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暴走

事件解決から数日後、真司たちはギルドで次なる依頼を待ちながら束の間の休息を楽しんでいた。朝の穏やかな光が窓から差し込み、ギルドの食堂では賑やかな声が響いている。


「ねえ、真司。このあと買い物に付き合ってくれない?」

リリィが軽い調子で声をかけてきた。


「買い物?何を買うんだ?」

真司が尋ねると、リリィは少し頬を赤らめた。


「その……新しい服とか、あといろいろ。」

目を逸らしながらのその一言に、真司の頭の中で別の想像が駆け巡る。


(……いろいろ?それってもしかして……下着とか!?)


真司の脳内は一気にフェチ心全開モードに突入するが、表情は必死に平静を装った。


「そ、そりゃもちろん付き合うよ!」

勢いよく答えた真司に、リリィは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「ありがとう。じゃあ昼過ぎに行きましょう。私はちょっと換金してくるね」


「おぅ」


リリィとの約束を控え、真司は荷物を置きに一足先にギルドの宿に戻ってきた。自分の部屋に入ろうとした瞬間、彼の嗅覚がまたも反応する。


「……なんだ、この香り……!」


少し開いたドアの隙間から香る甘美な香り。


「ゴクリ…」


真司は吸い込まれるようにドアを開け部屋に入る。


部屋の片隅に置かれた籠から漂う甘くて少しスパイシーな香り。鼻を近づけて確認すると、それは明らかに洗濯前の衣服の匂いだった。


(これは……!?)


嗅覚が強すぎる真司には、誰のものか一瞬で判別がつく。


「……リリィのだ……!」


甘酸っぱい汗の香りにほんのりとした体温の残り香。真司の理性は激しく揺さぶられる。


(駄目だ……!これはさすがにやりすぎだ……けど……一回くらい……)


彼はそっと籠の中の服を手に取った。そして鼻に近づけると――。


「……はぁっ……!」


全身に広がる甘美な刺激に、真司の理性は完全に暴走する。



その時、不意にドアが開いた。


「リリィ、忘れ物届けに――」


部屋に入ってきたのはフローラだった。手にリリィの荷物を持った彼女は、真司が服を嗅いでいる場面を目撃して固まる。


「……真司?!何してるの?」


「ち、違う!これは、その……!」


真司は慌てて手の服を籠に戻すが、フローラの目は鋭いままだ。


「リリィに言いつけるから。」


「待ってくれ!それだけはやめてくれ!」


「じゃあどうするの?」


フローラの冷たい視線に、真司は追い詰められる。しかし彼女の唇に微かな笑みが浮かぶのを見逃さなかった。


「……私のも嗅いでみる?」


その言葉に、真司の理性が限界を迎える寸前だった――。


「へ?」


フローラの「提案」を前に、真司の脳内は完全にフリーズ状態だった。


「いっぱい歩いたから蒸れちゃった」


そう言うとフローラは履いていたストッキングをスルスルと下ろし始めた。


「こーゆうの、好きでしょ?」


そういうとフローラはしっとり湿ったストッキングを真司の首に巻き付ける。


「……はぁっ……!フローラの…もう無…」



理性が崩壊しかけたその瞬間を救ったのは――リリィだった。


「真司ー!準備できた?」

リリィが部屋の外から声をかけてきたのだ。


「ざ、残念ですが……」

真司は小声で呟きながらフローラに必死の視線を送る。


「……しょうがないわね。」

フローラはため息をつき、リリィが怪しむ前にその場を去った。


真司は冷や汗を拭いながらリリィと合流した。



その日の午後、ギルドの掲示板に張り出された新たな依頼を見つけた真司たち。


「村の子供たちが行方不明?それに魔物の目撃情報か……」

リリィが真剣な表情で依頼書を読み上げる。


「行方不明って……危なそうだな。でも、ギルドポイントは高いぞ。」

真司が依頼書を覗き込みながらつぶやいた。


「やるわよ、もちろん。子供たちを助けるためにも。」

リリィの決意に、フローラも静かにうなずく。


「真司、あんたも行くんでしょ?」

フローラがジト目で問いかける。


「も、もちろんだよ!」


「お前らを守るのも俺の仕事だしな。それに、嗅覚スキルなら何か手がかりが見つかるかも。」


行方不明の子供たちを捜索するため、一行は依頼に記された森へと足を踏み入れた。森の中には湿気を帯びた空気が漂い、木々の間から差し込む光が幻想的な雰囲気を醸し出している。


「真司、嗅覚スキルで何か分からない?」

リリィが頼もしそうな目で真司を見つめる。


「ちょっと待って……」


真司は目を閉じ、嗅覚スキルを全開にする。湿った土や葉の香りが広がる中、ふと異質な匂いを感じ取った。


「……あれは……血の匂いだ。」


一行は真司の嗅覚を頼りに森の奥へと進む。やがて見つけたのは、小さな足跡と血痕が混じった地面だった。


「これ、子供たちのものかしら……」

リリィが眉をひそめる。


「いや、待て。この匂い、どこかで嗅いだことがある……魔物だ!」

真司の叫びと同時に、茂みの中から獰猛な牙をむき出しにした狼型の魔物が飛び出してきた。



リリィが素早く剣を抜き、フローラは魔法の準備を始める。真司は鼻を頼りに魔物の動きを読んで、仲間に指示を飛ばす。


「左にもう一匹隠れてる!リリィ、そっちを警戒して!」


「分かった!」


リリィが華麗な剣さばきで魔物を牽制し、フローラの火球魔法が命中して茂みを焼き払う。


「真司、次の位置は?」

フローラが真司に尋ねると、彼は鼻を動かして集中した。


「右前方、10メートル!まだ匂いが強い……複数いるかも!」


鼻の力で戦況を把握する真司の指示は的確だった。次々と襲いかかる魔物を撃退し、ついに全てを倒し終えたとき、一行の額には汗が光っていた。


「ふう……なんとかなったな。」

真司が胸をなでおろすと、リリィが彼の肩を叩いた。


「すごいじゃない、真司。嗅覚スキル、やっぱり頼りになるね!」


「だろ?まあ、俺の鼻は世界一だからな!」

真司が得意げに笑うと、フローラはニヤニヤしながら彼を見た。

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