香りの誘惑と黒幕
森の奥、小屋の中で三人の前に現れたフードの人物。暗がりの中でその瞳だけが光り、不気味な存在感を放っている。
「お前たち、俺の小屋で何をしている?」
その声は低く威圧的だが、微かに不安定さが感じられた。
「この小屋に残っていた香りから分かったんだ。この事件、全部お前が仕組んだことだろう!」
真司が一歩踏み出し、鼻を鳴らしながら詰め寄る。
フードの男は一瞬怯むように見えたが、すぐに薄笑いを浮かべた。
「俺が何かをしたと言う証拠でもあるのか?」
「証拠ならあるさ。この匂いだ。」
真司は男を指差し、その声に自信を込めた。
「匂いだと?」
「あぁ、お前の服に染み付いた甘い香り。これは例の薬に使われる植物の匂いだ。そしてお前の手には血の匂いがする……家畜を襲ったのもお前だな?」
男の顔が一瞬強張り、腰の短剣を抜こうと構える。
その時、フローラが静かに呪文を唱え、男の身体は硬直した。
「くっ…」
「今よ!真司!リリィ!」
「お、おぅ!」
2人は男を縛り上げ男は反撃する間もなく動きを封じられた。
「ぐっ……ちくしょう!」
男を捕らえた三人は、男を問い詰めた。
「なぜ魔物を生み出すような薬を作っていた?」
フローラが問い詰めると、男は苦しそうに答えた。
「俺はただ……依頼を受けて作ってただけだ。」
「依頼?誰から受けた?」
「誰だかは知らねぇ。妙な香りがする奴だった事以外は覚えゃいねぇ。」
妙な香り――その言葉に真司の嗅覚が敏感に反応する。
「どんな香りだ?」
真司が鋭く聞き返すと、男は答えた。
「甘ったるくて、けどどこか冷たい感じの香りだ…ひでぇ匂いで吐き気がしたが金のためだ。」
その瞬間、真司の脳裏にある記憶が蘇った。
(甘ったるい匂い……多分この町に入った時、微かに漂ってたやつだ。)
やはり黒幕は存在している。
そう確信した真司は、リリィたちの不安そうな顔を見て次なる手掛かりを追うべく再び嗅覚を研ぎ澄ませる決意をした――。
町に戻り、捕らえた男をギルドに引き渡した後、リリィが口を開いた。
「ねぇ、真司。」
リリィがふと足を止め、彼をじっと見つめた。
「どうしたんだ、急に?」
「あなた、最近よく頑張ってるじゃない?」
リリィの顔には微笑みが浮かんでいたが、その目はどこか挑発的だった。
「だからさ、ちょっとくらいご褒美あげてもいいかなって思って。」
「ご、ご褒美って……?」
リリィは真司の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「あなた、私の匂いが好きなんでしょ?」
突然の言葉に真司の心臓が跳ね上がる。
「い、いや、別にそんなことは……」
「嘘つかないで。ほら、嗅いでいいわよ。」
リリィは腕を軽く上げ、真司に近づけた。汗が微かに香るその脇に、真司の嗅覚が敏感に反応する。
「ちょ、ちょっと待て!本気で言ってるのか?」
「そうよ。いつも助けてもらってるし、これくらいならいいかなって」
リリィの口調は冗談めいていたが、その目は真司の反応を楽しんでいるようだった。
(くそ……こんな状況でフェチ心を暴発させたら、男としての尊厳が……!)
真司は必死に理性を保とうとするが、鼻が勝手に反応してしまい、思わず深く息を吸い込んでしまった。
「はぁっ……!」
リリィの香りが脳内を駆け巡り、真司はその甘美な刺激に一瞬意識が遠のきそうになる。
「どう?いい匂いだった?」
リリィが笑みを浮かべながら腕を下ろした。
「お、お前、これ絶対わざとだろ……!」
「さて、どうかしらね?」
リリィは少し耳を赤らめながら真司の反応を楽しんでいた。