辛うじて名前を知られているくらいだろう」

俺は冷静に自分と霊夢の関係を述べる。淡々に事実を言う。

魔理沙はまたため息をつくと、そのまま言葉を続けた。


「お前、控えめに言ってもの凄く気持ち悪いぞ」

「ああ、知ってる」

俺は即答する。そして続けた。

「でもな、霊夢は俺のことを知らないんだ」


「だから何だって言うんだ?」

魔理沙が疑問を投げかけてくる。だが俺は構わず続ける。

「……だから俺がどれだけ霊夢に好意を寄せても構わないんだよ」

そう言い切ると魔理沙は呆れた様子で頭を抱えた。そしてそのまま言葉を続けた。

「……お前さ、本当にいい加減にしろよ」


いい加減になどできるわけがない。俺の心はすでに彼女に取られているのだから。

「魔理沙、お前も霊夢が好きなんだろ?」

「ああ、好きさ。だからっ」


魔理沙が言葉を紡ぐ前に俺は質問を続ける。

「それこそ、結婚したいくらいに。レズなんだろう?魔理沙。」

魔理沙は俺の言葉に一瞬動揺したような素振りを見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。そしてそのまま言葉を続ける。

「ああ、そうだとも」

「そうだよな。だから俺を排斥しようとしてるんだよな。俺がいなければ2人っきりになれるから」


魔理沙は何も言わなかった。だが、その沈黙こそが答えだった。

俺はさらに続ける。

「だけど、俺も同じことを思ってるんだよ」


「俺も霊夢に惚れてしまって、どうやっても諦められないんだよ」

魔理沙は何も言い返さない。ただ黙ってこちらを見つめているだけだ。

「だけど、魔理沙の言う通り、霊夢は俺のことを知らないからさ、No1はお前に譲るよ。

俺はお前を応援するぜ」


魔理沙は何か言おうとしたが俺はそのまま続けた。

「だから、魔理沙、頼むから霊夢を見舞いに来させてくれよ!」

俺は懇願するように頭を下げた。魔理沙はそんな俺の姿を見て、しばらく黙り込んでいたが、やがて口を開いた。


「まったく、霊夢がNOと言ってくれれば、容赦なく追い出せるんだけどな..」

そう言った魔理沙の表情はどこか優しげだった。そしてそのまま言葉を続けた。


「でも、お前は私が思っていたよりもずっと馬鹿で臆病なやつだったみたいだ。いいよ」

魔理沙は呆れたように肩をすくめると俺の顔を見た。


その瞬間、俺は嬉しさが込み上げてきて思わず叫んでしまった。

「……ありがとう!本当にありがとう!!」

そしてそのまま俺は病室を後にしたのだった。


---

それからというものの、俺と魔理沙は多少の喧嘩をすることはあれど霊夢のお見舞いについては協力するようになった。

霊夢の誕生日の日には、なぜか俺が金を出して3人分のケーキを買うことになった。

そして魔理沙はなぜかハナミズキの花を持ってベットの上にある花瓶に添えた。


「知ってるか拓斗。ハナミズキの花言葉は『私の想いを受けてください』っていうんだぜ」

「お前、もしかして俺のことが好きなんじゃないのか?」と冗談交じりに言うと、魔理沙は顔を真っ赤にして怒った。

「バカかお前。霊夢に向けてに決まってるだろ!」

それからというものの、俺と魔理沙は前よりも仲良くなっていった。そして俺は霊夢への気持ちも隠さなくなった。

そして、霊夢が植物状態になってから2年が経った日の春。


「霊夢、相変わらず綺麗だな。人形みたい」

俺は病室で霊夢の髪をなでながら呟いた。魔理沙はそんな俺を見て、呆れたように言う。

「お前さ……本当に気持ち悪いぞ」

「ああ、知ってるよ」


「でもさ、植物状態になった場合って、年は取るのかな?」

俺はふと疑問を口に出す。

魔理沙はそれに答えた。

「さあな、でも目覚めないだけで生きてはいるんだぜ。年は取るんじゃないか?」

「そうか……そうだよな」


俺は魔理沙の言葉を聞いて安心した気持ちになった。だが、それと同時に不安にも襲われた。

もしこのまま植物状態が続くなら、霊夢は寿命を全うする前に死んでしまうかもしれないのだ。

そんな俺の様子を見て心配になったのか、魔理沙は言った。


「おいおい拓斗。お前また変なこと考えてるんじゃないだろうな?」

「いや、別にそんなんじゃないよ」

俺は慌てて否定するも、魔理沙は疑いの目を向けてくるだけだった。


「そういえば、魔理沙は進路どうするんだ?」

「あ~?」

「ほら、もう高校3年だろ?そろそろ決めないとまずいんじゃないか?」

俺は話題を変えるためにも魔理沙に質問を投げかけた。

すると魔理沙は少し考え込んだ後に答えた。

「働くよ」

「え?働くって……大学とかには行かないの?」


俺は驚いて聞き返した。魔理沙はそんな俺に対して淡々と答える。

「霊夢がここにいるために、毎月かなりの金額がかかっているらしい」

「え?まあ、そりゃそうだろうけど..」

言われてみればその通りだ。2年間も入院していたら相当な費用がかかるだろう。

「霊夢の両親は、もうとっくに霊夢をあきらめてんだ...

このままだと安楽死させられちゃう..」


「えっ...」


初めて聞いたことの連続で頭が追い付かない。しかし魔理沙は悔しそうな表情を浮かべながら言葉を続ける。

「だから、私は働くよ。両親には前借りって形で、高校出るまでは待ってもらう約束になっている」

「だから高校を出てからは、私が働いて、それで霊夢の命を繋げるんだぜ」

魔理沙はそう言うと再び霊夢の髪を撫でた。


「霊夢、私が絶対に守るからな」と魔理沙は呟く。

俺はそんな魔理沙に対して怒りがこみあげていた。


「どうして、言ってくれなかったんだ」

「霊夢が植物状態になってから、ずっと一人で抱え込んでたのか?」


魔理沙は俺の言葉を聞いても表情を変えない。ただ淡々と答えるだけだった。

「ああ、そうだぜ。でもな、これは私が決めたことなんだ」と魔理沙は言う。

「それにな、私は霊夢のことが本当に好きなんだ。だから霊夢のために何かしたいんだよ」


「だったら俺も..俺も協力する。霊夢のために何かさせてくれ」

「いや、お前はいい」と魔理沙は冷たく言い放った。

「なんでだよ!」

俺は思わず叫ぶ。だが魔理沙は動じない。


「これは私と両親で決めたことだ。部外者が口を出すな」

魔理沙の口調は厳しかった。だがそれでも俺は食い下がる。

「でも……俺だって霊夢のことが好きなんだ!」


その言葉に魔理沙は一瞬動揺した様子を見せたがすぐに平静を装うと言ったのだ。

「ああ、知ってるよ」

「でもな、お前じゃ霊夢を幸せにできないんだ。だからお前は必要ないんだよ」

魔理沙はそう言うと、そのまま病室から出て行った。俺はただ呆然と立ち尽くしていた。

---


(くそっ……)と心の中で毒づく。そして同時に怒りが湧き上がってきた。

(どうして俺じゃダメなんだ!俺だって霊夢のことが好きなのに!!)

魔理沙はどうしても霊夢を独り占めしたいらしい。だがそれはあいつのエゴじゃないか。。

だが魔理沙の決意自体には共感するものがあるっちゃある。


だからこそ、悔しい。

だがこれで終わるわけにはいかない。


俺は魔理沙を応援することに決めた。そして、いつか必ず霊夢に告白すると心に誓ったのだった。


次の日も、俺と魔理沙は病室で話した。昨日の険悪な雰囲気はいったん忘れて普通にふるまう。

「なあ拓斗、お前の方は進路どうするんだ?」と魔理沙は聞いてきた。


正直いうと、一昨日まで大学にいくと思っていた。

だが、魔理沙が働くと聞いてから、心が揺れていた。だが決めた。

「俺は……防衛学校に行く」

「え?」と魔理沙は驚いた表情を浮かべる。だがすぐに元の表情に戻った。

「お~って感じだけど、意外だな。お前運動できるのか?」

「いや、全然できない」と俺は正直に言う。


「で?なんで防衛学校なんだ?」

俺は少し間を置いて答えた。

「そりゃ、給与が出るところだ」

「お前、また」

魔理沙は呆れた声を出して不機嫌になる。

「まあ聞け。」

「……正直いきなり働きに出てやってける自信はない。それに親からは大学に行けと強く言われてるから高卒は無理だと思う。

だが、自衛隊になりたいと言ったらどうだ?公務員で安定もしている。親も反対しないだろう」


「まあ確かにな」


「知ってるか魔理沙、人は何かを守るためなら命だって張れるんだぜ」


「私はそんな妄言みたいな理由で進路決めたりしない」と魔理沙は呆れながら言う。

「でも、霊夢のためなら命張れるだろ?」

「……それは私の場合だ。お前には無理だ」


魔理沙は怒り気に反論してくる。魔理沙は誰よりも霊夢のことが好きだと信じて疑わない。正直俺がここまで信頼されてないのは心外だが、魔理沙のプライドを逆なでしてもしょうがないと思った。

だからこそ、俺は魔理沙に奇策を提案する。


「魔理沙、お前は高卒で働いて、霊夢の入院代を賄うんだろ?

だったら、俺はお前の生活を支えてやる。霊夢じゃなくてお前のだ。だったら文句ないだろ?」


俺は自信満々に言ってやった。我ながら名案だと思う。だが、魔理沙は予想外の反応をしてきた。

「はぁ?何言ってんだお前?」

「お前の霊夢を守りたい意思を疑う気はない。だから任せる。けど、高卒じゃあ自分一人食ってくだけで精一杯なんだぞ。世の中は厳しいんだ」


「うっ」と魔理沙は反論しようとするが、何も言い返せない様子である。俺はさらに畳み掛けるように言葉を重ねる。

「もし生活に困ったら俺が養ってやるさ」

「え?でもそれは……」

魔理沙は困惑している様子だ。だが俺は構わず続けた。

「これが俺の覚悟だ。頼む」

そう言って俺は頭を下げる。すると魔理沙はしばらく沈黙した後に口を開いた。

「わかったよ」と魔理沙は言った。

「そこまで言うなら、仕方がねぇな」

その口調にはどこか嬉しさも含まれているようだった。


---

それからというものの、俺と魔理沙は毎日のように病室で話を続けた。貴重な青春時代の終わりが刻一刻と迫る中、魔理沙は無事に就職先を決め、俺も防衛学校への入学許可を得た。


今日は珍しく一人の時間に病室に来た。

一人で霊夢と向き合いたかったから。


白く、透き通る肌をした女の子が寝ている。

...我ながら不思議な感覚だ。

一生目覚めない女の子のために、自分の人生を決めてしまうのだ。しかも幼馴染でも恋人でもない。片思い。

「霊夢、俺さ、お前のことが好きなんだ。」と俺は呟く。

もちろん返事があるはずもない。だがそれでいいのだ。

「だけど、霊夢だけだったら、ここまでの決断はできなかったと思う。」


魔理沙がいないから言える本音だった。

そりゃそうだ。あいつがいなければ、いやあいつがいたからこそ、俺は霊夢への愛を強めることができた。

魔理沙が霊夢を好きだと言い張るから、俺も負けじと霊夢をもっと好きになった。

魔理沙がいなければ、俺は霊夢に告白しようとは思わなかっただろう。

「だからさ、魔理沙には感謝してるんだ。」

そう、これは本心だ。だから……

「だから……魔理沙を応援してやりたいんだ」

それが俺の出した結論だった。

そして俺は病室を後にしたのだった。


----------

(はぁ……)とため息をつく。私は今、拓斗のいる病室から帰るところだった。

今日はあいつが病室に来なかった。不審に思った私は病院の手前で待機していたのだった。そしてあいつは夜遅くに現れた。

(なんであんな奴に……)と思いながらも、なぜか悪い気はしなかった。むしろ、嬉しいとさえ感じていた。


拓斗は霊夢に向かって何かつぶやいているようだった。

あんまり大きな声でなかったからよくわからんが、「魔理沙には感謝してる」というセリフはなんとなく聞こえた。

自分でもよくわからない感情だった。だが不思議と悪い気はしなかった。むしろ心地良いくらいだ。

私はそのまま病院をあとにしたのだった……


---

それからというものの、俺は防衛学校の訓練に励み、魔理沙は就職して働き始めた。

お互いに忙しくなると俺と魔理沙は病室で会える頻度が減少した。


だが、それでも霊夢の見舞いは欠かさなかった。

お互いに空いている時間に会いに行き、偶々会うこともあれば、一人で霊夢に会うときもある。


今日も一人で霊夢を見舞いに行く。昨日まで死に物狂いで体を鍛えて、勉強もして、大声で指示・指導されて、体育会系のノリの強いやつらとつるんで暑い空間を過ごしていた。


そんな中で得られた貴重な休日を相変わらず永眠している女の子の見舞いに使う。

そして病室に着いて、いつものように霊夢に話しかける。

「霊夢……こっちは中々キツイぞ」と俺はベッドに横たわっている女の子に語りかける。

もちろん返事はない。


ああ、確かに報われないな。だがそれでも良かった。俺の声は届いているはずだから。

「霊夢。知ってるか。永遠に眠るお姫様は王子様のキスで目覚めるらしいぞ。

そろそろ俺のことを王子様と思ってくれても良いんだぞ(笑)」

俺はいつも霊夢に語りかける時、必ず冗談を言ったり、くだらないことを話した。

何やってんだか。。


いっそ本当にキスしてみようかとも思うが、魔理沙が知ったら殺されそうなので止めておく。

だから今日もいつも通り、魔理沙の愚痴を話そうと思っていたのだが……

「よお拓斗」と突然後ろから声をかけられる。振り返るとそこには魔理沙が立っていた。

「おう、久しぶりだな」と俺が言うと、魔理沙もそれに答えるようににかっと笑う。


「そうだな、最近忙しかったからな」と俺も笑う。

「仕事はどうだ?」

と魔理沙が聞いてきたので俺は答えることにした。

「ああ、順調だよ。といっても俺はまだギリ学生みたいなもんだけどな」

俺がそう返すと魔理沙は安心したような表情を見せると言った。

「そうか……良かったな」

「うん、ありがとう」

そしてしばらく沈黙が続いた後、魔理沙は再び口を開いたのだった。

「……なぁ拓斗。お前さ、まだ霊夢のこと好きなのか?」と突然聞かれたので少し驚いたもののすぐに答えた。

「……好きだよ」と答えると魔理沙は真剣な表情でさらに聞いてきた。


「お前さ、霊夢とキスしたいって思うか?」

一瞬何を聞かれたのか理解できなかったがすぐに理解すると同時に魔理沙の真意を測りかねた。だがとりあえず質問に答えることにした。


「……正直、分からない」と正直な気持ちを伝えることにした。すると魔理沙は続けて言った。


「じゃあ、もし私が霊夢にキスしたら怒るか?それとも祝福してくれるのか?」


その質問には即答することはできなかった。なぜならそれはあまりにも唐突すぎるものだったからだ。だがそれでも真剣に考えて答えを出すことにした。そして俺は魔理沙にこう言ったのだった。


「うーん……分からないけど、きっと応援すると思う」と言うと、魔理沙は少し嬉しそうな表情を見せた後、さらに質問してきた。

「どうしてだ?」と聞かれたので素直に思ったことを答えた。


「だってさ、魔理沙も俺にとって大事な存在だから」と言うと魔理沙は少し驚いたような表情を浮かべた後に言った。

「ふっ、お前って競争欲がないな……」

「は?どういう意味だよそれ?」と俺が聞き返すと魔理沙は少し笑いながら答えた。

「いや、こっちの話だ」と言い終えると再び黙り込んでしまった。

「……なんだよそれ。まあいいけどさ」と言い返すものの特に何も言い返さなかった。すると魔理沙は再び口を開いた。


「……なあ拓斗、私もお前のこと嫌いじゃないぜ」と言うので俺は「おう……」と答えることしか出来なかった。そしてそのまま病室を出て俺は宿舎に戻った。


「魔理沙が自分の行動に対して確認してくるとはな..」

その日の夜は中々寝付けなかった……。


---

それからというものの、俺は防衛学校の訓練に励み、そこそこの順位で卒業を果たした。そして、俺は防衛軍に入隊し、将校として日々訓練に励んでいた。そんなある日のこと……

「拓斗くん。君は真面目やな」と突然話しかけてきたのは俺が所属している部隊の隊長だった。

彼は40代後半でベテランの風格を漂わせる人物だった。

「ありがとうございます」と俺は素直に感謝の言葉を述べた。すると隊長は続けて言った。


「ところで拓斗くんは彼女とかおるんか?」と聞かれたので俺は答えた。

「いえ、いませんが……」と言うと隊長はニヤリと笑って言ったのだった。

「そうか……なら俺が紹介したるわ」と突然言い出したのだ。

「いえ!大丈夫です」

と断ると、隊長は「まあええやんけ」と言ってきたので俺は渋々承諾した。そして後日、とあるパーティーが開催されることになったのだった……

---


数日後、ついにその日がやってきた。俺は会場に着くとそこには男女が10人ほど集まっていた。いわゆる合コンというやつだろう。


そんな中で一際目立っている人物がいた。それは紛れもなく隊長だった。

(相変わらず凄い存在感だな)と思いながら近づいていった。すると向こうも気づいたようでこちらに手を振ってきた。ここはしっかり断るべきだったかと思いつつも、今更戻れない俺は軽く会釈をして隣に座った。

のだが……正直言って気まずい空気が流れたので話題を振ることにした。


「そういえば、隊長はどうしてこのパーティーに?」と聞くと彼は答えた。

「ああ、それはな、やはり軍にはいる男子どもには出会いが少ないからな。部下たちに守りたい存在を得られる機会を与えたいと思ってな」と言うので俺は納得した。

そしてさらに続けた。


「それに、拓斗くんにもそろそろいい人を見つけてほしいしな」と笑いながら言うので俺もつられて笑ってしまったのだった。

そしてしばらくすると女性陣が到着したようで、男性陣は皆そちらの方を見た。するとそこにはとても綺麗な女性がいた。年齢は20代前半といったところだろうか?俺はその女性に目を奪われた……

(綺麗だ)

それが第一印象だった。だがそれと同時にどこか懐かしいような気持ちになったのだ。


そんなことを考えているうちに自己紹介が始まった。まずは隊長からだ。

「どうも初めまして、私はこの部隊の隊長をしているものです」

と挨拶すると女性陣からは拍手が起こった。そして次に俺の番が来たので立ち上がって自己紹介をした。

「防衛軍で階級は三尉であります、拓斗と申します」

と言うと再び拍手が起こった。

そして自己紹介が終わると、乾杯と共に自由な会話がはじった。


仕事は大変か、恋愛経験はどれくらいあるか、年収は、趣味は、好きなことは、休日は何をしているか……

などなど、様々な質問が飛び交っていた。だが俺は正直あまり興味がなかった。というより何を話していいかわからないといった方が正しいかもしれない。

そんな時だった。突然一人の女性が俺に話しかけてきたのだ。

それはまさに俺が今一番気になっている女性だった。

「ねえ君も防衛軍の幹部さんなの?」と聞いてくるので俺は答えた。

「はい」と答えると彼女は続けて言った。「へぇーすごい落ち着てるからびっくりしちゃった。じゃあ将来有望じゃん!」

と言ってきたので俺は少し照れてしまった。すると彼女は隣の席に座ってもいい?と聞いてきた。

断る理由もないので承諾すると彼女は嬉しそうに俺の隣に座ってきた。そして早速話しかけてきた。


「ねぇ、君はどんな女性がタイプなの?」

と聞いてきたので俺は素直に答えた。

「う~ん、考えたことはないけど……しいて言えばしっかりしている人かな?」と答えると彼女はクスリと笑って言った。

「へぇーそうなんだ」と言い終えると同時に今度は逆に質問してきたのだ。

「じゃあさ、私のことどう思う?」と言ってきたので俺は迷わずに答えた。

「とても綺麗な方だと思います。」と言うと彼女はさらに嬉しそうな表情を浮かべた後、俺にこう言ってきた。

「じゃあさ、今度二人で食事でも行かない?」と言われたので俺は思わずドキッとしてしまった。

断るのも失礼になると思い了承してしまおうと思ったところで魔理沙の顔が浮かんだ。俺は迷った。そして暫く

考えた末に答えをだした。

「すみません、俺なんかじゃ貴女を幸せに出来ませんから」と答えると彼女は少し悲しげな表情をした。だがすぐに笑顔に戻って言った。

「そっか……じゃあまた機会があったら誘ってくれる?」と聞いてくるので俺は迷わずに答えた。

「はい、喜んで」と言うと彼女もまた嬉しそうに微笑んだのだった。そしてその後は会話は弾み、楽しい時間を過ごすことが出来たのだった。


---


会が終わると俺は隊長にお礼を言いにいいった。

「隊長、今日はお誘いありがとうございました。とても楽しかったです。」と言うと隊長は満足そうに言った。

「そうか、それは良かったわ。気になる子は見つかったか?」と聞かれたので俺は

「はい、一人」と答えると隊長は笑いながら言った。

「そうか……なら大事にしいや」と言われてしまったので俺も笑顔で返すのだった。そして最後にもう一度お礼を言ってからその場を去ったのだった。


(...臆病だな)

帰り道、ふと空を見上げると綺麗な星空が見えた。

俺には霊夢がいる。本当に彼女を想っているならさっさと断ればよいものを、

俺はそれをしなかった。


隊長の良心に泥を塗るわけにはいかないと言い訳するが、本心はどうなのかわからなかった。魔理沙は霊夢のことを好きだと言ってるからか。霊夢とは片思いだし、ずっと恋するもの心の奥底ではおかしいと思っているのかもしれない。仮に彼女が目覚めたとして、霊夢は俺のことを知らない。

だから、どう転んでも俺はボッチになるのだ。


だがもし、これからも霊夢が目覚めなかったら、俺は魔理沙と...?

いや、その考えは辞めるべきだ。


魔理沙は霊夢が好きだ。だから俺も、他の女性を愛せるならそれが良いのだろう。

だが、幸いにも俺には愛したいと思える女性がまだいなかった。それだけだ。

そう思いながら俺は帰路についたのだった。

---


それからというものの、俺の意欲は下り坂になった。俺は毎日の訓練に身が入らなくなり、上官にも注意されるようになった。

「おい!拓斗どうしたん?」とある日の深夜、隊長が俺のところにやって来た。

「……すみません」と答えると彼は大きくため息をついた後、俺に言った。

「お前なぁ……いい加減シャキッとしいや。そんなんやから他の隊員からも馬鹿にされるんやぞ」と言われてしまったので少し反省した。確かに最近よく同期にも話しかけられることが多くなっていたのだ。そして何より自分自身でもわかるくらい、俺は上の空になっていた。

「すみません」と言うと彼は再び大きなため息をついて言ったのだった。


「……まあええわ。とりあえず明日は休日やからゆっくり休めや。明後日、また訓練に励めよ?」と言ってきたので俺は感謝の意を述べて部屋に戻ったのだった……


---

翌日、目が覚めると既に昼前になっていた。慌てて飛び起きるとすぐに支度を始めた。しまった、今日は魔理沙と会う約束だったのに。

そして部屋を出るとそこには魔理沙が立っていたのだ。彼女は俺の顔を見るなり少し心配そうな表情を見せた後、俺に話しかけてきたのだった。

「おい拓斗、遅かったから家まで迎えに来たぞ」と言うので俺は素直に感謝の意を示した。

「ああ、ありがとうな魔理沙」と言うと彼女は少し照れくさそうにしながらも笑ってくれたのだった。


宿舎のすぐ近くという都合もあり、同期たちに俺たちのやり取りを見られてしまった。

「なんだ拓斗、お前彼女いたのか?」

などと茶化されたのは言うまでもない。


俺は肯定も否定もせず、軽く会釈して魔理沙と共に歩き出したのだった。

「なぁ拓斗」と突然話しかけられたので俺は「なんだ?」と答えると彼女は続けて言った。

「……お前さ、最近元気ないよな?何かあったのか?」と言われたので俺は一瞬ドキッとしたがすぐに冷静になって答えた。

「……別に何もないよ」と言うと彼女は納得していない様子だったがそれ以上追及してこなかった。

それからというものの、俺たちは特に会話を交わすこともなくただ並んで歩いていただけだった。会話はないが、特に気まずいということはない。もはや慣れてしまった。

俺と魔理沙の関係は社会人になってからは良き友人として続いている。


2人とも霊夢が好きで、魔理沙が霊夢の入院代を賄って、俺が魔理沙の生活費を支える。

まあ、実際は魔理沙も意地の強いやつで、あんまりお金を渡せているわけではないが、今日のようなの遊び代は全部俺が受け持っている。

そんな関係だ。


とりあえずは昼食を食べるということで適当な店に入り、注文をした。そして料理が運ばれてきたので食べることにしたのだが……

俺の隣に座っている魔理沙を見て思ったのだ。

(なんか距離近くないか?)

そう感じるくらい近い位置に座っているのである。まあ特に気にすることでもないと思い、そのまま食事をしていると突然彼女が話しかけてきたのだ。


「なあ拓斗、お前さ最近なんかあった?」と聞かれたので俺は正直に答えた。

「いや別に何もないよ」と言うと彼女は少し不満げな表情をしたがそれ以上は何も聞いてこなかった。そしてそのまま食事を続けたのだった……


食事が終わると次に病院に向かった。俺たちの行くところといったら結局そこしかないのだ。

「なあ拓斗、やっぱり雰囲気変わったよな?何かあったのか?」と突然聞かれたので俺は一瞬ドキッとしたがすぐに冷静になって答えた。

「……別に何もないよ」と言うと彼女は納得していない様子だった。

しばらく「う~ん」と考えている。


「そうか、なら良いんだけどな……」と言うと再び歩き始める。そして病院に着くといつも通り受付を済ませてから病室に向かった。部屋に入るとそこには相変わらず眠ったままの霊夢がいた。魔理沙は今日あった出来事などを話しているが俺は黙っていた。正直言って何も話すことがなかったからだ……

そんな時、ふと魔理沙が口を開いたのだ……


---

「なぁ拓斗、お前まだ霊夢のことが好きか?」

魔理沙は少し不安そうな目でこちらを見ていた。俺は少しの間黙った後、答えた。

「ああ、好きだよ」と答えるが心の中で何かが刺さる音がした。


「そっか……」と魔理沙は呟くように言った。

「なあ拓斗、お願いがあるんだ」悲し気な表情をしながら改まって

言うので俺は「なんだ?」と聞き返すと彼女は少し間をおいて言った。

「……もし私が死んだら、霊夢のこと頼むな」


俺は一瞬何を言っているのか理解できなかった。だがすぐに理解したと同時に怒りが込み上げてきた。

何故そんなことを言うのか理解できなかったからだ……

そして同時に悲しくなった。魔理沙は俺なんかよりもずっと前から霊夢のことを想っていたのに、その彼女が死ぬかもしれないなんて考えたくなかったからだ。だからつい感情的になってしまった。


「何言ってんだよ!縁起でもないことを言うんじゃねえ!」と言うと彼女は驚いたような表情を見せた。

「いや、でももし私が死んだらお前しかいないだろ?」と言うので俺はつい怒鳴ってしまった。

「ふざけんなよ!なんでお前が死ぬ前提で話が進んでいるんだよ!」と言うと彼女は黙り込んだ後、小さな声でこう言ったのだった……

「……ごめん」と。そしてそのまま黙り込んでしまった。俺も何も言うことができずただ沈黙が続いた。


その日は居心地の悪い中、そのまま帰ったのだった……

---

それからというものの、俺と魔理沙は気まずくなっていた。俺はあの日のことをずっと後悔していた。何故怒鳴ってしまったのか自分でもよくわからなかったからだ……

そして何より、魔理沙が死ぬかもしれないという事実を改めて突きつけられたことが辛かったのだ。霊夢のことは好きだし、今でも想っている。だけどそれ以上に魔理沙のことも好きなのだ。だから彼女がいなくなることを考えただけで胸が締め付けられるような思いになるのである。


ああ、そうか。

俺はいつの間にか、魔理沙のことが好きになっていたのだ。

霊夢が嫌いになったわけじゃない。ただ、今までは霊夢を想うあまり、魔理沙のことを疎かにしていただけなのだ。

だからこれはきっと、俺がずっと抱えていた問題だったのだと思う。

---


数日後の夜、俺は魔理沙の家に遊びに行った。正直まだ気まずかったが、このままの状態が続くよりはマシだと思って勇気を出して行ったのだ。

「よっ」と言うと彼女は笑顔で出迎えてくれたので少し安心した。そしてそのまま中に入っていき、早々に先日の件を謝罪した。

すると彼女は少し驚いた表情をした後、「別にいいよ」と言って許してくれたのだった。


その顔にはどこか安心感があったような気がしたので俺は思い切って話してみることにした。

「魔理沙、俺さ、お前に言わないといけないことがあるんだ……」


と言うと彼女は少し戸惑ったような表情を浮かべたがすぐに真剣な表情に戻った。そして俺の言葉を静かに待ってくれていた。そんな彼女を見ていると自然と気持ちが落ち着いてきたような気がした。だから俺は素直に自分の気持ちを打ち明けることにしたのだ……


「俺さ、お前のことが好きなんだ……」

と告白すると魔理沙は一瞬驚いたような表情をし、少しぎこちなさそうに構えた。たがすぐに嬉しそうな表情をして言った。


「私も拓斗のこと好きだぜ」と言ってきたので思わずドキッとしたがすぐに冷静になって答えた。

「そうか、なら良かった……」と言うと魔理沙は少し照れ臭そうな表情を浮かべていたがやがて真剣な表情に戻り口を開いたのだった……


「でもさ、私なんかでいいのか?霊夢は?」と聞かれたので俺は正直に答えた。


「ああ、俺も最近気づいたんだ。でも多分ずっと前から好きだったんだと思う。

こんなこと言ったら怒られそうだけどさ、最初は霊夢のことが好きだった。だけど魔理沙が居なかったら、ここまで関係を続けようとはならなかったと思う」

と言うと彼女は黙って聞いていた。そして全て話し終えたところで俺は改めて謝罪した。


「ごめん魔理沙、俺が好きなのは、霊夢のことが大好きで自分の人生を平気で捧げられて、それでいて、目的も不健全な俺のことを排斥しないで付き合ってくれたお前だったらしい」と正直に話すと彼女は少し驚いたような顔をした後、


「そっか……」と言って笑ったのだった。

その笑顔はとても綺麗で、思わず見惚れてしまったほどだった。

そして同時に思った。ああ、俺はやっぱり魔理沙のことが好きなんだなって……

だからもう迷う必要は無いと思ったんだ。


「わかったわかった。今までご苦労だったな。

私を好きになるならそれは構わないぜ。ただ、私が一番好きなのはこれからもずっと霊夢だけどな!」と言ってきたので俺はつい笑ってしまった。

「わかってるよ」と言うと彼女もまた笑い出したのだった。

こうして俺たちは再び元の関係に戻ったのだ……

----------


それからというものの、俺と魔理沙は今まで通りの生活を続けていた。ただ少しだけ変わったことと言えば、今までは病院で会って、たまに外食を共にする程度の関係だったのが、一緒に旅行に行ったりするようになったことだろう。ちなみに一度同居を提案してみたが「私は個性派だからちょっと」と拒否られてしまった。

だけどそれでめげることはない。まだまだ彼女の気を惹くために頑張ればよいだけだ。


それから2年経ったある日のことだった。いつものように魔理沙と霊夢のお見舞いに行った際に


「……なあ拓斗、ちょっと話があるんだがいいか?」と魔理沙は言った。

俺は不思議に思いながらも了承した。そしてそのまま二人で病室を出て病院の屋上に向かった。


---

屋上に着くと辺り一面の夜景が広がっていた……小山の中心にあるこの病院からは街灯が良く見える。

その美しさに見惚れていると、不意に魔理沙が口を開いた。

「なぁ拓斗」と彼女は言った。その声はどこか悲しげな響きを含んでいた。

「なんだ?」と俺は聞き返すと、彼女はポツリと呟いた。

「正直、お前がいてくれてよかったぜ」と言う彼女の表情はどこか切なげで苦しそうだった……

そんな様子を見た俺は何も言えなかった。ただ黙って彼女の言葉に耳を傾けることしかできなかったのだ。


魔理沙はそのまま話を続ける。

「拓斗、お前のおかげで私は霊夢を支えることができた。本当に感謝してるんだぜ」と魔理沙は続けた。

「魔理沙……」と俺が言いかけると彼女は首を振った。そしてそのまま言葉を続けたのだった。


「一つ、霊夢が目覚める可能性があるんだ」


と魔理沙は言った。

「本当か?」と俺は聞き返す。すると彼女は真剣な表情で答えた。

「ああ、西洋の研究で、定期的に電気を浴びせると脳が刺激されて意識が戻った事例があるらしい」魔理沙はそう言うと、ポケットからスマホを取り出して操作し始めた。そして画面を俺に見せてくる。


「これがその記事だ」と彼女は言った。

俺はそれを受け取りながら考える。確かにこれなら可能性はあるかもしれない。だが問題はこれを試せるのかということだ……


俺が考え込んでいる様子を察したのか、魔理沙は言った。

「だから拓斗、もしお前が良ければなんだが……」

「……ああ、わかった」


俺は彼女の言葉を遮り、はっきりと言った。

「勿論、霊夢が目覚めるかもしれないなら、やるべきだ」


魔理沙は俺の言葉を聞くとホッとした表情を見せた。そしてすぐに真面目な顔に戻るとこう言った。

「ああ、ありがとう拓斗」


魔理沙の言葉に俺は笑顔で応えたのだった……

「ちなみにそれいくらかかるんだ?」

「正直よくわかっていないんだが、まずは日本で取り扱っている病院に移転しないといけない。それから施術代がかかってくる。どちらも調べないとな」と魔理沙は言った。


「そうか、まあその辺は任せとけ。金ならあるから」と言うと彼女は少し呆れた表情をしていたがすぐに笑顔に戻ったのだった……

---それからしばらくして、俺と魔理沙は移転先を探し始めた。まずは海外の病院がどこにあるかを調べることから始めなければならなかった。そしてその後、日本国内の病院も探さねばならないのだ。なかなか骨の折れる作業だったが、俺たちはなんとかやり遂げることが出来たのだった……

---それから数ヶ月後、ようやく準備が整ったということで俺たちは早速行動を開始した。


防衛軍生活の利点は出費がほとんどないことだ。昇給もそれなりにある。欠点は金を使う機会が少ないことだが、それも俺の場合はむしろ好都合だ。


書類を用意し、親族に承認を得て、万事が整った頃、

俺と魔理沙は救急車に乗せた霊夢とともに意気揚々と出発したのだった……

目的の場所に到着は人里離れた山奥にある小さな施設だった。どうやらここに例の病院があるらしい。

受付を済ませた後、指定された部屋へ向かう。病室は広くて清潔感があり居心地の良い場所だった。何かが始まりそうな本格的な雰囲気にワクワクしている自分がいた。

魔理沙も喜んでくれているようで安心した。


「なあ拓斗、霊夢って本当に綺麗な顔してるよな……」と魔理沙は言った。確かにその通りだと思ったので俺は素直に同意したのだった……


それから俺たちは病院の主治医から話を聞いた。

施術自体は簡単なもので、毎月一回電気を脳の特定部位に充てること。これを繰り返す。

何回目で目覚めるかはわからないし、目覚める保証もない。そして目覚めたとしてもその後日常生活に戻れる可能性も低いことを告げられた。


だが、それでもいいと思った。霊夢が目覚める可能性があるだけで俺は嬉しかったのだ……


それからというものの、魔理沙は休職して毎日霊夢の様子を見に行った。

代わりに職務上あちこちに移動しなけらばならない俺は月に1回程度だけ2人の様子を見に行った。

夜遅くには魔理沙も寝ていて、2人の寝顔が見られる。それを見る度に、早く目覚めてほしいと願うのだった。


---

それから数ヶ月後のことだった。いつものように2人の様子を見に行くと魔理沙が浮かない顔をしていたので俺は声をかけた……

「魔理沙、大丈夫か」


すると彼女は苦笑しながら言った。「いや、なんでもないぜ」と言うものの明らかに元気がない様子だったので俺は心配になった。

仕事を休んでまで霊夢の様子を見に来ているというのに、いや、だからこそ期待と不安が募って不安定になっているのだろう。


だから思い切って聞いてみたのだが……

「……魔理沙、もしかして霊夢に何かあったのか?」

と言うと彼女は少し躊躇った後口を開いたのだった……

「実はな、霊夢の手が動いたんだ……」と言った。それを聞いた瞬間、俺は吉報だと思った。

「おお、それは良かったじゃないか」

と素直に喜んだのだが、魔理沙の表情は曇ったままだった……

「だけど、施術の進捗自体は成功パターンとは違うらしい……」と言って俯いたので俺は驚いた。

「電気を浴びせると、脳が活性化するらしいんだが、霊夢の場合はその反応がすごく弱いらしいんだ。手が動いたのだって、私の幻覚かもしれないって主治医が言うんだ」

と彼女は続けた。


俺は黙って聞いていた。魔理沙の中にたまっている不安、それは計り知れないだろう。

「なあ魔理沙、霊夢はきっと目覚めるさ」と言って俺は励ます

「そうだよな...うっ、、ああああ」

と彼女は嗚咽を漏らし始めた。

俺はそっと彼女の背中をさすってあげる……


「毎日、必死に祈っているのにダメなんだ。祈るだけじゃダメなんだ!

私は何をすればよい?!霊夢のために出来る事は何かないのか?!」


と彼女は叫んだ。そして泣き続けた……

そんな姿を見て俺は思ったのだ。魔理沙は俺なんかよりもずっと苦しんでいる。それなのに、何もしてあげられない自分が不甲斐なくて仕方がなかった……


昔、防衛軍の上官から言われたことがある。

「祈ったところで現状は変わらない。変えたいのならば実力を持って、行動するしかない」と。


軍隊らしい現実的な発想だ。だが上官は合わせて別のことを言った

「だが平和への祈りは無駄ではない。国民が願う平和への祈りは神には届かないだろう。だが、俺たちに届く。聞こえないだと?じゃあ聞いてこい。皆が平和を祈るからこそ、その願いが俺たちに国を守る使命を与えてくれるんだ」


その時は聞き流していたが今なら分かる。神に祈るだけでは足りないのだ……

「なあ魔理沙」と俺は言った。彼女は泣き腫らした目でこちらを見る。

その瞳には不安げな光が宿っていた……


「じゃあ俺にできることはあるか?」と言うと彼女は少し考え込んだ後、口を開いた。

「そうだな、拓斗には霊夢の手を握っていてほしいんだ」と言ったので俺はすぐに答えた。

「ああ、分かったよ」そう言うと魔理沙は微笑んでくれた。少しは元気になってくれたようだ。


---

それから1ヶ月後のことだった。その日は珍しく残業があり、俺が見舞いに行けなかった日だった。夕方頃に魔理沙から連絡が入ったので電話に出ると彼女は泣いていた。そして嗚咽混じりに何か言っていたがうまく聞き取れない。

ただ「れいむがぁ……」と言う単語だけは聞き取れた。俺は嫌な予感を覚えた。

軍の仕事を途中で投げるわけにはいかない。

「すぐ行くから待ってろ」とだけ言って俺は電話を切った。そして急いで仕事を片付ける。


「拓斗さん。そんなに急いでどうしたんですか?」

と後輩に聞かれたが、今は説明している暇はない。俺は作業を続けると、同僚が呟く

「もしや、お子さんが生まれたとか?」

何言ってんだこいつと思ったが思わず手が止まる。


「いや....実はそうなんだ」とうそをついてみる。

すると後輩くんは「なるほど!それはすぐに行かないとですね!」と言って仕事を手伝ってくれた。

少しの罪悪感はあったが、それは今度釈明することとしよう。


---

...結局病院にたどり着くのは夜中になってしまった

病室に入るも魔理沙はいなかった。

少し広い個室の中央にはベットがあり、いつも通り霊夢が寝ている。


「なんだ。何もないじゃないか?」

「霊夢」と呼びかけてみるが返事はない。

俺は少し安堵しつつ、霊夢の手を握る。

すると握った手が握り返されたのを感じた。

「なっ!?」俺は思わず大きな声を出してしまう。

気のせいか...?


そうして彼女の顔を見ると、ゆっくりと瞼が開く瞬間が見られた。

「霊夢!」俺は思わず叫ぶと、彼女は瞳を動かしてこちらを見た。

その笑顔はとても美しくて、今まで見たどんな表情よりも魅力的だった……


「....?」

「霊夢、ついに目覚めたんだな?」と聞くと暫く沈黙が訪れる。

そしてゆっくりと口を開いた……


「誰……?」

「うっ、、」

俺は絶句する。

まさか、俺のことを忘れるなんて……


「ハハハっ、そりゃそうだろうな」

突然扉が開くと、奥から魔理沙が出てきた。

その顔は涙に濡れていて、目元が赤くなっているのがわかった……


「なあ拓斗、霊夢はな、記憶喪失になったんだ。」と彼女は言う。

「……そうか」と答えるので精一杯だった。


頭が真っ白になって何も考えられなかったのだ……

そんな俺を見てか、魔理沙は再び口を開いた

「お前の名前も忘れてるし、私のことだって覚えてないと思うぜ?」と言ったので俺は思わず霊夢の目を見て呟く。

「なっ、魔理沙のことも覚えていないのか!?」


霊夢は悲しそうな眼をしていた……

魔理沙は俺の傍に来ると霊夢の手に触れる。その手は少し拒絶しそうにも見えたが、すぐに大人しくなった。

「なあ、もし私のことが少しでも思い出せたら、その時は私と結婚してくれ!」と魔理沙は言う。


「.....え.....」と霊夢は困惑気味だったが、一応

頷いたようだった。

俺はその光景を見ながら呆然としていた……

だが同時に、不思議と嬉しさも感じていたのだ。霊夢の記憶には俺との思い出は残っていないかもしれないが、それでも良いと思った。


「魔理沙……」と声をかけると彼女はこちらを向いたが、目には涙が溢れていた……

「くそっ、さっき散々泣いたのに。また泣いちまった。私、ずっと祈ってたんだぜ。

霊夢が目覚めますようにって。もう一度目を開いてくれますようにって」


そんな姿を見ていたら俺も思わず泣いてしまう。

「魔理沙、ありがとう。本当によく頑張ったな……」

と俺は彼女の頭を撫でた……

それから暫くの間、霊夢のリハビリは続いた。記憶こそ戻らないものの、身体的な機能は徐々に回復していった。


そんなある日のこと、霊夢が突然こんなことを言い出した。

「ねえ拓斗、、だっけ?」

「私ね、夢を見たの」と言ったので俺は興味を持った。

「へえ。どんな夢だ?」と言うと彼女は答えた。

「それがね、不思議な夢だったのよ。私がどこか知らない場所で、知らない人達と暮らしてるの」

「ふーん。どんな内容なんだ?」と言うと彼女は語り始めた……

---

霊夢の話によると、その夢では色々な事があったらしいが、特に印象的だったのは巫女になったという部分らしい。

なんでも夢の中で自分が巫女であることを思い出したのだという。

初めは戸惑っていたが徐々に受け入れることができたらしい。そしてなによりも嬉しかったことがあると言う。それは自分の隣にいた男性のことだ。彼はいつも優しく接してくれたらしく、それが何より心強かったそうだ。

---


「霊夢の巫女姿か、確かに見てみたいな」

と俺は呟く。

霊夢は少し恥ずかしそうにしながらも微笑んでくれたので思わずドキッとしたが、すぐに冷静さを取り戻した……

「ねえ、拓斗、私が記憶を失う前。あんたは私と恋人だったの?」

「えっ。それは..」


俺は言葉に詰まる。魔理沙のこともあるし、どう答えればいいのか分からなかったのだ……

「いや、違うんだ。俺と霊夢はただの友達だよ。それも言うほど親しくはなかったかな」と正直に言った。

すると彼女は少し残念そうな顔をしたが、それ以上追及されることはなかったのでホッとする……


---

それからというものの、霊夢の記憶は相変わらず戻らなかったが、それでも俺たちは幸せな日々を送っていた……

そしてついに、退院の日が来る。


俺と魔理沙は退院記念として霊夢を遊園地に誘った。俺たちはすでに25歳になる年だったが、霊夢は記憶が抜けているのもあってか十代さながらの振る舞いを見せる。


「すごいわね!」と霊夢が呟くと

魔理沙が嬉しそうに笑う。

「ああ、楽しいだろう?」と言うと霊夢は笑顔のまま頷いた。そして再び口を開くとこう言うのだ……


「拓斗って私のことが好きなんでしょう? 私も貴方のこと好きよ」と。俺はそれを聞いて驚くと心がドキッとする。

すると隣で魔理沙が複雑な嫉妬心を抱えて割り込んでくる。

「おいおい霊夢、今のは私に対する挑発か?」と冗談っぽく言うが目は笑っていない。

「さあ?でもあなたと一緒に居たら面白そうね」と霊夢が返すので魔理沙も思わず照れてしまう。


霊夢、魔理沙、拓斗、3人の関係はこれからどう変わっていくのか。

それはまだ誰も知らない未来である……

---END.

「霊夢、魔理沙、拓斗」の3人はその後どうなったか?という物語でした。

この物語はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係がありません。

また登場する人物の一部は東方Projectの二次創作です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです

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