4.突破口を探して
「32点だな」
初老の男が静かに筆を走らせ、得点シートに数字を書き込んだ。基将はその様子をじっと見つめるが、どうにも違和感が拭えない。
(32点……? 普通の麻雀なら点数のやり取りは1000点単位だが、こっちは違うのか? それに、放銃していない二人の点数まで減っている……?)
基将は訝しみながら、恐る恐る口を開いた。
「ちょっと聞いていいか? どうして放銃していない二人の点数も減るんだ?」
「何を言っている? お前、本当にこの国の麻将を知らないのだな」
若い女の将士が呆れたように眉をひそめた。
「この国では、局が終わるごとに場の者全員が点をやり取りするのが基本だ。和了した者は得点を総取りし、振り込んだ者は当然多く支払う。そして、和了しなかった者も一定の負担を負うのがこのルールだ」
「……なるほど」
基将は困惑しながらも、自分の知る麻雀とは全く異なるシステムであることを理解し始めた。つまり、単純に放銃を避けるだけではなく、全員の得点が局ごとに変動するため、常に和了を目指して動かなければならないゲームなのだ。
(考え方を変えないと、このゲームでは生き残れない……)
しかし、役の違いもある。点数計算の方式も違う。それに加えて、この《魔将の眼》」のスキルですら未知の役を見せられれば意味がない。
状況を見極める間もなく、次の局が始まる。基将は静かに牌を積み、山を整えた。
結局どんな役が何点なのかや細かいルールがわからないまま南4局を迎えてしまった。
ルールの分からない基将が上がれるはずもなく、点差は絶望的だった。
基将は改めて得点シートを見つめた。
現時点での得点状況はこうだ——トップが+151点、二着が+60点、三着が△13点、そして基将は最下位の△198点。
(俺の知ってるルールなら、これはもうほぼ逆転不可能な点差だ……だが、この世界の麻将ではどうなのか……?)
しかし、配牌を開いた瞬間、基将は一瞬目を見開いた。
(……索子ばっかり? 11枚!?)
驚きと同時に、少しの希望が生まれる。清一色は、基将の世界でも高得点の役。異世界でも通用するなら、まだ逆転の可能性があるかもしれない。
だが——この世界の役や点数計算は未知数だ。清一色がどのくらいの点数なのかさえ分からない。仮に上がれたとしても、今の点差を覆せる保証はなかった。
(……いや、考えている暇はない。俺にできるのは、ただ上がることだけだ)
基将は自分に言い聞かせ、索子の手を進めることを決めた。
手は順調に育っていったが、基将の頭の中は混乱していた。
(点数が分からない。清一色で足りるのかも分からない。だが、他の役はまるで理解できない……)
焦燥感が胸を締め付ける。いつもなら、牌効率や点数を計算しながら冷静に打てるはずの自分が、今はただ闇雲に進めるしかなかった。
そんな中——。
「ポン!」
女将士が声高らかに宣言した。
(筒子のホンイツか……? いや、まだ速さでは負けてないはずだ……)
初老の男は萬子123とピンズ222を鳴いている。河にはいろんな数牌が切られていて、自分から役牌はすべて見えている。自分の知っている役には該当する役が見当たらなかった。
(くそっ……理解できないまま、終わるのか?)
基将は歯を食いしばる。しかし、牌を握る手は震えない。
異世界だろうが、ルールが違おうが——ここは麻雀の場なのだ。
ならば、俺にできることはただ一つ。勝つために、全力で打つだけだ!
数巡後——基将は、ついに手を完成させた。
この3筒を切れば、清一色・平和・一気通貫のテンパイ。
(3筒は全員の現物だから、これで上がられることは絶対にない!)
しかし、牌を切った瞬間——。
「——フー」
静かに響いた声に、基将の心臓が跳ね上がる。
「なっ……!? ちょっと待て!?フリテンじゃないか!!」
初老の男が、冷静に牌を倒した。
「絶張和だ」
「フーチュエ....チャン?」
基将の頭が真っ白になる。
その瞬間——異世界の麻将の本当の恐ろしさを知ることになるのだった。
そろそろ、牌姿がないとイメージしにくい役が出てきましたね。
実際、200点負けからの絶張放銃はもう無理な日です。
基将、いつになったら覚醒するんですかね(笑)