嗅覚スキル、初めての事件解決
リリィの家で香りに翻弄され続けた真司だったが、ようやく心を落ち着けた頃、店の扉が慌ただしく開いた。
「リリィ!またあの魔物が出たんだ!」
入ってきたのは町の青年で、額には汗を浮かべ、焦りの表情を浮かべている。
「魔物が?それってどこで?」
リリィも緊張した面持ちで立ち上がった。
「東の森だよ。昨夜から家畜が次々と襲われてて、今朝も羊が数匹やられたんだ。村のみんなも困ってる。」
「……またあの魔物か。」
リリィの顔が曇る。
真司は話を聞きながら興味を抱いた。
「東の森の魔物ってなんだ?」
「ここ最近出没するようになった狡猾な魔物よ。決して大人の人間の目の前には姿を現さず非力な家畜や子供ばかりを襲うの。何処に潜んでるかすらも分からないわ」
リリィの言葉に、真司の嗅覚スキルがひらめく。
(俺のこのスキルなら、魔物の居場所くらい嗅ぎ分けられるんじゃないか?それに、何か手助けして感謝されれば、リリィの信頼も得られるかもしれない!)
真司はすっと立ち上がると、下心と共に不敵な笑みを浮かべた。
「任せてくれよ。この俺が魔物を見つけ出してやる。」
次の日、真司はリリィや青年たちと共に東の森へと足を踏み入れた。
「真司、嗅覚スキルってどれくらい正確なの?」
リリィが心配そうに尋ねる。
「どのくらいかって?んーまー、動物の匂いだけじゃなく、感情や状況まで嗅ぎ取れるって言ったら信じるか?」
「そんなにすごいの?」
リリィの目が輝く。
「まあ、これでも鼻はプロ級だからな。」
真司は鼻をすすりながら得意げに答えたが、その背後ではまた彼女の柔らかな体臭が漂い、彼の内なるフェチ心をくすぐっていた。
(くっ……いかん、仕事に集中しろ!リリィの匂いに溺れるのは後回しだ!)
森を進むと、やがて獣の足跡や異様な匂いが漂い始めた。
「この匂いだ……湿った土と血の臭いが混ざってる。」
真司は嗅覚を研ぎ澄まし、匂いの源を追跡する。
「あそこだ!」
ついに、魔物の姿が現れた。巨大な狼のような姿をしたその生物は、鋭い牙をむき出しにして威嚇している。
「こいつが魔物か……!」
リリィや青年たちは恐怖で立ちすくむが、真司は冷静だった。
(この匂い……どうやら弱点があるな。右前足が怪我をしてる。それに、この香りは何か異常がある。)
真司は咄嗟に叫んだ。
「リリィ!あいつの右前足を狙え!」
リリィは驚きながらも、持っていた弓を構え、魔物の足元に矢を放つ。見事に命中したその一撃で、魔物は大きな鳴き声を上げ、その場から逃げ去った。
「すごい……本当に右足が弱点だったんだ!」
リリィが感嘆の声を上げる。
「まあな。俺の鼻は嘘をつかない。アイツも隠れ家まで人間が攻めてきたとあれば村にも近づかないだろう」
真司は鼻をすすりながら不敵に笑う。
その夜、無事に魔物を追い払ったお祝いに、リリィは家で真司に手料理を振る舞った。
「本当にありがとう。あなたのおかげで助かったわ。」
リリィが優しく微笑みながら、真司にお茶を差し出す。
「おいおい、そんなに感謝されると照れるだろ。」
真司は軽口を叩きながらも、内心ではリリィの香りに再び意識を奪われていた。
(さっきの戦いで流した汗の香りが、まだ微かに残ってる……これがまた…)
彼は不意にリリィの近くに寄り、首筋を確認するふりをして囁いた。
「リリィ、さっきの魔物の戦いで怪我はしてないか?」
「え?ううん、大丈夫よ。」
真司の嗅覚は、ただ怪我の有無を確認するためではなかった。彼は完全に、リリィの香りを楽しむためだけに近づいた
(くっ……甘い。甘すぎる。俺の嗅覚スキルはやっぱり最高だ!)