プロローグ:変態高校生から異世界へ
〜放課後の教室〜
「おい、真司!また変なことしてるだろ!」
教室の片隅から、友人であり生徒会長の健二が呆れたように声をかけてきた。
「変なことってなんだよ?」
真司は机に突っ伏しながら、すっと首を上げる。その手には、女子生徒が体育の後に脱ぎ捨てた体操服が握られていた。
「いや、それだよ、それ!お前、本気で犯罪者一歩手前だぞ!」
健二は半ば怒り、半ば呆れたように指をさす。
「うるさいな……俺はただ、甘美な香りを嗜んでいるだけだ。」
真司は真顔で答える。その目はどこか遠くを見つめ、芸術家のような陶酔感すら漂わせている。
「いーか、健二!エリートのお前には分からないかも知れないが女子の汗の香りってのはな、「努力」の結晶なんだよ。ただの汗じゃないんだ。それを嗅ぐことで努力の素晴らしさと世界平和の教えを神に問うているんだ!」
「……知らねえよ、そんな哲学!」
健二は頭を抱えたが、これ以上何を言っても無駄だと悟り、舌打ちしながらその場を去っていった。
ピロン♪
「ん?姉ちゃんからのメッセージだ」
「ゴメン、今日帰り遅くなるから夕飯何とかして」
両親は俺が中学の時に事故で他界した。
以来は祖母が面倒を見てくれてはいたが、高齢という事や俺達の進学の事など色々な事情で一緒に暮らす訳にはいかず基本的には姉との二人暮らしが続いている。
「しゃーない、コンビニで弁当でも買って行くか」
真司はいつもの帰り道とは反対方向にあるコンビニに向かい歩き始めた。
「家の近くより駅側の方が品揃えいいよな多分」
「らっしゃーせー」
やる気の無い店員の声は無視して弁当コーナーへと向かう。
「あったあった、チキンタツタ弁当」
弁当を持ってレジに向かおうとした時、商品の陳列棚がカタカタと揺れ出したのに気が付いた。
「ヤバくね?」
店員の声が聞こえた瞬間、突如としてトラックが彼の目の前に突っ込んできた。
反応する間もなく、彼の体は宙を舞った――。
次に目を覚ましたとき、真司は見知らぬ風景の中にいた。
「ここは……どこだ?」
周囲を見渡すと、青い空と広がる草原、そして見慣れない服装をした人々が目に入る。どうやら異世界に転生してしまったようだ。
「まじかよ……俺、死んだのか?」
身体はどこも痛まないがコンビニのあの瞬間だけは鮮明に覚えていた。
状況を理解するまでに少し時間がかかったが、真司はある変化に気づく。
真司が最初に気づいたのは、その嗅覚の鋭さだった。
「なんだ、この匂い……風の中に花の香り、草の匂い、土の湿り気……全部が鮮明にわかる。」
その驚異的な嗅覚は、動物すら凌駕するものだった。遠くに隠れている獣の存在や、水源の場所、さらには人々の感情の変化すら匂いで感じ取ることができた。
「これ、もしかして……俺、今、めちゃくちゃすごい能力持ってるんじゃね?」
そう思った矢先、異世界の少女たちと出会うことで、彼の能力は別の方向へ覚醒する――。